気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

When Vision Fails 

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インパクト投資やClimate Finance、アフリカベンチャーなど、未来志向な業界で仕事をしていると、ありとあらゆるビジョンに触れる機会がある。

起業家を支援したいという投資家もいれば、社会の理不尽を是正したいという起業家もいる。

志を持つのは、変化の第一歩として大切のは間違いない。

一方で、志を結果につなげるまでの道のりは遠い。

自戒の意味も込めて、「ビジョンが失敗に終わる瞬間」について書いてみたい。

  1. 想いに実行力がついて行かない:願いが正しくても、実行するための能力やチーム、リソースが足りていないと、ビジョンはかなえられない。一方、想いだけで人を説得できてしまう分、周りはどんどん共感して応援してくれるんだけれど、肝心の課題解決が進まずに空回りしてしまう。想いは出発点でしかなく、結果ではない。
  2. 独善化してしまう:「~のために」という目的で仕事をするのは尊い動機かもしれないが、「~」に当たる受益者やパートナーが本当に求めているものが何なのか、さらには、もしかして自分が受益者のためにならないどころか、マイナスになってはいないか、という危機感を失うと、厳しい。独善化はいったん始まると、かたくなになっていき、最後には「どうしてわかってもらえないんだ!」という自己憐憫に陥る。
  3. ビジョンが更新されない:ビジョンは創業の動機や感動的な創業秘話とは別物である。事業に取り組む中で見えてくるディテールやニュアンスが次第に組み込まれ、大枠では一貫していても、定期的に見直され更新されていくべきだ。最終的には、ビジョンから日々のオペレーションまでが抽象から具体へとつながっていくのが、インパクトを成果とする事業の理想形である(ロジックモデルとかTheory of Changeとも呼ばれる)。創業当初からビジョンの具体性が変わらないのは、あてずっぽうのまま進んでいるリスクをはらんでいる。
  4. 気持ちを切り離すことができない:インパクトを目的とする仕事をする人は、心の中からやりたいと思って仕事をしている割合が、一般的なビジネスや公共セクターよりも大きい。だからこそ、自分の私的な経験や価値観に基づいた押し付けをしてしまう危険を常にはらんでいる。誰もが自分なりの経験や判断軸を持っているのは当然としても、難しい状況や精神的に緊迫した状況で、単なる自分のわがままやこだわりが、相手に無用な迷惑をかけていないか、意思決定をゆがめていないかを常に確認する必要がある。開発の世界では常々ドナーと受益者の関係で研究されてきたテーマであり、パワープレーができる立場の人ほど、無意識の強要に注意が必要である。
  5. 続けることができない:継続力とか根性とか、そういう話ではない。現実問題として、自分の身の丈を超えた課題に挑み続け、なおかつ流行りのベンチャーのような注目を浴びることもIPOで大金持ちになることも難しい領域において、一つのプロジェクトに取り組み続けるには持続可能な仕組みが必要不可欠である。物心両面において、無理をしすぎないように何とかバランスを取らないと、気持ちだけでは難しい局面が出てきてしまう。
  6. 自分のためと相手のためのバランスを失う:SDGsやESGが声高に叫ばれる時代に合って、自分のためだけに仕事をしていると言い切る人は減ってきているかもしれない。同時に、自分のためだけに仕事をしている人があまりいないように、他者のためだけに仕事をしている人もおそらくあまりいない。受益者のためを思って身を粉にしていても、努力を続けられるのはあくまで自分が満足を覚えるからであり、ソーシャルベンチャーであっても相手と自分ふたつの主体に同時に仕えている。このバランスが崩れると、相手を無視した独善的な施策が生まれたり、家族やメンタルヘルスといった自分側の状況が悪化したりしてしまう。理想のバランスを定義するのは難しくとも、バランスを崩さない注意が必要だ。
  7. 変化が止まる:社会課題に向き合うベンチャーには、革新性と一貫性という相反する性質が求められる。これまで停滞していた課題を打破するには革新性が不可欠であり、事業が立上げフェーズを超えても、領域を広げたり効率を高め続けるために自己変革を迫られる。同時に、社会に対する向き合い方や原点と言える価値観については、思想からオフィスのデザイン、チームの採用、日々のコミュニケーションにいたるまで一貫性が期待される。