気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

新興国でリープフロッグを実現させるものは何か?

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正月休みに「新興国でリープフロッグを実現させるものは何か?」という議論をしていて、初歩的ながら実は考えたことなかったと思うので、書いてみたい。
 
日本やアメリカから「社会起業」やら「ソーシャル・イノベーション」やら「スタートアップ」のお勉強をしていた時は、アイデアの新しさや使われている技術にばかり目を奪われていたのだけれど、今となっては、アイデアをスケールを持って実行する難易度が高いアフリカ含む新興国では、「①モデルを作り、②スケールして、③生き延びる」を達成している事例が少なすぎて、5年以上インパクトを出しながら生き延び、スケールできれば、ほぼ自動的にイノベーションといえるのではないかとすら思えてきた(極論!)。
 
周りの事例を見る限り、①~③をすべて満たすために必要な要素は、次の7つに集約される印象。
  1. Entrepreneurship:最初に手を挙げて、何かを始める人がいなければ、イノベーションはアイデアで終わってしまう。理想にコミットして行動を起こす人がいることが、当然ながら第一歩になる。
  2. Technology:最先端かは別として、課題の解決に最も適した技術を選択し、開発し、適用できるか。新しいことは必ずしも価値ではなく、むしろ「カッコいい」アイデアほど、新興国などでは苦戦したりする。課題に直球で応える技術というのは、意外となかったりするので、古い技術を組み合わせたり、開発フェーズを規模で分けたり、工夫の余地はたくさんある。不確実性ありまくりの事業環境で「普通に動く」システムはほぼイノベーションといえる気がするくらい、稀である。
  3. Team / Talent:パイロットフェーズでは意欲ある2-3人が集まれば、何とかなる。ただ、これを事業化しようとすると、中間管理職を含めたミドル層など、きちんとした組織を構成するメンバーや、経験豊富な専門家もあわせたチーム作りが必須になる。当たり前のことに思えて、これが意外と難しく、アフリカで人材を外から引っ張れる欧米系企業がいまだに有利な理由だと思う。
  4. Finance:創業資金はもとより、技術開発や非線形的な成長のための投資をいかに効率的に集められるか(資金集めが大変すぎると事業づくりができない)、投資家と起業家の間のリスクリターンの目線があっているか、適切なインスツルメントが用意できるか。
  5. Economics:経済性を早い段階で意識できるか。課題も技術もたくさん考えることはあるなかで、どうすればBreakevenまで持っていけるかの仮説と検証。バーンそのものはスタートアップの宿命だけれど、コントロールできるかどうかが、投資家の資金提供が不安定な新興国では割と大切。各国の市場規模も大きくない中で、複数拠点化する際には特に大切。事業がオペレーションとして成立していても(それだけでも大変だし、すごいこと)、経済的に破綻しているケースが散見される。
  6. Ecosystem:事業が良ければ、成長する、というのは必ずしも正しくない。事業をサポートできるエコシステムがあるだけで、成功のハードルは一気に下がる。加えて、既得権益がある業界であれば、政府や他事業者などとステークホルダーマネジメントをする必要がある。
  7. Governance:細かいところはキリがないけれど、賄賂やら横領やら死亡事故やら、基本的な部分で足元をすくわれる話も聞くので、死なないようにする。IFCのPerformance Standardとかは網羅的でよくできているけれど、アーリーだと完璧な対応は難しい。

 

あるVCは、シリコンバレー的な一点突破主義よりもマネジメントのバランスを重視していて、「うわーすごい!」と思う会社ではなく、「しっくりくる」会社に投資する、といっていた。

新興国VCは、テック重視・マイノリティ保有のPE投資に近いので、わからないでもない。

先進国VCでおなじみのPower Lawが新興国でも通用するのかは、興味深いテーマだと思う。