戦術:つながりを強化する/市場を創る/コスト構造を変える
今日は社会起業10戦略の最終回!
これまで紹介した戦略はこちら:
①戦術:社会問題をビジネスで解決する
②戦術:集める/まとめる
③戦術:戦術:価値を上げる/お金を作る/製品・サービスを広める
④戦術:新製品をつくる/金融インフラとつなげる
⑧マーケットとのつながりを強化する / Strengthening Market Linkages
地理的に離れていたり、社会的な断絶があったりすると、サービスや製品がきちんと然るべきマーケットまで届かないことがある。それを解決するのがこの戦略だ。
例えば、山間部の貧困地帯の伝統工芸品は、地元では日用品でも大都会ではインテリアやアートなどとして高値で売られていたりする。
それでも、中間業者が不当な値段でこうした工芸品を買いたたいていたり、そもそも生産者が都会の市場と接点を持たなかったりすると、せっかくの価値が活かされない。
日本で身近な例は、最近都内で増えているファーマーズ・マーケットが挙げられる。
有機栽培など特別な作物を栽培する農家が、直接消費者のあつまる都会へ出向いて販売するという仕組みは、従来スーパーや八百屋などが独占してきた市場へのルートに替わる新たな選択肢だ。
だだ、この問題は、地域によっては地域の格差が社会的な差別意識と結びついていたりするので、決して単純ではない。
こうした社会的、経済的、政治的、文化的「断絶」を橋渡しするのがこのアプローチだ。
成功の暁には、単なる収入の増加だけでなく、これまで社会的に虐げられてきた弱者
⑨マーケットの創出/Market Making
これまでは様々なリスクがあってなかなか市場として成立しなかった分野を支援するために、第三者がそのリスクを肩代わりする戦略は政策レベルでも有効性が知られている。
例えば、戦後の日本政府による米の買い取りと食糧管理政策は、政府が価格の乱高下というリスクを肩代わりして、日本の農業の安定的成長を下支えすることに成功した。
60年代になると、日本の農業生産は安定した一方で、必要以上の米が生産される「コメ余り」が社会問題化し、政策の必要性が見直されることとなった。
とはいえ、戦中戦後の不安定な食糧供給で、一次は飢饉による大規模な餓死まで懸念された日本を救ったという意味では、当初の日本政府の政策は非常に有効であったといえる。
こうした土台の上に今日の市場が成り立っているように、この戦略は市場を立ち上げる初期段階で実力を発揮する。
現代に時を移せば、銀行でお金を借りるためのクレジット、すなわち信用を測るための新しい指標を開発する、といった手法はマイクロファイナンス機関などで多く見られる。
このように、市場の力を最大限活用する「きっかけ」を生むことが時として求められるのだ。
⑩コスト構造を変える/ Changing Cost Structure
原材料や、デザイン、製造方法に新しいアイデアを持ち込んで、生産者の収入を改善することは、ビジネスにおいても幅広く行われてきた。
高価な原材料の代わりになる素材を見つける、よりシンプルで使いやすいデザインにして製造を簡単にする、同じ製品を全く違った方法で安価に製造する。
省いた手間やコストは生産者に収益として還元されるだけでなく、価格が下がったことで、そのサービスや製品を必要とするより多くの人が買い求められるようになる。
たとえば、ホームレスが社会問題となっているブラジルでは、ほとんどの人が自分の手で家を立てて生活している。
ある社会起業家は、高温での「焼き」が必要で割高な従来の煉瓦に替わって、この力と特殊な素材だけで手軽に耐久性と耐水性のある煉瓦を製造する技術を開発した。
このおかげで、建築費の50%を占めていた煉瓦代が大きく下がり、住宅事情が著しく改善した。
加えて、地方政府と協力して新たな製造技術を導入した結果、地元に工場ができて雇用も創出され、地域全体の活性化にも貢献している。
このように、一口にコスト構造と言っても、工夫次第では生産者だけでなく周囲のコミュニティにまで良い影響をもたらすことができるのである。
この1週間、5回にわたってアショカが提唱する「社会起業10の戦略」を解説してきた。
明日からはさらに踏み込んで、こうした戦略に立ちはだかる壁や、組織作りについても話を進めていきたい。