気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

2023年「Black Outの年」から2024年「Build, Build, Buildの年」へ

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今年もやり尽くした感と、もっとやってやりたい感が、混在する年末を迎えています。

30歳を過ぎたころから、周りが生活の上でも、仕事の上でも落ち着いてくるタイミングで、こうしてゼロベースの挑戦ができているのはありがたいことです。

MBA後は20年かけて一つの仕事を成し遂げたい、そのテーマを見つけるためにスタンフォードに行く、と宣言してきた通りになりつつあります。

やりたいことを全部やるのは無理がありますが、What Mattersに忠実に、2024年も頑張ります。

 

2023年「Black Outの年」

スタンフォードに入学してまもなく参加したセコイアのDoug Leoneの講演会で、気候変動のようにブームになっている領域で起業家は何をベンチマークすべきか、という質問をした時の答えが、”You should black out"というものでした。

今何が起こっているにせよ、公開されているプロジェクトは、12‐24か月前から誰かが仕込んでいるのだから、キャッチアップしても間に合わない。

だから、市場にばかり目を向けるのではなく、自分の世界で何が必要なのか考えて、ユーザーとプロダクトだけに向き合うべき、というメッセージだと理解しました。

 

詳しくは、年初のブログに書いています。

 

その通りだな、と思ったことは素直にやる性格です。

なので、その通りにやりました。

MBA2年目になって特に感じるのは、機会が濁流の如くぶつかってくるスタンフォードでもっともやりがちなミスは、全部やろうとしたり、「いいかも?」で試してみることです。

仮説を絞って、短時間で仮説検証と入れ替えをしていかないと、いろいろやってなんも進まない状態になります。

1年目の中盤から起業する同級生やいろいろなプロジェクト・課外活動で注目を浴びる人たちが出始めて、それなりに焦るわけですが、原理原則論をマーケットの感情に優先する点だけは、守り抜けたと思います。

世界で最も優秀で向上心があり、野心とエゴもすさまじい人たちが集まるスタンフォードでは、才能も実績も名声もコモディティです。

希少性をもちうるのは、一貫性と信頼ではないかと最近つとに感じます。

 

もともとボッシュ財団のフェローシップで、気候変動のガバナンスについて議論していた時に白熱して興味をもった「水と気候変動」をテーマに、「大きな構造としてこの20年継続して成長する可能性が高く、この2年でも事業化の端緒をつかめるもの」を探してきました。

  • 1-3月:”Business of Water”の授業を履修。教授と仲良くなりつつ、水というテーマの重要さを確認。ただ、どうやってビジネスベースで検討すべきか悩み、自分の事業経験が活かせる農業を当面の仮説とする。Knight Hennessy Scholarsのプレゼンセッションで「水と農業と適応」というプレゼンをしたのを皮切りに、スライド数百枚分のベースリサーチをして業界間を掴む。
  • 4-6月:Project Mizu発足。Twitterでリサーチパートナーを募集したら、40人近いメンバーが集まり、急遽プロジェクトを単なるリサーチからディスカッション形式の知的創造へ切り替える。夏休みをインターンせず済むよう、スタンフォードのEcopreneur Fellowに応募し、無事選出される。
  • 7-9月:Knight Hennessy ScholarsのGlobal Tripでインドに行き、国務大臣やインドIT業界の父で英国スナク首相の義父でもあるInfosys創業者のナラヤナ・ムーティ氏とのディスカッションで、インドのエネルギーに圧倒される。現地のAg Startupの創業者めぐりをして、スタートアップのイノベーションは技術とビジネスモデル、ファイナンスモデルの3方向で存在することを再認識する。夏は延々とインタビューを繰り返し、仮説をぶつけては修正する。同時に、15週間に及ぶZoomワークショップで、水と農業と適応に関するほぼすべてのソリューションを業界図として作る。
  • 10-12月:夏の間のリサーチをプレーブックとして発表。一般論として、スタートアップ初期のリサーチへの過剰な時間投下は悪手なるも、保守的な水・農業においては、信頼獲得・マーケット参入のために足掛かりが必要と考えて断行。11月からは事業構想の立案に本腰を入れて、チームを組成する。レポートの反響が、Climate VCやスタンフォードの研究者などから集まって、紹介だけでチームが組成される。

怪我したり、倒れたりもしましたが、何とかやり抜きました。

"Stanford-Pull”といってもいいくらい、ちゃんと考えて発信した結果は、ちゃんとついてくる、とてもありがたい状況です。

Iterationは大事でありながらも、Climateは理論をきちんと理解したうえで、設計された思考と実験があれば、ほぼ回り道なしで直線的にFennelをしぼめられると思います。

我々のチームの場合、ベン図のサークルを徐々に絞り、フィルターを加えていくことで、理論的な最適解と現実のギャップに潜む事業機会が浮かび上がってきました。

 

今年のアウトプット・ハイライトは次の通りです。今年は自分自身のテーマ探しとスタンフォード内外での同志探しに注力しました。

  • Stanford Ecopreneurship Fellow選出:セールスフォースのマーク・ベニオフが出資している夏のClimate Entrepreneurshipプログラムの第一期フェローに選出されました。

  • Stanford Climate Ventures選出:スタンフォードの気候テック・スタートアップの登竜門、Stanford Climate Venturesに選出されました。来年頭からは授業の一環としてチームを組成し、プロダクト開発を始めます。
  • Stanford (未公開) Accelerator選出:サステナビリティ領域のAcceleratorに選出されました。オフィシャルリリース後に発表します。
  • Stanford Conversations with Leaders in Sustainability参加:少人数制でClimate FinanceやImpact Investingの創業者たちと議論するセミナーに選出され、参加しました。教科書に出てくる人との熱い対話、勉強になりました。

  • HBS-GSB Climate Retreat参加:シカゴで行われたHarvard Business SchoolとStanford GSBでClimateに関心がある・携わっているチームとのカンファレンスに参加しました。
  • Knight Hennessy Scholars Global Study Trip - India: 在米インド総領事の全面バックアップで、経済・環境などの大臣、モディ首相の経済諮問委員会長、G20のシェルパ、Infosys創業者ナラヤナ・ムーティ氏など、錚々たる面々と議論しつくした1週間。後半はAg-Techのスタートアップ巡りをして、農業領域のビジネスモデルイノベーションについて考えていました。
  • DC開発フォーラム登壇:「スタンフォード発 日本人起業家が挑む『気候変動ファイナンス × 水・食糧危機』」と題して、グローバルに活躍する開発プロフェッショナルの皆様へProject Mizuの発表を行いました。
  • FoundXイベント登壇:東京大学FoundXで気候適応領域のClimate TechとProject Mizuについて発表を行いました。
  • Stanford Knight-Hennessy Scholars Podcast:スタンフォードが毎年80名ほどの修士・博士学生に授与する奨学金・リーダーシッププログラムの公式ポッドキャストでインタビューを受けました。

  • NewsPicksグリーンビジネス特集:NewsPicksの気候専門ポッドキャストにインタビュー頂きました。

  • 英語ブログ開始:日本語でのブログを400回以上にわたり10年ほど続けてきましたが、世界をリードするためには世界に向けて発信しなければなりません。今後は英語での発信を中心にしていきます。

  • Project Mizu発足・世界初の白書発表:気候変動のなかでも今後一層注目される「適応」をテーマに、最も過酷な影響が出る水と農業についてのワーキンググループを主宰し、世界初のレポートをリリースしました。人生を賭けるテーマになりそうです。

     

    今後の活動はこちらのLinkedinからフォローしていただけると嬉しいです。

 

2024年「Build, Build, Buildの年」へ

今年は、ただただ、反響と向き合い、信じた先に様々な角度からボールを打ち込み続けるだけだと思います。

確信があるけれど、未知の領域。行動を積み重ねて、成功以上の失敗も経験しながらやるしかありません。

「バカだなー」と自分を笑いながら、次の施策を打っていく。それだけともいえるし、それさえも大変かもしれません。

 

夏に本格的にリサーチを始めた時、①知的に誠実であること、自分やマーケットを説得するために詭弁を用いないこと、②金のにおいに敏感であること、をGuiding Principlesとしました。

①は、カーボンクレジット領域で散見されるような、ストーリーやそれっぽさを売りにして資金調達しているスタートアップにはなるまい、Theory of Changeを科学的にレビューして証明はできずとも仮説ベースで成り立つソリューションのみを対象にする、インパクトへのコミットです。対照的に、②は、あまたの気候変動スタートアップがおちいる「インパクトはあるけれども事業としてキャッシュが回らない」状況への反省です。

 

Adaptationとは社会の変容を捉えたビジネスであり、社会の変容には段階があります。イノベーション自体がInevitable Transitionであったとしても、WhenとHowについてはかなりのブレ幅があります。

だからこそ、思想的には原理主義を貫きつつも、初期のビジネス設計においては現実主義を徹底したいと思います。

AmazonがEverything Storeになるまでに、未成熟なEC産業と貧弱なロジ、スタートアップらしい小規模なチームでまずは「本」という商材から始めたように、世界の未来を背負う気概をAnalogyとして投影できる、実現可能でそれなりに不可能なテーマを、スタンフォードの叡智を結集して取り組んでいく所存です。

 

今年は、準備段階から実行フェーズに移行します。

ヒリヒリしてきましたが、プレッシャーも力に変えて、前に進んでいく年にします。

さあ、やってみよう。