気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

2022年「而立の年」から、2023年「Black Outの年」へ

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2022年「而立の年」の振り返り

2022年は、自分の人生にとって大きな転換点となりました。

20代の熱量の集大成とも呼べるKomazaでの仕事を終え、スタンフォード大学経営大学院に進学したことで、様々なことが一変しました。

年初に而立と宣言したはよいものの、せいぜい立膝ぐらいのものだったなとも思います。

とにかく、体制を立てようともがきながらも流されて、何とか片方の膝くらいは、まっすぐになったというのが本音でしょうか。

あらゆる変化がどっと押し寄せる中で、翻弄されながら、自分の中で変わらず大切なものを、確認して強化していくプロセスになりました。

 

Komazaでの仕事

Komazaでの仕事は、大学院の授業が始まるまで続けました。

LDNからのデット調達をもって、エクイティからデット、メザニンに至る一通りのファイナンスを経験することができ、在任中の調達総額50百万ドル超という結果を残すことができました。

ケニアにおけるスタートアップの資金調達の総額が年間400-600百万ドルといわれるなか、それなりに意味のある規模のファイナンスを、林業xテックという先進国であってもトリッキーな領域で実行できたことは、20代裸一貫で飛び込んだ身としては、ひとつの自信です。

カーボンクレジットや証券化などの大切な関連領域でも貴重な経験ができました。

新卒のときの上司から「金融は実務能力だけでなく抽象的な思考を求められる」といわれて、ファイナンス的な思考を応用する面白さを教わったのですが、多少なりとも実践できたのではないかと思います。

 

CFO業というと、事業と外界をつなぐ架け橋といえば、聞こえは良いのですが、実際は事業をRepresentするために”Don’t get bullied"と自分に言い聞かせながら戦い続ける毎日で、ファイナンスについて学んだことよりも、人間や社会の性質について考えさせられる機会の多い仕事でした。なによりも、自分の至らなさ、人間の弱さを痛感した5年でした。

スタートアップファイナンスは守りを求められる局面が少なくないのですが、「Financing InnovationがBusiness Innovationと同じ力を持つときに事業の可能性は最大化される」という自分なりの確信を持っています。

そして、Capital IntensiveでLong-Termな事業こそが、社会に意義のあるインパクトをもたらす、自分が生涯をかけるフィールドになるというキャリアについての一応の結論も出すことができました。

 

奇跡を起こせているか、非線形的な結果をうめているか、という問いは、常に向き合ってきた問いです。

振り返れば傲慢なのですが、自分の野心は、事業の歴史を振り返ったときに、「あの時の仕事が流れを変えた」と言ってもらえる瞬間や仕事をいかにつくれるかにあったように思います。

こうした瞬間は、チームの努力で生まれることがほとんどです。自分一人でできることなんて、とりわけファイナンスという役割であれば、ほとんどありません。

今年の製材工場の落成は、そんな瞬間でした。

「何のためにファイナンスをしてきたのか」という問いの答えは、「事業を作るため」なのですが、「作る」の一例が会社にとってマイルストーンになるだけでなく、ケニアや東アフリカの業界にも大きなニュースとして取り上げられるのを見るにつけ、今でも胸が熱くなります。


時期を同じくして、憲法に国土に占める森林率を明記して植林活動を推進してきたケニヤッタ大統領(当時)との対面も果たすことができました。

イノベーションの目指すべきところは、「当たり前になること」(Mainstreaming)にあります。

政府やローカルのステークホルダーにきちんとパートナーとして認知されるのは、とてもありがたいことですし、ケニアのように過激なくらいまっすぐに環境政策を実施していく前のめりな姿勢は、むしろ先進国こそ学ぶところがあるのではないかと思います。

 

 

振り返りが長くなってしまいましたが、Komazaでの経験についてはこの記事でもまとめています。

最後まで仕事を共にしたチームには感謝と尊敬以外に言葉が見つかりません。

職業人としても、人間としても、優秀で熱意あふれるチームひとりひとりから、本当に多くを学ばせてもらいました。

事業に対する熱意と現場での課題解決力を持ち、僕以上に優れたビジョンを描いているチームのメンバーが、どんな事業を作っていくのか、心から信じて応援しています。

 

スタートアップでの仕事について考えたこと

仕事でギリギリ追い詰められているときこそ、大局観に立ち返って大切な論点を整理するようにしています。

今年は、不可能といわれる挑戦をするときのファイティングポーズの取り方、参謀としての役割が進化するプロセス、そしてベンチャーにおける「難しさ」のマネジメントについて書きました。

毎度のことながら、分かったから書くのではなく、大切なことなのに分からないから無理やり言語化を試みている、といった方が正しいかもしれません。

 

スタンフォードビジネススクール

留学の経緯と最初の学期の感想戦は、こちらの記事にある通りです。

 

結論から言うと、本当に苦戦しました。

クラスもイベントもぎゅうぎゅうに詰まっている中で、自分なりのテーマを定義してプロジェクトを考えようと必死にもがいていた気がします。

考えるも何も、新しい環境で、仲間もいなければ応援してくれる人もいないなか、自分が何者でもないところから、信頼関係をゼロから作っていかねばならないのは、不可能ではないもののかなりエネルギーが必要です。

 

自分にとってのビジネススクールは、勉強というインプットの時間というよりは、起業というアウトプットの時間になるはずでした。

しかし、インプットとアウトプットをつなぐ、自分そのもののあり方、生き方、生きる意味、果たすべき役割を明確にしないかぎり、何をしてもアウトプットとしては価値を持たないということに気づかされます。

自分の至らなさを可視化し理解する場として、ビジネスや経営に関する授業の一回一回が滝に打たれるような感覚で、未来を考える気力が全く出ませんでした。

現場で立ち回るときのアドレナリンを抜いてしまえば、自分の仕事は、いかに至らなかったのか、あらゆる場面が頭に浮かんで、吐き気をこらえて出ていた授業が何度となくありました。

 

仕事をしていれば、学んだことを活かす場があるものの、学生という立場は世界の食客であり、無意味で無価値です(Unless you prove otherwise)。

課題や他者に自分の創造意欲を仮託しなければならなかった自分の弱さを、今になって直視することにもなりました。

プロジェクトをどう立ち上げればよいのか、あらゆるピースをまとめようにも、新しい環境の使い方が今一つよくわからずに、焦りは募るばかり。

優秀で多様な学生が集まり、最高の教授陣とエコシステムに囲まれているだけに、溺れるようにして足掻く自分がもどかしくもあり、"Trust the Process"と自分に言って聞かせる毎日でした。

 

Thanksgivingで休みを取って、冬休みに読書しながら考え事をして、ようやく少し落ち着いて、新しい挑戦にふさわしい心づもりが整ってきたように思います。

大学の仕組みもわかってきて、焦りもがきながら自分をバラバラにして問い直したからこそ、新しい土台をしっかり踏みしめて立ち上がることができそうです。

何のために生きているのか、人生を無駄にしてしまったのではないか、これまでの仕事に価値はなかったのではないか、とまで思いつめたからこそ、揺るぎのないものを自分の中に確認できました。

新しい環境で誰も助けてくれる人がいないからこそ、自らの手で光明を掴まねばならなかったのは、幸いかもしれません。

 

そんな悩み多き数か月に翻弄されていたものの、スタートアップの人間として、ファイティングポーズは下ろさないことは決めていました。

日本人初の全額奨学生Knight Hennessy ScholarsとしてForbes Japanさんにも取材頂いたほか、尊敬する同年代の友人であるNakajiさんにもPodcastをとって頂きました。

Forbesの記事では、スタンフォードのエコシステムの懐の深さやスケールについて、Nakajiさんのインタビューではスタンフォードに至るまでのキャリアや意思決定について丁寧に取材頂いて、まったく違う内容になっています。

過去のことは過去として未来をのみ語るべきかもしれませんが、ブログを始めて10年以上たって、何度となく読者の方々に救われてきた経験もあり、応援してくれる人に対するアカウンタビリティのようなものとして、自分の道のりを整理して発信することは、これからも続けていきたいと思います。

 

 

2023年は「Black Outの年」

 

今年は、気候変動と水をテーマに、起業します。

気候変動という21世紀の大テーマの中でも、Komazaで取り組んだ農林業のみならず、気候変動による温暖化・気候リスクの高まりの先にある、人類の活動の変化にとっても大切なテーマです。

今学期は、「水とビジネス」の授業と「Design For Extreme Affordability」というデザインスクールのプロダクトのクラスを履修しつつ、具体的な調査をする予定です。

普通で言えば、夏休みはMBA生にとって就活の山場なのですが、一般的なインターンはしない予定です。

この挑戦のために全額奨学金でスタンフォードに来たはずなので、起業のために必要な経験をしたいと思います。

やんちゃに世界中で挑戦ばかりしてきた自分も、時々グローバルな不況の波やら、卒業後給料がX千万円が普通の同級生たちを目の当たりにして、常識的なキャリア観に立ち返ることがあるのですが、久しぶりに良い意味でヒリヒリしています。

大きなテーマや構造で世界を捉え、そこから自分がやるべきことを定義して、(ビビりながら)淡々と実行する、というのは学部生で慶應からブラウンに編入した当初から一貫している戦略であり、今回も同じと腹を決めました。

 

タイトルは、去年、セコイアのDoug Leoneの講演会でのやりとりからの引用です。

講演会の最後、真っ先に手を挙げて、「マーケットサイクルを何度も経験したとも思うが、気候変動のように今波が来ている業界で起業するときには、市場の波や変化とどう向き合えばいいのか?」と質問したとき、「Black Outしろ(意訳:わき目を振るな)、今世の中に出ているものは1年以上前に仕込まれたものだから、競争しても仕方ない。事業の価値に集中あるのみ」という趣旨の答えが返ってきました。

スタンフォードで気候変動でスタートアップというのは、良くも悪くも世界の中心であり頂上で勝負をすること。

だからこそ、フォーカスを失わず、自分の軸をぶらさずにいるのは、難しくもあります。

おそらく、頂上で戦うべきは世界でも、マーケットでも、優秀な同級生でも、競合でもなく、自分です。

 

スタンフォードでやるべきことの根幹は、先に紹介した参謀論のブログの一説がそのまま当てはまるのではないかと思います。

個人、チーム、事業、いずれのレベルにおいても、閉じた世界でExcellenceを追求するだけでは、優れた成果は生まれない。

高い目標を追いかけるだけでは、既存の枠組みの延長上に自己を規定している点で、模倣の域を出ない。

最初は誰もがベンチャーの課題解決に合わせて自分を適応させ、Make Oneself Usefulとなることが求められる。

しかし最終的には、困難に適応するために自分を作り上げるのではなく、あるべき姿を自分で定義しなければならない。

「より良い」ではなく、異なる「良さ」のなかから、自分なりに「良さ」を選択して、守り通すために努力をしなければならない。

困難を捌くために戦うのか、理想を貫くために戦うのかでは、同じような挑戦であっても長い目で見た意味合いは似て非なるものだ。

目標ではなく、理想を定義しなければ、職業人としてのスタート地点には立てないのではないか。

 

冬休みにお会いした起業家から、「登る山を決めるのが、起業家にしかできない究極の仕事」という言葉を聞いて、ハッとしました。

様々なメンバーとチームを作って課題解決するのが前提の起業家にも、(まれにみる偶発的、奇跡的な起業をのぞけば)たった一人だけで事業の構想を練り始めた起点があるはずというのは、考えてもみれば当然のことかもしれません。

0 to 1の0 to 0.1にある産みの苦しみと運命性は、おそらく本当の意味で創業者だけの世界なのだと思います。

 

社会人になってからというもの、職業人としての基本は、約束を守ることにありました。

難しい課題であっても、スコープを確認し、取りうるリスクを測ったうえで、進捗を見極め、どれくらいできるか、できないかを判断する。

約束できる範囲とできない範囲を明確に伝えつつ、ときにストレッチされても、一度コミットした結果は、そのまま実現せずとも、相手の納得いく形で達成しようとしてきました。

起業に取り組む気はないのかと、聞かれるたびに、確実にコミットできない約束をしていいのか、という思いが頭をよりぎります。

職業人として誠実さの基準では、起業家のビジョンや目標はあまりに遠い存在に思えたからこそ、新卒は総合商社にあっても金融事業、スタートアップでは参謀役というポジションをとってきました。

 

同時に、スタートアップで働いた5年間で、失敗の可能性がある大きな挑戦をすることの意味が、おぼろげながらわかってきた気がします。

できるできない関係なく、「挑戦する意義のある理想は何なのか?」という問いに向き合うと、優秀な人が社員になり、アドバイザーになり、投資家になり、誰もが想像しなかった未来が生まれるのです。

自分では力不足なのではないか、と疑いながらも、まあやってみよう、と腕をまくって挑んだ先に見えるのが、自分の限界なのか、新しい景色なのかは、今の自分にはわかりません。

ただ、Knight Hennessy Scholarのオリエンテーションでもらった、サイン入りの本にあった、Just Do It!という言葉のままに、やってみようと思います。