社会起業が解決する9つの壁
先週は「社会起業10の戦略」をテーマに、ソーシャルアントレプレナーがよく用いる戦術を1週間かけて解説した。
今回は、こうした戦略がどのような状況下で役立つのか、9つの事例を参考に考えたい。
①排他的な社会制度がある
政治的、文化的、経済的な違いから、社会のメインストリームから斥けられてきた人々がいる。
国によっては、特定の民族が経済活動を独占していたり、女性の行動に制限がくわえられたりしている。
こうした社会の中のカベは、人々の可能性を大きく狭めるだけでなく、本来活かされるべきリソースを無駄にすることにもつながる。
こうした社会制度を変えるために、排除された人々に働きかける社会起業家は少なくない。
②情報が届かない
日本にも「情報格差」という言葉があるように、必要な情報が得られるか否かで、経済活動の範囲や人生の可能性は大きく変わる。
往々にして、情報が不足していることよりも、情報を届けるシステムがないことが問題の根本になっている。
③経済的インセンティブがない
どんなにいいとわかっていても、経済的なインセンティブの有無は、人の行動を大きく左右する。
どんなに良心がある人でも、飢死するまで社会のために何かをする、というのは極めて希だ。第一、ガンジーのように政治活動をしているのでない限り、より多くの人を巻き込んで、インパクトを最大化する上で経済的インセンティブの欠落は致命傷になる。
④現実的な選択肢がない
焼き畑農法など持続可能性に乏しいとわかっていても、生きていくためには仕方ないから、という理由で長期的に自分たちの未来に不利なことをしてしまう。
彼らを責めるよりは、彼らが何らかの行動を起こせるような現実的な選択肢を提供することが求められている。
⑤法外なコストがかかる(ように強いられている)
中間業者の手数料や、地主による搾取などは、しばしば他に選択肢を持たない人々に対して法外なコストを強いている。こうした社会構造を打ち破るためには、新しいルートをきりひらいていく必要がある。
⑥リソースが活用されていない
貧困地域だからといって、何もないということは希である。
社会通念として女性が働けない、伝統工芸がある、など可能性を秘めた資源が眠っていることがある。
あるものをフル活用すれば、人々の収入を上げて子どもたちを学校に行かせることができる。そうすれば、子どもたちもまた教育を受けて、その社会の未来に貢献するようになる。こうした事例は枚挙に暇がない。
⑦交渉する側の立場が弱い
貧しくても社会的に影響力のある人、といって何を想像出来るだろう。
貧困は、それに苦しむ人の社会的な力を削ぐ。
日々の生活の必要物資を買うのにふっかけられたり、労働力として搾取されたりするのを防ぐには、社会的な立場を強くするしかない。
⑧信頼関係が築けない
長い間社会から見放されてきた人々と、社会のメインストリームにいる人々の最大のカベは偏見に基づく信頼関係の欠如だ。
社会起業家はこうした偏見を取り除き、信頼関係を構築するためのシステムを生み出す
⑨極端にリスクを見積もっている
貧困地域でビジネスを開こうという人がいても、彼らが融資を受けられる先は限られている。いきなり商品をもっていっても、買ってもらえる可能性は低い。
それは、例えば「貧困地域」=「ダメ」のような偏見によって、リスクが過大評価されてしまっているからだ。
こうしたリスクを取り除くためには、信用を積み重ねそれを定量的に表すシステムを開発することなどが求められる。
ただ、こうした社会の思い込みと現実のギャップは、社会起業家にとってはレバレッジをかける最高の機会にもなりうる。
先週紹介していた「社会起業家10の戦略」が克服する「9つのカベ」は途上国ばかりではなく、先進国の問題にも共通して見られる問題だ。
こうした課題に対して、「慈善」を越えて解決策を打ち出すために、ビジネスや金融の知恵は大活躍する。
社会起業戦略シリーズの投稿:
③戦術:戦術:価値を上げる/お金を作る/製品・サービスを広める
※1980年の発足以来、アショカは優れた社会起業家を「アショカ・フェロー」として認定し、世界最大規模のネットワークを始めとする支援活動を展開してきた。
過去34年間にフェローに選ばれたのは3000人ほどで、アショカSFSはこの中からビジネスの手法を用いて活動を行っている300人のフェローを分析して、“Design Principles”と呼ばれる戦略デザインを提唱している。
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“Investing in Impact: A Look at Market-Based Systems Change”