Komaza 28週目:グラント・ファイナンスについて
毎日新しい発見があるソーシャル・エンタープライズでのファイナンスの仕事。
最近、公共性の高い大規模なグラントを調達したので、その時の経験について書いてみたい。
ファンド関係のドキュメンテーションや子会社管理は前職で馴染みがあったものの、ドナーの契約書という新しい性質のもので、正直右も左もわからない状況だった。
基本的に、こうしたドナーの多くは資金を政府の開発基金から集めているので、こうしたドナーの契約書は、お金持ちの慈善財団よりも厳密にリスクを管理し、国民(納税者)からの問い合わせがあればいつでもレシートと実績を引っ張り出して再評価できるような仕組みになっている。
そういう意味では、当然の厳しさなのだけれど、彼らがお金を出すのは新興国で社会課題に挑むベンチャーという、本流のVCでも手を出せない高リスク案件ばかりなので、紙の上での要請と現実が一致しない部分も少なくない。
また、もとの資金の出所からの要請などがあると、ちょっと無理やりに見えるような条項が付け加えられたりする。
こうした光景は、三菱商事でプリンシパル投資案件を担当した時にも、開発銀行などの公共性の高い投資家が有限投資組合契約書(LPA)の改定を求めたりしていたので、投資家・ファンド間のやりとりとして見覚えはあった。
ただあの時は投資しているファンドと投資家という第三者同士のやりとりだったので、今回いざ自分が契約当事者として読んでみるとかなり違和感がある。
変な責任を負わされたり、会社が傾いた時に傘を取り上げられたりしたら大変だ。
100%どころか90%の確約が難しいような守れない約束はしたくない。
ただ、そういう考え方では、そもそもグラントの契約なんて結ぶことができなくなってしまう
なぜなら事業が極めてリスキーなので、100%の内容だけで契約条項を決めると、投資をする側の権利がほとんどなくなってしまうからだ。
結果的に、投資を受ける側がリスクを丸呑みする書面になり、実際上は投資家の方も破綻した社会的プロジェクトに法的な追い討ちをかける意図もないので、一部の事例を除いて契約書通りの残酷な手続きを踏むことはないという「暗黙の了解」が成立しているらしい。
(例えば、先進国の開発関係機関が、支援先事業に失敗した社会的起業家を訴追したり、資産を剥奪したりするメリットはない)
それでも契約上は必要な条項を限りなく網羅的に担保しておかないと、いざという時に事態の収拾がつかなくなるし、納税者への説明責任を果たせないので、こうした厳しい文面を設定せざるを得ないのだろう。
はっきり言って、これが普通の金融機関やファンドだったら、絶対にサインしない(ビジネスの世界では当たり前だが、彼らは書いてあることは本当に仮借なくやってくる)。
レポーティングやコベナンツの多さ、プロセスの複雑さなど、恐ろしくて眠れない。
なので、一旦全部本気でレビューして、最終的に一発アウトになりうるものだけ追加でDDをして、最後はまとめることになるんだと思う。
これからはいよいよ本番のエクイティベースでの調達も始まるので、前哨戦としていい勉強になった。
今回のディールをきちんとまとめて、徐々に体制を作っていこうと思う。
ちなみに、今回色々な開発あるあるやグラントあるある、公共資金あるあるを体験したので、VCがよくやっているようなスタンダードな契約書ができたらいいなと思っている。
海外だとドナー法務部が握っているから厳しいのだろうけど国内NPO向けの投資契約書なんかはレビュー自体が起業のコストだと思うので、画一化できるのではないか。
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