戦術:社会問題をビジネスで解決する
先週は、インパクト・インベストメント(Impact Investing)特集ということで、ソーシャルファイナンスで今一番熱い分野の概要と将来性について扱った。
社会起業が今後ますます盛んになる中で、資金調達を支える金融インフラの充実は喫緊の課題と言える。
一方で、本質的に最も重要なのが、社会変革を実際に担う起業家たちだ。
彼らは困難な社会的課題を、実に巧みに市場の力やビジネスの手法を利用して、解決していく。
そういう人がもっと増えれば、今ある社会問題の多くは解決できるはずだ。
では、どうすればビジネスの知見を社会問題の解決に応用することができるのだろう?
今週は、アショカが発表した研究
“Investing in Impact: A Look at Market-Based Systems Change”
に書かれている内容をもとに、社会問題の事業化の秘訣を探っていきたい。
※なお、この資料は一般公開されており、リンク先からPDFでダウンロード可能です。
ビジネスで社会問題を解決する?
と聞いて、イマイチピンと来ない人もいるかもしれない。
そんな人は、まず、家にある冷蔵庫のことを考えてみてほしい。
今でこそ、どこにでも当たり前に存在する冷蔵庫。
実は冷蔵庫を手頃な価格で人々に届けるというビジネスも、大きな社会問題の解決に貢献している。
それは、食糧の効率的な生産と消費だ。
つまり、北海道でとれたトウモロコシを福岡で食べられるようになる。
より土の豊かな場所で農業を、工業が盛んな場所で製造業を、というような現代の分業制を支えるのは、冷蔵技術を駆使した輸送網である。
そして、ひとたび家庭に食べ物が行き渡れば、それをどのタイミングで食べるかは冷凍/解凍の技術の進歩でほぼ自由に決めることができる。
一昔前なら、収穫した食べ物が腐らない距離にある農家にあるものしか人々は食べられなかったし、保存が上手くいかなければ飢餓や食当りによる病害に苦しむことにもなった。
昔なら、「食べきれないから捨てるしかない」ものが、冷蔵と冷凍保存によって有効活用されるようになっているのだ。(それでも我々が食べるのと同量の食品を食べ残しとして廃棄しているのは、別の社会問題だ)
当たり前の、何の変哲もない「白物家電ビジネス」も社会に大きく貢献しているのだ。
製造業に限らない、人と人とをつなげるコミュニケーションビジネス、介護などのサービス業、何だってビジネスは少なからず社会の需要(=問題解決を求める潜在的/顕在的な必要)に応えている。
さらにいえば、いわゆる日本式経営の思想と、ソーシャル・アントレプレナーのそれは根源を一にしている。
例えば、経営の神様こと松下幸之助氏は「会社は社会の公器」といっていたし、遡って明治以前の近江商人たちは「三方よし」(売る側、買う側、そして世間様が幸せになる)という価値観を持っていた。
いうまでもなく、ビジネスとは社会的な営みに他ならない。
1980年代後半からの、利益最大化を偏重する世界経済の流れからすれば、社会とビジネスの密接なつながりは特異かもしれない。
だが根源的な意味において、ビジネスはすべからく社会問題の解決に寄り添った行為なのだ。
明日からは、具体的にアショカが70カ国3000人のフェローとよばれるアントレプレナーを分析して導きだした「勝利の法則」を紹介していきたい。