気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

不可能な納期で炎上案件をまとめる際の考え方

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3か月後に予定されていた提出書類(専門家と共著する100ページ弱の分析資料、財務モデルなど)を3週間で提出しなくてはならない、という衝撃の通告を受け、チーム総動員で何とか無事満足のいくクオリティの仕事を提出した。

今後も同じことがあった時のために、メモとして書いておく。

スタートアップやリサーチにおいて、不可能なくらい短期間に80%の完成度の仕事を迫られることは、必ず起こる。

慌てず、デスマーチをせずに仕事をする上で、重要と思われることを書き出してみる。

大なり小なり日常茶飯事ではあるものの、カーボン、ファイナンス、林業など複数領域の専門家を巻き込んでそれなりにまとまった量のアウトプットを出す機会で、色々と勉強になった。

 

  • 課題をまず先に把握:炎上の初期は一種のパニック状態。関係者にヒアリングして、ひたすら課題・タスクをリスト化していく。一人がすべてを整理して語れるケースは少ないので、複数のアクターとなるべくインタビュー形式で情報収集しつつ、初期的な優先順位やクリティカルパスの仮説をぶつけていく。ここでマネジャーは自分の頭で静かに考える時間をとる必要がある。課題解決と称してステークホルダーを集めて議論しても、成果が上がる見込みは低い。というか、そもそもステークホルダーで解決策が出せるのなら、それは炎上案件ではない。あくまでもマネジャーは自分の頭で論点を整理し、優先順位をつけ、解決策を仮説ベースでまとめてから、チームにぶつけるべし。フィードバックはそのタイミングで遅くはないし、訂正はその都度柔軟にやればいい。
  • 3割カット法の高速回転:仮説をいくつか束にして、やることをリスト化したら、その中で最もほかのタスクに影響が出るもの、先に決めるとスコープが絞れるもの、必ずしも今やる必要がないもの、などを整理していく。要すれば、最低要件を固めて、達成に最も重要なインプットを厳選し、そこだけに序盤は集中するというプロセス。言うは易し行うは難しの典型で、一度にタスクを半分に絞ったりしようとすると議論が無駄に紛糾しがち。お勧めは、リストの内の3割カットを数日おきに複数繰り返す方法。これを2回するだけで、やることは50%になり、4回するだけで25%まで下げられる。また、数日作業をしてからやるので、優先順位をつけるための手触り感も徐々に生まれてきており、判断は次第に楽になっていく。超複雑で流動的な課題を解くために、「ぼくのかんがえた最強の実行計画」に1週間かけるより、2日に一回、強制的に比較的重要ではない3割を切り捨てていくと、1週間でやることが4分の一になり、人員不足のまま大量のタスクをこなすデスマーチを防げる。大企業やプロフェッショナル・ファームのような環境であれば、計画ができて必要な人員が不足していても補充ができるかもしれないが、スタートアップではそれはできない。したがって、精緻で大きな計画よりもおおざっぱでタスクが少ない計画のほうが成功率が高い。とりわけ、そもそも無茶振りなプロジェクトはスコープがあいまいだったり、伏兵的なリスクが潜んでいるものなので、精緻にしようとしたところで、正確な予想はできないから、精緻さに工数をかける理由もそもそもない。
  • マネジャーはタスクを持たない:プレイイングマネジャーが陥りがちないわゆる「クソジーコ問題」である。炎上案件だと、解決が見えたものからばっさばっさ対応していくのが重要なのだが、ある程度チームに行くべき方向性が共有されてからは、マネジャーはメンバーの相談相手に徹するべき。各所で難しい課題や論点整理が必要になる中・後半戦では、マネジャーがタスクを持つと、納期が遅れて他セクションの足を引っ張ったり、メンバー同士の調整や優先順位の明確化(何をしないかの決定)といったチームにレバレッジをかける活動ができなくなる。心を鬼にして、とにかくタスクを振り分け、誰も解けないものだけ、拾うこと。マネジャーの仕事はマネージすることであり、複雑な課題解決をスムースにできるようチームのタスク分配と個別タスクの達成を援けることである。ありがちなのが、マネジャー「あれ、手が空いちゃった!このワークストリーム、解き方わかるぞ!皆さん、この部分は私がやるので大丈夫です!」→メンバーA「~の件なんですが、課題がX、Y、Zで。。。」→メンバーB「準備できたのでれビューお願いします」....となり、着手していたワークストリームが丸々進捗遅れ、取り返そうと集中するとほかのワークストリームが遅れる、という悪循環。
  • タスク管理に時間を割く:タスクを持たないで、何をするのかというと、メンバーが何に取り組んでいるのか、現在最もギャップが大きい部分は何か、どうすれば各メンバーの課題解決を支援できるかだけを考える。炎上案件中は成果物提出のサイクルも早く、同時多発的に進捗が生まれるので、チーム全体を見通せるのはほぼマネジャーのみ。したがって、一日一回はメールなので、チーム各人の優先順位やその日のチームとしての重点成果を全体共有する。
  • リソースは一挙投入する:炎上を察知したら、その時点でチーム全員に通達する。最初は色々と見えないことがある中で、巻き込みたくないという感情が出てくるが、どんなに優秀なメンバーであっても新しい課題やプロジェクトにはキャッチアップの時間が必要になる。なので、序盤戦であっても、「やばいので、このあたりの分野で力を借りるかも」といって早めにウォームアップ要請をしておくと、中盤で課題が明確になってパワープレー勝負になったタイミングでばっちり活躍してもらえる。ちなみに、中盤以降で戦力を一気投入してからは、マネジャーの調整能力・課題整理能力が如実に問われるので、このタイミングで手持ちのワークストリームを減らしておくこと。 
  • レビューやレスの速度を最大化:終息の糸口が見えて、リソースを大量投下したタイミングで、マネジャーの仕事はメンバーサポートに集約される。レビューをより早くこなし、質問に即レスし、悩んでいそうなメンバーに積極的に声をかけ、全体のビジョンの中で不明瞭な部分をクリアにする(メール、スライド、文章、コールなんでもいい)。全員の時間が無駄にならないために、マネジャーは全力で走り回る。
  • そもそも炎上させない:大事なことなので2回書く。マネジャーの仕事は、マネージすることであり、期待値やスコーピング、時間の仕切りのミスやコミュニケーションの不全、案件進行への想像力の不足から生じる「炎上」というイベントそのものが、本来あってはならないもの。毎回ごとに深く反省して、再発防止につとめなくてはいけない。不可抗力や予想外のイベントも含めてリスク管理するのがマネジャーの仕事であり、理由に関わらず炎上はマネジメントの責任。

 

2年くらい前のマネージャーになりたての頃は、他メンバーの炎上案件のレスキューによく入っていた。

炎上案件はマネジメントにとっては反省材料であり、レスキューに入るメンバーにとっては凝縮された学習機会になりうるのではないかと思う。

ただ、今の自分は森羅万象あらゆる可能性に備えることでもあり、考えを一段とステップアップさせねばならない。