新興国スタートアップの財務を通じて学んだこと
Evernoteの整理をしてきたら、今年の3月ごろにコロナ禍の直撃を受けつつ、資金調達のクロージングに悪戦苦闘していた時期のメモが出てきたので、紹介してみたい。
結果的にアフリカの農林業系スタートアップとしては最大規模のSeries Bを調達できたものの、日次でキャッシュを調整しながら、ギリギリの線でプロジェクトを進めていた当時の考えは今振り返っても参考になることが少なくない。
「新興国のスタートアップが失敗する15のパターン」で書いたように、新興国スタートアップにはオペレーションから人事に至るまで、さまざまなハードシングスが待っている。
スタートアップという事業形態が一般的ではない新興国において、財務が考え抜くべき究極の指標はCash in the Bank Accountであり、成長に向けた戦略策定も含めて、いかに会社にキャッシュを生めるか、Jカーブを補う資金調達ができるか、を考える必要がある。
狭義にはキャッシュマネジメント、広義には事業戦略を担当しうる、幅の広い役割を財務は担っていて、一般的にはCFOがここまでカバーしたり、CSO・COOが経営企画的にリーダーシップをとったり、CEOがビジョンの延長として考えたり、とチームで能力的に余裕がある人がみているケースが多い印象。
自分自身、まだまだ完成からは程遠く、毎日のように自分の非才に慄然とするのだけれど、書いてみてわかることもあるので、若干ダークな内容も含めてリストにしてみた。
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常に複数のオプションを持つ:プロジェクトを多数同時並行で抱えるのは、仕事の常だ。とりわけ、スタートアップにあっては、新しくできる工夫は無限にあり、むしろ自分の職域も含めて作っていくことが求められる。その際に考えるべきは、そのプロジェクトが「アップサイド」なのか、「ダウンサイド」なのかの区別。Upside Takingなプロジェクトは、とにかく長期的に粘りづよくボールを前にけり続ける必要があり、定期的にマイルストーンを作って進捗を促していき、ゴール手前になった時に一気に案件として仕上げていく。コンサル系の調査や、パートナーシップや、ガバナンス系の改善などはこのカテゴリー。一方、Downside Protectionな案件では、失敗=死なので、選択肢の手数を増やし、Decision Treeを作って常にシナリオを見直し、最善手を打ち続ける。常に複数のオプションを持つことは、アップサイドにおいては非線形的な成果を上げるための仕込みとして重要で、ダウンサイドにおいては失敗のリスクを下げ、打ち手の柔軟性や計画の冗長性を高めてくれる。アップサイドとダウンサイドの区別をあえて明確にするのは、すべての論点に複数のオプションを持とうとすると、プロジェクトの数が一気に増えて優先順位がつけにくくなるからだ。アップサイドは忘れない程度、ダウンサイドは毎日確認、そんな感じで進めるのがよいのではないか。
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自分は何も理解していない前提に立つ:社内では信頼に足ると思われるためにも、何を聞かれても即答できるようにしているべき。ただ、それは外向きの話であり、内向きには常に自分の未熟を忘れず、何もわかっていない前提で勉強を続けないといけない。そのためにネットで情報を拾い、専門書を読み、メンターに助言を求める。わかるようになった気にならないことが、時間を経るほど大切になる。
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当てにしない:社内外問わず、あてにしない。他責にしない。結果に責任を負い、できないことは理由を理解して(追及しない)解決する。とてもシンプルなはずなのに、意外とみんな外に理由を求めたがる。
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とりあえずチームに投げてみる:仕事にこだわればこだわるほど、考えたいことが増え、自分の実行・影響できる量との乖離が広がっていく。思い切って課題ごと放り投げる勇気も大切。じゃないと一人事務所になってしまう。
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徹底的に言語化、徹底的に管理:アカウンタビリティとか、思考とか、難しいことばかり言っても、できないときはできない。だから、「イマイチわからない」とか「混乱してきた」と感じたら、言語化を依頼する。大体、行き詰っているのは状況認識からして整理できていない。現状が整理できれば、課題が明らかになり、課題が明らかになれば打ち手が見えて、打ち手が見えればアサインと検証、管理ができる。むしろ、表面的に整理されていても打ち手まで見えない時は、それは「整理」ではなくて、片付けの苦手な人が引き出しに机のものを突っ込んで隠すのと同じだ。
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思考量・情報量・行動量で圧倒する:仕事はポジションではなく成果が決めてくれるもの、というのは商社時代の先輩に教わった言葉。相手が専門家であれオペレーションの部門長であれ、思考・情報・行動のいづれかまたは複数で相手よりも上位に立つ。そうすることで、「門外漢」であっても、意味のある提案ができる。その準備を淡々とし続ける。アンテナを常に立てて、瞬発力高く情報収集し、整理し、発信する。そうすることで、仕事上のパワーをEarnすることができる。
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現場との信頼関係に投資する:組織のこと、案件のこと、人事のこと、ゴシップなど話題になっていることなど、「知っていること」は職業上の義務。ただ、これを毎回聞いて回るのは効率が悪いので、現場から自然と情報が回ってくるようにしておく必要がある。まずは相手に案件でも情報でも手土産を持っていくこと、Giveを重ねていくのは会社の成長にもプラスになるし、個人の信頼関係にも資産を生む。
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Feared than Loved:仕事上の人間関係は慣れ合いになりがち。相手の考え方も気になりがち。ただ、ファイナンス含め、専門性のある仕事をする以上、最後は腹をくくって正しいと信じる提言を通す必要がでてくる。そのためには、日々仲良くしていること以上に、その領域で十分な準備をし、圧倒的な成果を出し続け、必要とあれば公開の議論で戦うことも辞さない。社内外問わず、リスペクトは生まれるものではなく、勝ち取るもの。
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短期の柔軟性と長期の頑固さ:カオスに対処する際に、短期的な施策についてこだわらない。多少遠回りをしても、周りが動きやすい施策をとる柔軟性を持つ。それでいて、短期の柔軟性が長期のビジョンに反しないよう、長期の目線で軌道修正を頑固にする。ほとんどの人は、短期の施策にこだわっているので、長期のビジョンベースで逆算された軌道修正には意外と反応が良かったりする。もちろん、危機的状況に対処する場合は、一手一手が大切なので、徹底的に管理する。
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経営者からの信頼と戦い:ちゃんと仕事をして信頼を勝ち取ったうえで、きちんと苦言を伝える。職業上の役割を果たす。