戦術:新製品をつくる/金融インフラとつなげる
今日は社会起業家の戦術シリーズ第3回!
⑥新製品の開発
市場が求める新製品/サービスの開発は、特に発展途上国で有効な戦術だ。
洗濯用洗剤を例に、考えてみよう。
自動車が普及していてほとんどの買い物客が自動車を使い、大きな洗濯機で大量に洗濯して広い庭や乾燥機で一気に乾かす習慣のあるアメリカでは、しばしば信じられない大きさの洗剤を見かけることがある。
これは、自動車での買い物を前提としているので、1パッケージ当りの重さをあまり気にしないでよく、なおかつ洗剤の消費量が多いアメリカの現状に即した背品であると言える。
一方で、日本ではどうだろう?
買い物客は近所のスーパーに自転車や徒歩で行くこともあり、高性能の白物家電の御蔭で洗剤の使用は最小限で済む。この国でアメリカサイズの製品を売っても、ほとんどの消費者の需要には応えられない。
同じように、途上国では、大きなパッケージの製品は、一度の買い物にしては単価が高すぎる。つまり、1度の買い物で数ヶ月分の洗剤(海外のモノなら特に高価だ)を買うだけのまとまったお金が手元にはなく、むしろ毎週1週間分の小分け袋なら買うことができる客層が多いので、製品は必然的に小分けになっていく。
このように、同じ製品であっても、その場所ごとの需要に合わせた形に作り替えを行うことが重要になってくる。
別の例を上げれば、中国やインド等で流通している超格安タブレットやスマホは、日本やアメリカのような先進国の消費者にはジャンクに見えたとしても、途上国でYouTubeやフェースブックにアクセスしたい若者たちにとっては願ってもないものだ。
従って、先進国の水準や形態と同じでなくては市場で売れないということもなければ、こうした製品が社会に役に立つとも限らないことは理解されるべきである。
農業機具や、基本的な工業機械等も同じことが言えて、現地の要求レベルに即した扱いやすく購入しやすい製品は常に世界中で求められているのだ。
需要に応えた新製品は人々の生活を大きく変える力を持っている。
⑦金融インフラへのアクセス
日本では9割以上の人が銀行口座を持っている。
そんなの当たり前、と思う人もいるかもしれないが、実は銀行口座を持っているだけで社会も個人もすごく得していることを知っている人はあまりいない。
得その1:安全
日本でも火事や台風などで、家に保管していた貴重品がなくなることがある。まして、銀行口座がなかったら、毎月の給料も将来の為の貯金も何かの拍子に全て失ってしまうかもしれない。
銀行の大きな金庫で、それなりの保障もついて、お金をまとまって保管してもらえることで得られる安全の価値は計り知れない。
まして、紛争が勃発したり、犯罪が頻繁に起きたりする地域ならなおのこと、こうしたサービスが大切になる。
得その2:移動
不意の出来事があって、急にお金が必要になった!という時に、銀行に行けばどこでもお金を下ろせる。
そして、不足すればお金を借りたり、家族から送金してもらったり出来る。
必要な時に必要なお金に手が届く環境は、世界的にはまだまだ希だ。
例えば、日本人として初めてアショカのグローバルフェローに選出された杤迫篤昌氏は、アメリカの出稼ぎ労働者が本国にいる家族に送金するためのインフラを格安で提供している。(それまでは犯罪の温床ともつながる非正規ルートで30%近い手数料をとられていた)
一人ひとりの利用額は少なくとも、全体で見ると総額7兆円がアメリカから出稼ぎ送金されているというから驚きだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20061030/112688/
このように、必要な時に必要なお金にある程度手が届くようにしていないと、ちょっとした不測の事態が破産や借金地獄などの致命傷になりかねない。
得その3:資産の有効活用
銀行に預金されたお金は、金庫で眠っているわけではない。
預金で得たお金は、銀行が運用、つまり将来性のある事業に投資されている。
つまり、誰かが預けたお金が、また別の人が自分の事業を成長させて、人々の生活を豊かにさせるために使われるという仕組みが働くのが預金制度なのだ。
なので、いわゆるタンス預金は、単に利息がついたりする機会を逸しているだけではなく、そのお金を運用することで社会に貢献しようとする実業家の機会をも奪っているといえる。(だからといって、全財産を預金する必要はない)
銀行口座がないということは、社会に出回る資金が不足することであり、ほとんどの人口が預金をしなければ、それだけ社会の成長につながる投資が欠乏してしまうのだ。
このように、普段なじみのない金融インフラは、当たり前のように機能していながら、実は社会の根幹を支えるものなのだ。