249-250週目:ケニア初となるSawmillのオープニング、ファイナンスの意味
今週は、会社を上げて取り組んできた、ケニア初・東アフリカ屈指となるOl Kalou製材工場の落成式があった。
ケニア政府からはChief Conserverter in Forestryを始め高官が参加し、投資家からは三井物産の森林事業チームの皆様とサステナブル領域に特化したアセットマネジャーMirovaのCEOにスピーチをして頂いた。
ベンチャーにおいて、新しい事業やイベントは常にお祝いすべきものなのだが、今回のイベントはメンバーにとっても僕自身にとっても特別な機会となった。
自分の仕事では割と落ち着いている方なのだが、今回のイベントは終了後に感極まって深夜にLinkedInに長文ポストをしてしまった。。。
Taking Risks in Emerging Market
5年前、Komazaに入社した時、形の上ではシリーズAを終えていたこの会社に、売上という概念は存在しなかった。
NGOとして小規模農家と木を植えてきた実績を評価されていたものの、林業不毛の地と呼ばれた東アフリカでまっとうなビジネスを作れるかは分かっていなかった。
植林された面積から算出される木材供給量のプロジェクションを眺めながら、いつかは世界水準の工場を建てるのだと意気込みだけは十分だった。
2年前、KomazaはシリーズBを調達した。28百万ドルという金額はグローバルではそれほどではないが、当時は全アフリカのベンチャー調達のTop5にランクされ、2020年のケニアのベンチャー調達額のほぼ10%を占めるディールとなった。
このディールを支えてくれたのは、本流の林業投資家ではなかった。
数十年にわたってアフリカ投資をしてきた開発銀行は軒並み失敗を重ねていたし、林業経験豊かな投資家たちも、Komazaの新しいビジネスモデルに懐疑的だった。
一方で、気候変動やベンチャー投資で新しい時代に向けてリスクを取ろうとしてくれたのが、シリーズB投資家たちだった。
不確実性を飲み込み、投資委員会の疑問をひとつひとつ解消し、ベンチャーも投資担当者も一丸となって取り組んだ結果が、KomazaのシリーズBだった。
当時、最も熱い論点となったのが、植林にフォーカスを置いてきたKomazaに果たしてまっとうな製材加工ができるのか?というもの。
今回の製材所は、ブラジルやドイツなど世界各地から最適な機材を集め、ユニリーバ出身の工場長の指揮のもとオペレーションを構築したグローバルスタンダードの”結果”であり、会社にとっても投資家にとっても社員にとっても大切なマイルストーンだ。
Investing in Global Talent
リスクをとる、というと投資家を思い浮かべがちかもしれないが、無謀にも思える野心的な目標を掲げるベンチャーに入社して誰もやったことのない課題に挑む社員たちこそ、本当の意味でリスクを取っている。
Life as Equityと僕は思うのだけれど、自分の職業人生を賭けて難しいベンチャーに挑む人たちは、キャリアそのものを100%エクイティ出資しているようなものだ。
確立された産業がなければ、人材は集まらない。
Komazaにとってはこれは死活問題だった。
経営陣を集めようにも、アフリカのレイトステージベンチャーなんて数社しか存在しない。
投資・財務のプロを集めようにも、そもそもグローバルな投資銀行がないので、人材を求める先がない。
林業の専門家を探しても、東アフリカには小規模な工場くらいしかなく、数億円規模の工場を設計したり、運営したりできる人など存在しない。
だからこそ、資金を調達し、ビジョンを語り、世界中から人材を求めなければなかった。
シリコンバレー出身の経営陣、海外経験豊かなファイナンス、南アフリカ出身の製材のプロ、事業の土台を支えるローカルのマネジメント、すべてを揃えて初めて、このプロジェクトは可能になった。
”You invest in global talent, you will get a global standard result.”
ユニリーバでエンジニアリングのヘッドをしていた工場長の言葉が忘れられない。
目の前の課題も大切かもしれないが、Availableなリソースだけに頼ってはいけない。
大きな課題には、優秀な人をぶつけていくべきだ、という考え方だ。
Why Venture? Why Finance?
初めて完成した工場を訪れた時、鳥肌が立った。
今回のセレモニーで誇らしげにしているメンバーを見て、あるいは、完成に至る数多の試練を克服した武勇伝を聞いて、Why Venture? Why Finance? という問いの答えが、出た気がする。
ベンチャーの仕事はチームで不可能を可能にすることだ。
誰一人として全体をコントロールすることはできず、あちこちで同時並行して不可能への挑戦がなされる。
挑むのは現場にいる一人一人の社員であり、同時に会社全体だ。
経営者として出来ることは、ビジョンを語り、人を集め、人を支えること。
そして、ファイナンスの役割は、最も難しい課題に、最も優秀な人たちをぶつけるための経営資源を集める、投資実行することだ。
複雑なディールをまとめるよりも、今回の工場落成に立ち会った経験の方が、ファイナンスの本質を伝えてくれたような気がする。
Can You Share the Same Dream with Others?
起業家と二人三脚で仕事をしてきた。
工場なんてなかった時に、アフリカ最大の林業ビジネスを作ると言って、投資家を説得した。
東アフリカに中規模以上の製材所が存在しないときに、グローバルスタンダードの工場を建てることにこだわった。
カネもない、人もいない、知見もない、というないもの尽くしの状況を少しずつ変えたのは、野心的な目標とそれに共鳴する人々だった。
人と同じ夢を見れるか?と常に問いながら、カネを集め、人を集め、知見を集めることが、不可能を可能にしていく道のりだと学んだ。
ファイナンシングは、このプロセスの一部でしかない。
工場が稼働したのを見届けた時、今まで感じたことのない充足感があったのは、きっと一通りのサイクルが回ったのを感じたからだ。
社員や投資家だけではなく、政府関係者や林業業界の人々など多くの人々が感動し、祝ってくれたのは、Komazaの夢が国や地域、業界にとっても意義を持っているからではないか。
何度思い出しても胸が熱くなってしまう。
せっかくなので、現場の写真も載せてみる。
まずは、工場の様子から。
オープニングセレモニーは政府高官や投資家などに加えて、近隣農家やお客さんも合わせて数百人規模になった。
イベント当日の司会はテレビのキャスターとして有名なMike Gitonga氏。
我らがCorporate Finance & Strategyチーム。ファイナンスって紙だけじゃないよねと盛り上がった。
工場建設の指揮を執ったエンジニアたちと。
フランスのサステナビリティアセットマネジャー、Mirovaのチーム。業界の有名人のPhilippe Zaouati CEOもスピーチのために出席してくれた。
Komazaが世界最大の植林者になっているMelia Volkensiiをはじめ、ケニア林業を40年近く支援しているJICAチームにも出席いただいた。
三井物産、FMO、Novastarチームと。
Chief Conservator of Forestsや三井物産チームの皆さんと。