気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

新興国のスタートアップが失敗する15のパターン

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新興国でプレーするなら、まず現地で仕事をしてみることを勧めている。

日本での就職相談やキャリア相談とは違って、ケニアを始めアフリカは環境の変化が激しいし速い。

なので、1万キロ離れた日本にまして日本語で情報が伝わるころには、状況が変わっているというのがほとんどで、ましてそこで日本企業的なゆっくりとしたペースで企画を練っていたのでは、とても歯が立たない。

当地に裸一貫で乗り込んで起業している方々は、本当にすごいと思う。

日本などでの安定した仕事をかなぐり捨てて、泥臭く現場に入って、数年かけてPMFをしていたりするのがザラで、辛抱強く異国の地でビジネスを作っていく姿勢に頭が下がる。

 

さてさて、前置きが長くなった。要は現場に行くと、みんないろんな事業の話をしていて、ゴシップに聞き耳を立てているだけでも勉強になるよね、というのが今回のブログの趣旨。

思い付きでツイートしたら一晩でいいねが50集まって、しかも業界関係者の方も多いので、若干ビビりながらもタイトルの通り、ナイロビのスタートアップ関係者とのゴシップ談によく出てくる失敗パターンを書きだしてみた。

関係者の間では「あ~、それは難しいかもね~」となるものの、意外と避けるのが難しいトラップで、完全に無縁な事業はあまりない気がする。

ただ、リストにして振り返る、自己点検にはいいのではないかと思う。

  1. 先進国でウケるような事業を目指す:飛び込むにあたって仮説はあったほうがいい。ただ、国際機関のレポートを鵜呑みにしたり、開発界隈のカンファレンスでウケの良いバズワードに引きずられて事業をすると、高確率でうまくいかない。現場で何かできない障害があるから、国際機関のような非営利組織がかかわるようになっている、と疑ってかかったほうがいい。あとアフリカの人口のXパーセントはとかも、先進国のように消費者や市場がつながっていないので、あまり意味のない統計だったりする。仮説をもって飛び込むのはいいことだけれど、先進国目線の仮説設定がそのまま課題設定になるとは思わないほうが良い。フィードバックはマーケットから得るべきであり、出身地で応援されることをフィードバックと勘違いしてはいけない。
  2. 原体験重視のため目の前の質を追求してスケールできない:スケールする必要は特にないので、地域密着型の手厚いプログラムというのもアリだと思う。一方、投資家に向けて語っていた原体験がだんだん自己暗示になって事業そのものが向かっている課題の多様性を見逃したり、目の前の質にこだわって自分が直接コントロールしないといけないチーム構成になったりすると、伸ばすのが難しい。当たり前のようで、結構よく見る落とし穴だ。
  3. 同質のチームで立ち上げて自然消滅する:仲良しグループでつるんでスタートするプロジェクトは刺激的だし、一体感もある。ただ、熱しやすくて冷めやすいという面もあり、また最終的にスケールしていく中で誰がリーダーになるのかでも揉めたりする。血みどろの争いになることはまれで、むしろだんだん仕事が大変になってくるにしたがって、ひとり、またひとりと抜けていったりする。誰もが知っている起業家と話したら、実は共同創業者が4人いた、とかはよく聞く。役割分担をいきなり決めるのは難しくても、意図的に多様性を高めて専門別に振り分けができると理想的。
  4. エコノミクスが回らない:アフリカはじめ新興国はとにかく何をするにも手間がかかり、時間がかかる。なので、たとえユニットエコノミクスが回っていても、進捗が遅れる確率が高く、キャッシュには余裕が必要。ぎりぎりのグロースストーリーは資金調達には必要かもしれないが、きちんと第二のストーリーをもっておく必要がある。前にも書いた気がするけれど、テクノロジーに依拠しない。
  5. アクセルのメリハリがなく、中くらいのまま:NGOにするかビジネスにするか、はケニアのみならずアフリカ起業あるあるな質問。小さい規模で仮説検証したり、目の前でコントロールできる範囲内で質の高い事業をするためなら、営利・非営利はあまり関係がなかったりする。一方で、成長するとなると、チームに投資する必要があり、まとまった資金が必要になるので、会社にしていくことになる。会社にしてからも、ローカルでうまく小事業を立ち上げて回してポートフォリオにするのか、一本柱を立てて多国展開を視野に入れるのかで、先行投資の規模もグレードも変わってくる。たまに目にするのが、本人は大きなビジョンを語っているのに、目の前のコントロールに気をとられてチームや設備への投資に向かって舵をきれないパターン。本人の期待や器以上の事業をやる必要もないが、圧倒的スケールを語っているからには、ある程度先行してリスクをとる必要がある。
  6. 次のレベルの相手と話ができない:資金調達に限らず、急成長するベンチャー経営陣は常に今の組織に見合った能力だけではなく、次のフェーズに見合った能力を身に着けている必要がある。採用であれば、小さなビジネスでしかない時に、グロースフェーズに足る人材を口説かないといけないし、資金調達であればインパクト投資家やドナーよりも難易度の高い投資家に話を持ち込まないといけない、営業であれば今のキャパシティを超えた投資を可能にする顧客にぶつからないといけない。事業のレベルはそこに集まる人のレベルによって制約され、とりわけ最初から最後まで会社とともにいるファウンダーチームの成長は線形的ではなく、段階的、非線形的である必要がある。大前研一の場所を変えるか、付き合う相手を変えるか、時間配分を変えるか、でいえば、時間配分と付き合う相手が変えられるように、自分を変えていくべき。
  7. 高度・複雑すぎる:先進国は時間を失わないため、競合に先んじるため、スピード重視で同時進行で様々なプロジェクトを走らせているのが普通かもしれない。ただ、先進国のノリでの成長は、人材確保の点でも、不確定要素の多さでも、ほぼ不可能に近い。ハンズオンするためには現場の近くにいないといけないが、経営リソースを拡張して振り分けるには先進国にもう片足を突っ込まないといけない。そんな環境で、すべてのピースが時間通りにそろわないと起動しないビジネスというのはリスクが高い。事業環境として、いろんなところで障壁があり、当たり前を当たり前にするためのインフラ作りがしょっちゅう必要なアフリカのビジネスで、必要な開発を最小限にしていく努力は、ROIが高い。アーリーとグロースのはざまで、厳しい選択を迫られることも少なくない。
  8. ロジを見過ごす:何度も書いている気がするが、アフリカはあらゆる当たり前が当たり前ではない。マーケットに出せばユーザーが集まることもないし、プログラマーがうろうろしているわけでもないし、支払いの決済が安定しているわけでも、そもそも預金の通貨も安定してはいない。だからこそ、先進国の「これはイケる」という感覚に、いったん立ち止まって「本当にロジは回るだろうか?」と冷めた目を向けてみる必要がある。
  9. 「マーケット」を作らないとアクセスできない:製品が良くてマーケットの感触が良いために、事業が一気に拡大する、いわゆるPMFの瞬間は、先進国のように急激には訪れない。なぜなら、製品を載せるプラットフォームがなかったり、確立されたサービスの拡大チャネルがないから。先進国にいると、誰かが営業して開拓したセクターの一部に乗っていることがほとんどだけれど、新しい領域を新しい地域にパイオニアとして広げるスタートアップは、時としてそうした巨人の肩に乗ることができず、市場開拓というか市場・業界作りそのものにリソースを割かねばならない。
  10. 課題が見えなくなる:スタートアップにもつきものの、課題意識の喪失。スケールしたり、技術開発したり、資金調達したり、事業が軌道に乗ると一気にやることが増える。そうすると、全員が目の前の目標に走っていて、全体を貫くテーマや課題意識が見えなくなるということがある。常にだれかが見ているというのはスタートアップの性格上難しいので、きちんと節目を作って正しい課題に、正しい優先順位で取り組んでいるのかを定期的にレビューする必要がある。
  11. 政府やステークホルダーからの妨害に遭う:笑えないけど結構ある。Disruptされるのは誰もが嫌なので、儲かっている事業や領域こそ、きちんと政府やステークホルダーを味方につける必要がある。大きなアナウンスをするときは政府関係者を招いたり、花を持たせてあげる。規制や法律だけではなく、人をインターフェイスとした介入に備える。むやみに宣伝しない。国内でそれなりに規模のあるNGOなどがボードやGovernment Relationsに起用しているのがどんな人材か見極めて、模倣する。
  12. ローカルマネジメントとの関係性が悪化:この記事は外国人がアフリカで起業する前提で書いているので、やはり触れておく必要がありそう。現地に根差した事業を作るために、パートナーを探すのは急務。国によってはBoardへのローカル人材の採用を求めていたりするので、実際に仕事上必要かどうかは別としても、ローカルで信頼できるマネジメントチームなりステークホルダーの母集団形成ができるかは、中長期で事業のアキレス腱になる。ミスると訴訟になったり、創業した会社のコントロールを失ったりする。
  13. ガバナンスの崩壊:言うまでもないですが、賄賂や不正などのリスクはあちこちにあるので、大規模なやらかしがあったり、隠蔽されたり、投資家の信頼を失う状況になると店をたたむことになる。とくに、投資家のLPに財団や開発銀行など公共性の高い資金が入っていると、政府の汚職などは一発アウト。多少のトラブルは仕方がないので、そのあたりはきちんとレポートする。
  14. Rule of LawなのかEnforcementなのか:当地にいる人はもはや読み流してほしい、違法だからと言って抑止されているわけではない、というありふれた事実。外国人はただでさえも立場が危ういので、自社でリーガルリスクがありそうな場合は当然顧問弁護士に意見を求める必要があるが、法律が自社を守ってくれると考えるのは危険。たとえ法律があっても、行政機関が黙殺することもあれば、下手したらステークホルダーがグルになって利権をかこっていたりする。法律をバックストップにすると、底が抜ける。
  15. 先進国と似た課題を同じテクノロジーで解決する:スタートアップには必ずと言っていいほどストーリーがあり、解決しようとするペインがある。ただ、数歩下がってみると、中長期的に苦しいケースが多いのが、先進国モデルの輸入である。ひとえに先進国モデルといっても、基礎インフラや生活上のペインは先進国でもコモディティ化している普遍的なサービス・商品であることが多い。コモディティ化されたペインは事業価値をつけやすい。一方、Uberのようなモビリティ、その他世界で見て最先端のテクノロジーを扱う場として、新興国を選ぶのは、ROIの原理原則を考えた上にすべきだ。というのも、技術の先端性を競うのであれば、基本的に投下できる資金量が多いことが(規制がないなど一部のリープフロッグ環境を除けば)勝利のドライバーになる。であるならば、同じ顧客の同じ量のペインを解決したとして、顧客あたりのLife Time Valueが高いのはほぼ間違いなく先進国であり、新興国ではない。(いうまでもなく、顧客あたりLTVが高いということは、中国のようなマーケットを除けば、TAMが大きく、バリュエーションもつきやすく、資金調達もしやすく、事業拡大もしやすい)とすると、同じ組織を作って同じオペレーションを回して同じだけのサービスを提供して得られる収入、すなわち投下可能資金は先進国の方が構造的に常に高くなる。しかも、先述の通り先進国と同じレベルのスタートアップを新興国で作るのは並大抵ではない。したがって、ドローンやフィンテックのように実証実験のハードルの低さなどを理由にしない限り、先進国のスタートアップとガチンコ勝負するのは、分が悪い。最終的に先進国のメガベンチャーに売却するのが目的でない限り、とりわけアフリカはインプット(資金、人材、LTV)とアウトプット(質の担保、オペレーションのハードルなど)の両面で厳しいのではないか。これは完全なる僕個人の仮説なので、賛否両論コメント大歓迎です。

深い深い自戒を込めて。また新しいパターンにであったら、追記します。