気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

起業家の役割、CEOの役割

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起業家の仕事や経営者の仕事は何だろう、ということを、スタートアップを創業して考えるようになった。

決まった正解がない中で、自分なりに見出した整理を、備忘録として書いておきたい。

創業間もないPMFに至る前の段階の話で、事業づくりや仮説検証などについては、触れていないので、あしからず。

 

自己認識を立てる

自分がこれまでに接してきた起業家・経営者はだれもが自分の強みに立脚して軸足を決めていた。

正解はなく、Don’tsをやらなければ成功するわけでもないのが起業であり、自分の人生の成功パターン、失敗パターンから強みに立脚して戦い方を決める。

あるべき経営者像というのはあらゆるビジネス書が説いているが、その実、経営者のバイブルというものは、存在していないか、著者の強みを言語化した参考文献でしかない。

自己認識のずれは、中盤・後半の粘り強さに直結する。起業するのが良いのか、違う立場の方が社会に役に立つのか、真摯に自問する。

そして、決めたら思い切って、手を挙げて仲間を集めようとする。

 

出発点を決める

どの山を登るのかを決めるのは、起業家の一番大切な仕事。

飛び込むべきテーマ、解決されるべき課題はどこなのか。

今まで難しいと言われてきた内容を、自分なりに解釈して、提示する。

納得されないことも、信じてもらえないことも経験しながら、ちょっとずつ具体的でリアリティがある物語を創っていく。

 

チームをつくる

課題やテーマに対する解釈が他者に受け入れられることで、チームが生まれる。

イノベーションのほとんどは、素晴らしいソリューションを発明することよりも、解くに値する課題を定義することによって生まれる。

自分の場合は、好奇心の力がリーダーシップの根幹にある。だから、人が思わず考えてしまう、壮大なテーマと複雑なシステムをシンプルに伝えていった。

 

現実と妄想のすり合わせ

スタートアップは延々と続く仮説検証のプロセスといって過言ではない。

出発点を決めるのは妄想の面白さと分かりやすさがカギになるが、現実と乖離が激しすぎると後で不幸になる。

現場に出て、本当に問いの設定とソリューションの想像があっていそうか、確かめていく。

チームをつくるのも、最初のサポーターを見つけるのも、運と根気と、根拠のない楽観主義でやっていく。

 

リスクをUnderwriteする

これは自分が金融出身でスタートアップCFOだったからでもあるが、何をリスクとして、何をリターンとするのか、腹落ちさせるために時間をかける。

スタートアップのように、Power Lawが働く事業モデルであれば、成功可能性が高すぎる中リスク・中リターンではいけない。

普通にやるとたぶんうまくはいかないが、超優秀なチームがめちゃくちゃ頑張って、いろんな人に応援されたら解けるかもしれないし、解けたとしたら今とは違う未来が実現する(したがって巨大な価値が生まれる)という道筋を描ければ、スタートアップとして挑戦してみてもよいのかもしれない。

 

リソースを調達する

人が集まると、アイデアが膨らむ。自分のアイデアを現実にするよりも、自分が思いつかないアイデアが出てくるのがよいチームだ。

でも、そうしたアイデアは往々にして身の丈を超えている。

人を採用したり、開発に投資したりするには、信用をつかってリソースを集めなければならない。

でも解決したことのない問題を解決するときに、当人に信用はない。

だからいろいろな方法を使って、賞をとったり、人に助けを求めて、ちょっとずつリソースを集めていく。

個人的には信頼がとても大切で、投資家になってもらう、アドバイザーになってもらう、チームに加わってもらう、あらゆることの原点がここにある。

チームに入ってもらう人には、解く価値のある課題やパズルを示せるか、最初のお客様を始めとする信じて応援してくれる人には、応援しがいのあるシグナルを示せるか。

また、一般的には調達すること自体に重きが置かれるが、セットアップは調達以上に大事で、巻き込んでいく社内外のステークホルダーをSetting up for Successできるよう善意を持って先回りしていく。

 

よいサイクルを回す

面白い課題を定義すると、それを解きたい人が集まってくる。

難しい問題に、優秀な人をぶつけるのは、歴史的に見て正しいイノベーションのアプローチだ。

そこから先は、時間を稼ぐこと、学習を加速させること、社会とベクトルを合わせることに集中する。

自分の場合は、大学などのPrincipal Investigator (PI) on Steroidが一つの型だと思っている。

アイデアあふれるメンバーを束にして、才能を引き出しつつ、間に入って問題のつっかかりを解消していく、というのがスケーラビリティの高いリーダーシップではないか、という仮説がある。

(個人的にインスピレーションを得たのは、Google Xの”Captain of Moonshot"ことAstro Tellerの人選と課題設定と撤退ラインによるイノベーションマネジメントで、この話はいつか深堀したい)。

 

また、スタートアップの運命の分かれ目は、メンバーの気持ちと経済的な余裕ではないかと個人的には思っている。

課題を解決する期間(往々にして想像よりも長い!)、精神的・物質的な余裕を求められる水準以上に保つことができれば、事業はなにがしかの形になる。

時間を稼ぐためには資金が必要になる。

学習を加速させるためには、経営者のアイデアよりも、チームが高速で学習する文化とプロセスをつくらねばならない。

人材を集め、難しい挑戦をしていてもやりがいを維持するには、意図的にマイルストーンを設定して、社会から「やりがいのある挑戦ですね」と応援されるようにしておかなければならない(家族や友人からの声掛けはRetentionの重要指標だと思っている)。

全てを用意して、満たすことができなくとも、この辺りがうまく回っているとき、チームは経営者の想像を超えた成果を生む。

経営者の重要な仕事はリソース調達と言われるが、経営資源を集め、正しく分配し、各々に正しいベクトルづけができれば、モメンタムが味方になってくれる。

もちろん、きれいごとだけでは仕事は終わらないので、あちこちで火消し対応したり、自分で腕をまくって突っ込んでいくことは忘れてはならない。

 

モメンタムの上に立つ

スタートアップを経営するときに、大切なのがモメンタムだ。

モメンタムはスピードを生み、想像を超えた成果をもたらす。どちらかと言えば失敗しそうなのが正しいリスク量だとするなれば、「それなのにうまくいっている!」という状況をもたらすのがモメンタムだ。

シリーズA・B期のスタートアップで起業家とずっと仕事をしていても、本当にしんどいのはこのモメンタムが失われた時で、逆に経営者の仕事はモメンタムを絶やさない努力と、どん底で誰よりも笑っていられる胆力に究極的には収斂すると思っている。

経営者はモメンタムを味方としつつも、乱高下の不安から離れた存在でなければならない。