気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

213-214週目:Operationalizing the True North

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何かとイベントが多い2週間で、平日も週末もフル稼働していたら、あっという間に時間が経ってしまった。

砥礪切磋というブログを書いた直後にまさに絶体絶命の局面がやってきて、必死に耐え凌ぐ。

スタートアップの面白さが意思決定の自由さにある反面、状況が悪化するときは急激に変化する。

想定外の出来事に直面するたびに、チームで知恵を絞り、不安でキリキリ痛む胃を抑えながら、対応する(そして上手くいくと一緒に祈るw)。今回もそんな感じだ。

 

本当に大変な時というのは、パニックになる余裕もなく、ただ時間がゆっくりと過ぎる。

周りから音が消えて、事実を咀嚼しようとする自分と、次に何をすべきか考えを急ぐ自分が併存する感覚。

眩暈と吐き気をこらえながら、頭を整理して、解決や初動体制の構造を作っていく。

 

切り口を見出す決め手になるのは、ファクトでも思考でもなく、自分の情緒だ。

毎度厳しい状況のTurn Aroundをするたびに同じことを思う。

難しい状況を打開するのは、新しいレポートでも、追加のリサーチでも、言質の取り合いでも、攻撃的なネゴでもなく、課題の核心を掴んだシンプルなコミュニケーションであることが多い。

ディールマネジメントという奥深い世界の入り口に立つたび、己の未熟をいやというほど思い知らされる。

被害者意識を持ってしまったり、人のせいにしてしまったり、投げやりになってしまったり、考えること止めてしまったり、不安に負けてしまいたい自分を正面からとらえた時に、点と点が繋がっていく。

そのうえで、2%でもいいから成功確度を高める施策をコツコツと積み重ねて、倦むことも飽くこともなく、ただ没頭する必要がある。

日々の思考の蓄積とアイデアの質はここにきてようやく問われる。

複雑な状況では単純なメッセージを、単純な状況では複雑な思考を伝える。

ディールではなく、世界観をつくることが先であり、強固な信頼と共有ビジョンがあれば、案件はおのずから根を張り幹を逞しくする。

 

ファイナンスの仕事は、モデリングやテクニカルな対応能力が注目されがちだが、究極的には

・相手を理解すること

・自分を理解してもらうこと

・相手と自分の先にある共通の可能性を明らかにし、互いに信じること

をディールを通じて表現していくプロセスに、本質がある気がしている。

テクニカルな部分は、表現をするための絵筆であり、メディアにすぎない。

豊富な知識や経験は表現のボキャブラリーを広げてくれるが、表現の方向性を示してはくれない。

原則論を決めるのは自分であり、不確実な場面で問われるのは自分自身の練度だ。

 

この2週間、信じられないくらい沢山の失敗をしてしまった。普段なら絶対しないような初歩的なミスもあれば、数年前の想像力の欠如を今になって答え合わせするような話もあり、正直気持ちが落ち込んでしまう。

スタートアップの立場であればUnderdogとして闘う局面も珍しくなく、難局になるたびに矢面に立つ自分が必死になるのは当然といえる。

同時に、必死であるからこそ、相手への想像力を失ってはいけない。思い込みをしたり、原則から乖離した無理押しをしたり、不安から逃れるためにコミュニケーションをしたりしてはいけない。

不確実性に圧倒されることなく、風になびく楊のようにしなやかに、力に変えねばならない。

案件終盤は不安を押しのけてふてぶてしく仕事を続けるための鈍感力と、小さな失敗も見逃すことなく内省に変えて、ディールを通じて自分を変容させる感受性という、相反する自分を維持しなければならない。

日々の失敗を、これからの仕事に活かせるかが、悔いのない仕事をする鍵になる。

 

よりによってこんな時期に、半年前から依頼されていた、母校でのソーシャルアントレプレナーシップの授業でのゲスト講演があった。

AshokaフェローやForbes 30 under 30を何人も輩出している名物クラスで、「インパクトというふわっとしたアイデアに惹かれている学生たちに、大人同士がぶつかり合う難しさを教えてほしい。現場のニュアンスを突き付けてほしい」という恩師のリクエストで、90分の授業を持つ。

ただスタートアップのHard Thingsを伝えるのは、守秘義務としても駄目である以前に、あまり付加価値がないので(Startup101:"There are always harder things"なので。。。)、”Operationalizing the True North"というテーマで、異なる立場・利害をもつステークホルダー(例えば、お客さん、会社、投資家)がどのようにして一つのビジョンを共有できるか、ソフトなコミュニケーション以外にどのような構造が存在するのか、という部分でKomazaをケースにディスカッションをした。

ガバナンスという抽象的なテーマで、スベるのではないかという心配とは裏腹に、学生からは鋭い質問が続いて、Zoom越しにも熱気が伝わる授業になり一安心。

 

「仕事をする上で何が重要なのか?」という学生の質問への答えは、自分の職業人としての役割への答えでもある。

日々仕事をする上で、ステークホルダーであり当事者に合わせてコミュニケーションを図る癖がついているからこそ、学生という完全な第三者からの質問には、ポジショントークのない素直な回答ができた気がする。

立場の違いは変わらず存在する。

そういう違いを乗り越えて、全員が納得する共通の夢(True North)を議論し続けねばならない。

相手の立場の違いを理解したうえで、バランスをとるために知恵を絞り、ストラクチャリングや、契約やコミュニケーションを駆使してオペレーション化していく。

True Northさえも不変ではなく、事業のフェーズや新しい発見に応じて自分たちでアップデートし続けねばならない。

ここが難しく、だからこそ優秀なチームが知恵を絞り、行動を尽くす意味がある。

”Operationalizing True North”というレゾンデートルに立ち返って、仕事に向き合いたい。