戦術:集める/まとめる
1980年の発足以来、アショカは優れた社会起業家を「アショカ・フェロー」として認定し、世界最大規模のネットワークを始めとする支援活動を展開してきた。
過去34年間にフェローに選ばれたのは3000人ほどで、アショカSFSはこの中からビジネスの手法を用いて活動を行っている300人のフェローを分析して、“Design Principles”と呼ばれる戦略デザインを提唱している。
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“Investing in Impact: A Look at Market-Based Systems Change”
①Producer Aggregation(生産者の集約化/組織化)
この戦略は「製品・サービスの提供者を組織化/集約化することで、(しばしば社会的弱者である)彼らの購買力、規模の経済、知識の共有や団体としての交渉力を向上させること」と定義される。
貧しい農家や手工業者が一人ひとり個別に仕入れ、生産、販売をするよりも、同じ地域にいる同業者で協力して全行程を管理した方が効率よく良い製品ができる、ということだ。
一口に「効率化」といっても、作業の手順を簡略化するというよりは、むしろ社会的に虐げられている生産者の地位を向上させることによるメリットの方が大きい。
仕入れであれば、原料をふっかけてくる卸に対して、生産者団体として交渉すれば、まとまった量注文する分の値引きも可能だし、ひょっとすると原料を自分たちで共同生産するということもできるかもしれない。
生産に関しては、これまで個人が好き勝手にやっていたのを、共同作業所を設置してみんなで作業をする中で、品質管理の改善はもとより、新たなデザインの開発なども行われるようになる。
そして販売についても、地方から都市の市場へ製品を持っていく仲介業者を排除したり、生産者が定期的に市場調査を行ったりして、より高く売れるようにする。
つまり、生産者を上手く組織化することができれば、安く仕入れ、良いものを作り、高く売れるようになって、収益が飛躍的に高まるのだ。
また、こうした取り組みはしばしば、出稼ぎなどで疲弊しがちな農村部のコミュニティの構築や、政府との連携のきっかけにもなっている。
ある事例では、パキスタンで農村の女性たちを組織化して伝統工芸品を販売したところ、家庭の収入が4倍以上に増加し、子どもが学校に行けるようになったり、出稼ぎで家族がバラバラになるのを防いだりできるだけではなく、女性の社会的地位向上にも一役買っていた。
②Consumer Aggregation(消費者の集約化/組織化)
「買い手でグループをつくり、希望や、価格、新製品開発などの交渉を進めやすくする」というのがこの戦略だ。
先ほどの消費者の集約化とも一部ダブるのだが、日本のように市場が成熟していない地域では、いかに「お客様の要望」があっても全く無視されることも希ではない。それどころか、買い手が農民や単純労働者等であれば、社会的な弱みにつけ込まれて、搾取の対象にすらなる。
具体的に例を上げれば、ある農村では代々地主が苗を販売しており、自分の田んぼには品種改良された高性能の苗を植え、他の農民には不当な請求をして低品質の苗しか売らない、といったケース。
あるいは、数千円あれば機械が買えて、収入が増えるのに貧しくて買うこともできなければ、信用がないので銀行からお金を借りることもできない、という事例。
こうした事例はいずれも、買い手(借り手)の社会的地位が低すぎるために生まれる問題だ。
解決策としては、前者であれば農家を束ねて都市部の企業から苗を仕入れたり、国に働きかけて地主の不正を告発したりできるほか、後者であればグラミン銀行のように借り手を5人組のグループにしてお互いに監視させ合うことで信用を高め、小額融資を実行することができる。
このように、消費者/買い手をグループにすることで、リスクを分散させて信用を高め、同時にグループの社会的発言権を強めることで、必要なリソースへのアクセスをより簡単にする。