気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

戦術:価値を上げる/お金を作る/製品・サービスを広める

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昨日の投稿に続いて、今日は10ある“Design Principles”の③から⑤までを解説したい。

いずれも、より日本に暮らす我々の生活になじみの深い戦略であり、同時に貧困解決や公共サービスを行渡らせる重要な武器である。

 ※1980年の発足以来、アショカは優れた社会起業家を「アショカ・フェロー」として認定し、世界最大規模のネットワークを始めとする支援活動を展開してきた。
過去34年間にフェローに選ばれたのは3000人ほどで、アショカSFSはこの中からビジネスの手法を用いて活動を行っている300人のフェローを分析して、“Design Principles”と呼ばれる戦略デザインを提唱している。
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Investing in Impact: A Look at Market-Based Systems Change

 

③Value Capture(潜在的価値の可視化)

 「バリューチェーンに新しい仕組みを取り入れて、ある特定の集団が経済的な恩恵を得られるようにする戦略」のこと、と言われてピンと来る人は少ないだろう。

またの名を「ブランド化」。

例えば同じ革製のベルトでも、ルイヴィトンのマークがついているものとついていないものでは、値段が何倍も違うように、これまでは他の製品やサービスとの競争にさらされて買いたたかれていた品物でも、上手くブランド化することができれば、質的に同等の品物をより高い値段で売ることができる。

そして、収入が上がった分を、途上国などで原料を生産している人々に還元すれば、社会的弱者としてしばしば搾取される生産者の生活を変えることもできるのだ。

 

この分野最高の成功例と言われているのが、アショカ・フェローの一人であるPaul Riceも使っている「フェアトレード」だ。

フェアトレードがついている製品は、他の製品に比べてやや高めの値段設定だが、その差額がコーヒー豆やカカオの生産者にきちんと還元されている。

なので、お金に余裕のある人にとっては、よくわからないコーヒーよりも、自分が買うことによって困っている人の生活が楽になるとわかるフェアトレード製品の方が魅力的に映るので、高くても売れる。

特に先進国では、こうした「特別な」製品やブランドは、商標登録や知的財産などの形で法的に保護され、濫用を防ぎつつ確実に価値を生産者に還元することができるのだ。

 

日本でもちょっと製法を工夫した肉や卵などを「〜さんの家でとれた」と宣伝したり、有機栽培の野菜が売られたりしているのも、この一例といえる。

これまであまり知られていなかったけど、本当に価値のあるものをきちんと消費者に伝えることで、適正な価格でサービスや製品を市場に提供できるのだ。

 

④Alternative Currency(新しい通貨の創出)

 「従来の通貨とは別に、補完的な役割をする新しい通貨制度をつくる」戦略を代替通貨という。

身近な例では、商店街の共通ポイントのようなものだ。

実質的にはお金と同じような価値があるが、使える用途や場所が限られているので、その範囲でデザインされた行動を奨励する効果がある。

たとえば、全国チェーンのスーパーやコンビニへ流れる客を取り戻そうと、商店街がポイント引き換え制度をつくって地元の客層を呼び込むのと同じような仕組みだ。

 

例えば、あるアショカフェローは、都市部でいらなくなった古着を集め、それと引き換えに田舎で道路工事を地元の人々に手伝ってもらうプログラムを立ち上げた。

農村部でほとんど収入がない人々からすれば、古着は十分すぎる報酬になるばかりでなく、実際に転売すれば現金化できることもあって、多くの参加者を集めて一部の公共事業を受託するまでになっている。

 

⑤Distribution Channels販売網の整備

 中間業者にインセンティブを与えて、特定のターゲット層にサービスや製品を提供するのも、有効な戦略の一つだ。

都会も田舎も隅々まで輸送網が整った日本にいると、あまり意識しないものの、必要なサービスや製品が想定ユーザーまできちんと届くというのは実はすごいことだ。

 

例えば、コンビニのATM設置がこの部類に入る。

一昔前までは、お金をおろすには5時に銀行の窓口がしまるまでに、わざわざ近くの銀行までいって手続きをしなくてはならなかった。

だが、これでは日中仕事に追われる社会人や、急な飲み会や接待で現金が必要になる人にとってすこぶる不便だった。

そこで導入されたのが、コンビニ向けATMだ。

これは、既に人々が便利さを求めて24時間集まるコンビニという場所を借りて、だれでもいつでもカードを持っていればお金が引き出せるようになるという仕組みだ。

こうすることによって、利用者の便益が向上するだけでなく、時間外手数料を請求する銀行にとっても大きな収益となった。

もちろん、ここで「中間業者」の役割を果たすコンビニにも、ATMでお金を下ろしにコンビニへ来る人が増えるため、客数の増加が見込まれた。

 

同様にして、社会起業家の中には、学校などの既存インフラを利用して生活に必須な健康診断や医療行為を実施したり、アフリカでは携帯電話をカード代わりに預金の引き出し/振込ができるシステムを立ち上げたりしている。

いずれも、いちから販売網や通信網を立ち上げるコストを省くために、既存の枠組みを上手く利用して、効率よくサービスや製品を提供している。

 

このように、ビジネスの世界で当たり前のように使われている戦略は、隠れた価値を可視化して収入を増やしたり、特定の経済活動を活性化させたり、効率よく生活必需品や公共サービスを行き渡らせたりするための重要な武器となるのだ。■

 

 

戦術に関する過去の記事:

①戦術:社会問題をビジネスで解決する

②戦術:集める/まとめる