スタンフォード5-7週目:考えていること
考え事をするために大学院にやってきた。
まさにそれをやっている。MBAにはActivityを求めてくる人と、Meditationを求めてくる人とがいて、僕はおそらく後者なのだろう。
カオスに身を浸す
ビジネスパーソンとしての振り返りと膨大な量の新しい知識の吸収は、ビジネススクールならではの醍醐味だ。
昔は、勉強なんて自分でもできると思っていたが、一定量を超えた知識を優秀な人とアクティブに学んでいく過程は、単なる勉強を超えた世界観のアップデートになっていく。
滝行のように到底受け止め得ない量の刺激に打たれながら、自分のキャリアや人生について考えるのが、僕がMBAに求めていたことだ。
だから、わからなくなることを許容した。迷っているし、もがいているし、つらくもなるけれど、それこそが目的に至る道なのだと信じている。
Trust the Processという言葉が僕は好きだ。無駄な焦りを捨てて、存分にのたうち回ろうと思う。はい、カオスカオス。
途方に暮れているのは、悩んでいるというファクトと、道がないことへの感情的なリアクションを切り離せていないから。未熟。
キャリアについて考える
分野、職制、職位、地域、全部ぐっちゃぐちゃである。
全部白紙に戻して考え直そうという無茶なことをしている。
色々な説明会に顔を出して、働いている自分の姿を想像する。
抽象的な話よりも卒業生のパネルに行ってみて直感で何を思うのかを重視している。
頭の中では想像できても、パネルを聞いたり講演会を聞いて、「これじゃないな」と感じたらバサバサと切り捨てていく。
それでも組み合わせは十分にたくさん存在する。なので、2ページほどのメモを書き始めた。2ページに収まるレベルに軸とシナリオを考え抜かないといけない。
少しずつ、仮説が組みあがっていく。それがどこまで実践できるかは、わからない。
アメリカに残る必要があるのなら、移民でさえない自分の立場のせいで、思いがけない制約もある。
生き方について考える
身辺を単純明快にしておくことを、注意深く守ってきたつもりである。
プロジェクトに全力投球するときに、私の世界が入り込むことは、受け入れがたい。
それでも、この年になって情が移ってきた。ケニアにいる友人や仲間のことが恋しくなる。
挑戦するときに、理解し見守ってくれる人たちの存在が、得難いものだと感じる。
新しい道を模索する最も静かで孤独な時間に、人恋しくなる。
仲間と挑戦する温もりを知ってしまった身に、単独行の寒さが染みる。
それでも、自分で選んだ道なのだから、ぐっとこらえて進んでいこうと思う。
海内知己、天涯比隣と自分に言い聞かせる。
ハングリーさを失ってしまったら、なんのためにここに来たのかわからなくなってしまう。
Knight Hennessy Scholarリトリート
スタンフォードに来て一番衝撃的な経験だった。
今年のコーホート70人余りと、3日間リトリートで寝食を共にする。
日中はアクティビティがあり、夜は2時3時まで焚き木を囲んで語りつくす。
PhDの学生には明確な仮説と実証のプロセスがあり、プロフェッショナルスクールの学生には使命感と実績がある。
何を議論しても尽きることのなく新しいテーマや情報が出てきて、逆に自分の話には分野の違い関係なく本質を突いてくる。
生まれて初めての経験で、どっと疲れが出た。圧倒されたし、本当に世界を超えるべく人が集まっているのだと感じた。
スタンフォードの元学長でAlphabetの会長のJohn Hennessyもずっとプログラムに出ていて、いろいろな話が面白かった。
キャンパスに戻ってからも、一週間はずっと頭痛がした。脳みそが全部ひっくり返って、何が正しいのか、普通なのかの基準がわからなくなった。
世界を変えるために、最も優れた学生と最も優れた教育機関が本気で場所を提供してくれている。
何をするかは各人の自由。とてつもないプレッシャーで、進学を決めた時に"Challenge Accepted”だと感じたのを思い出した。
プレッシャーを感じながら、まったく無視して、真に価値がある何ができるのか。期待に応えるためには、期待を忘れねばならない。
真っ白な心で、真っ白なキャンバスに絵を描かねばならない。
Doug Leoneの講演会で聴いたこと
シリコンバレーあるあるなのかもしれないが、VCがスタンフォードの学生向けにセミナーをたくさん開いている。
カジュアルな会でも、GPやFounding Managing Partnerといった肩書の人が当たり前のように、学生を迎え入れてくれている。
ディールのソーシングが命のアーリーVCの気概というかプロフェッショナリズムを感じる。権威になればなるほど、セルフスクリーニングで起業家がためらってしまうリスクがあるのかもしれない。みんな驚くほどフランクである。
なかでも楽しみにしていたのが、Sequoiaの会長のDoug Leoneのレクチャー。
”Words Matter”というのが口癖の彼にぜひ質問をぶつけようと、当日は朝から頭がそのことでいっぱいになった。
中でも知りたかったのは、流行り廃りが激しいシリコンバレーで、何年もかけて事業を作る起業家はどうやって流行に乗り遅れずに軸を保てるか、というもの。
初心に立ち返って、QAは一番乗りで手を挙げた。気候変動のようにHipedな市況で、起業家はどうやって流行に乗り遅れず、なおかつ事業にフォーカスできるのか?
答えは、以下。
①そもそも、今の流行は数年前から仕込まないと乗れないから、今この瞬間の流行は気にするだけ無意味。
②安易に資金調達しない。エクイティは有限なのだから、PMFするまでは粘るべき。特に、アーリーの投資家はFirst One to Believe in Your Businessだから、お金以上の意味を持つことを忘れてはいけない。
③アクセルを踏めると思うまでは思い切ってBlack Outしろ。
考えていること
まとまった考えを持つまでにはまだまだ時間が必要だけど、感じたままに書いておくことにも価値があろうと思って、無理をしてみた。
スタンフォードは巨大な圧力釜であり、Spectator Societyのアメリカの象徴であり、世界の未来を担うことを当たり前に期待される場所でもある。
自分に何ができるかはさっぱりわからないし、来る前よりも確証はなくなった気さえする。
でも、力を抜いてみて初めて生まれる何かがあるはずで、それを虎視眈々と狙っていくしかない。
ベンチャーキャピタルの教授から、”One hypothesis that you know about the world and nobody else knows"ができたら成功する、というアドバイスをもらったのだけれど、使い古されたこの文言にも真理は含まれていると思う。
おそらく、スタンフォードでもシリコンバレーでも大半の人が重視することは、まったく重要ではない。
流行に乗ることは重要ではなく、人とネットワークを持つことは重要ではなく、スキルがたくさんあることも、メディアへの露出も重要ではない。
ただ一つの課題について考え抜いて、小さくても強靭な穴を社会に開けたところに、Spectatorは集まっていく。
人が集まるから重力があるのではなく、圧倒的な重力の気配に人が集まるのだ。
身体感覚として、シリコンバレーを吞み込んでしまいたい。そうしたら、世界に挑む道筋が見えるのではないかと直感する。