気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

131週目:COVID19検査に呼び出される

今週は、ホテル軟禁が終わってナイロビでの生活を本格始動させた。

同居人はアフリカのスタートアップやらPEファンドやら、Kilifiでは他社のプロフェッショナルと日常接点が薄かったこともあって、刺激的。

ただでさえ、Work from Homeでぐったりしているときなので、ダイニングでのちょっとした立ち話に救われている。

ケニアではまだコロナの波は本格化していないものの、治安や情勢が急変する可能性がある場合は、あちこちから情報が勝手に集まってくる場所にいるべき。

Expatsやコンサルなどは早々に退避しているらしいが、社会起業やスタートアップ、国際機関などはまだまだ大半が残っている印象。

自分の命を守るためにも、周りに迷惑をかけないためにもアンテナを高くしていきたい。

 

週が始まって早々にケニア政府の保健省からコールドコールがあり、至急検査したいので、医療チームを自宅に向かわせるとのこと。

さすがにウイルスと接触している可能性が高い医療チームが自宅にどかどか入ってくるのはまずいので、こちらから出向くことに。

指定場所はケニヤッタ病院に併設された疫病研究センター。

到着するなり医師に迎えられ、ヨーロッパからの渡航から19日経っていて症状もないこと、日本人だが最後に日本にいたのは1月であること、などを説明したものの「大臣じきじきの命令だからとりあえず受けてくれ」と頼まれ、ケニアで遭遇した大企業的浪花節に困惑しつつも検査を受けさせられる。

陽性だったら連絡が来るはずで、すでに1週間以上たっているのでたぶん大丈夫なのだろう。

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(のどとはなに綿棒を突っ込むのがめちゃくちゃ痛い。。。)

 

ケニア政府は今回の危機にとてもまじめに取り組んでいて、まだ感染者が限定的だったタイミングで小規模地域封鎖や夜間外出禁止とレストランの営業停止(デリバリーは可)などを次々に打ち出している。

集中治療室のような設備が極めて限られていることもあり、未然に防ぐことに注力しなければいけない背景もある。

個人的に一番怖いのは、外出制限などで影響を受けた零細事業者が増え、失業が深刻化し、日雇労働者が大半のスラムなどから治安が悪化していくこと。

大使館や周りの駐在員との連絡を怠りなく、仕事もちゃんとしていきたい。

 

COVID対策生活も数週間目に入る。

もはや一時的な緊急対応ではなくて、新標準なのだと思わないとやってられないので、生活設計を改めて考え直し始めている。

今以上に自分でスケジュールをコントロールできる機会もないので、自分なりのペースを確立し、習慣化してみたい。

 

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(気分転換にジョギングしていたら、1.5メートルくらいありそうな巨大な野鳥を発見。ナイロビ市内にも国立公園や森林があるのでSocial Distancingしながら探索してみたい)

129-130週目:Covid 19 Crisis

ケニアに帰国してからあっという間にコロナが世界を席巻し、株式市場は歴史的大暴落を迎えた。

財務責任者としての自分の仕事は、危機への対応が半分、そして危機への準備がもう半分なので、これまで積み上げてきた仕組を発動させながら、同時に事業への影響に合わせた対策を講じていく。

今回の経済危機がコロナショックと呼ばれることは予想外だったにせよ、マーケットの修正局面はおととしぐらいから盛んに予見されていたことで、財務基盤が確立されていないスタートアップだけに、祈りながら色々と準備をしていた。

 

Covid-19の直接的な影響といえば、

  • オペレーションへの行動制限(集会の禁止、移動制限など)
  • 財務的影響(新規投資停止、ポートフォリオ縮小、など)
  • ロックダウンなどの不確定性
  • 従業員の安全確保(エキスパットの帰国など)
  • 政治不安

くらいのもので、これまで幾度となく政治経済的ショックに触れてきた投資家は、先行き不安を感じながらも、比較的冷静に対処している印象。

とはいえ、これまで積み上げてきた関係性がなければ、投資家サイドが一斉に守りに入っている今日のような状況下では、ほとんど何も動かないだろうなとも思う。

インナーサークルに入るタイミングが大切で、投資家側も投資される側もパイプラインを積み上げてきたか否かが、今のように不確実性が高い中で意思決定をする上で決定的な違いを生むと実感している。

 

ブログに書ける範囲で、起きたハプニングといえば、某投資家の現地DDが中止になったこと。

ギリギリまで間に合うか間に合わないか議論している間に、1週間かけて現場をめぐり、経営陣と面談するために準備していたDDツアーが渡航制限で不可能になった。

そこであきらめたら、インハウスで投資プロフェッショナルのチームを作った意味がないので、オンライン会議ツールを駆使してマネジメントプレゼンテーションと質疑応答を、ビデオ録画を使って現地訪問を決行。時間としては予定の1週間の倍の2週間かかったものの、結果は上々。

終わってしまえばいい思い出なのだろうけれど、心配で寝られない2週間だった。

僕自身もヨーロッパから戻ったばかりということで、ホテルの部屋に自主隔離していて、投資家はWFH、会社側もリモートという相当カオスなプレゼンだった笑


そんなこんなで、あっという間に一か月が過ぎてしまった。

おそらく歴史に残るであろう全世界的危機の中にいる実感もあり、毎日ニュースを読んではその日のことを記録するようにしている。仕事のしやすさや安全なども考慮して、自分はケニアに留まることにした。

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荷物を取りに戻ったナイロビーマリンディ便。これで飛んだのがすごい。

 

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カフェは早々に封鎖され、デリバリーのみに。

127-128週目:欧州出張

約1週間半の欧州出張。これまで詰めてきた内容の確認と、「最後の一撃」のために再度ヨーロッパへ。今回はロンドンとパリ。侃侃諤諤に議論を戦わせていたこれまでの出張とは違い、あるべきものをあるべきところに収めていく感覚があり、仕事が終盤に差し掛かってきたと実感。
 
週末は、ロンドンの街並みを散策する。Victoria&Albert MuseumからCityの端まで約7キロ。美術館から高級ショッピング街、バッキンガム宮殿、シティと変わりゆく街の姿に全く飽きずに3時間くらい歩き通した。普段は田舎の小さな世界で人生に没入感を持って暮らしていると、ロンドンのような大都市では対照的に「自分は何者でもない」という実感がある。いったい今やっていることは将来につながるのか、自分はただ井の中の蛙ではないのか、そんな問いを久しぶりに思い出したりした。
 
学生時代や社会人になりたての頃は、色々な可能性に興奮しながらも、同時に意思決定をするたびに隣の芝が青く見えて、「あっちの方がいいのではないか」とよく悩んだりしていたが、今の自分はその時から比べれば、遥かに悩みが少ない。ファーストキャリアで身に着けたものを存分に使って仕事ができているのも幸せで、果たすべき役割に真摯に向き合う喜びというのは、没入感と達成感の両方を届けてくれている。
 
今の自分はインパクト投資とClimate Financeの結節点に立っていて、業界の未来については山ほど不満と怒りを抱えている。その怒りに僕は耐えられなくなって別の世界に行ってしまうのか、それともその怒りを事業のアイデアに変えることができるのか、こればかりは粘ってみないと分からない。ただ、30年前のバイアウト業界や10年前のインフラPE業界も、玉石混交でやんちゃ三昧だった話を聞くにつけて、業界が「なっていない」と思える時こそ、プラクティスを作ることで市場に参加できるような気もしている。「なかなかに人里ちかくなりにけり、あまりに山の奥をたづねて」という心境に近いかもしれない。突き詰めるだけ突き詰めた先に、少し答えが見えて、結果的に原点回帰しそうな予感がある。
 
今の仕事に飛び込む前に考えていたことは以下の通り。予想からの乖離はそんなになくて、むしろ思ったより問題の解決に時間がかかりそうという実感があり、個別の問題点の解像度があがった気もする:
  • インパクト投資の需給:「資金流入スピード>>>人材流入スピード」であり、事業側の成長がボトルネック。一方、投資家になりたい人はたくさんいて、シニアで上がっちゃったファイナンスのプロがさん有しているので勝ち目がない。むしろ、流入する資金をさばける人材であることが、業界での地位確立に役立つ。
  • 新興国経験の大切さ:転職活動をしたときに、新興国経験がないせいで何度か冷たい対応をされた。腰掛けでもいいので、とりあえず行ってみることが大切。
  • PE・VCが求める人材:今後、アフリカ・ブームがやってくるときに、現地の企業の経営を経験している人が不足する。現地にはまだ外資企業も少なく、投資銀行・コンサルといった人材の供給源は極めて未熟。インドや中国のように人口・経済成長・高度人材のすべてが揃った新興国は少なく、アフリカでは依然としてExpatのニーズが高い。そこを先取りして抑えていくことで、10年単位でのキャリアの資産としたい。
  • 未熟な市場:資本市場・ベンチャーエコシステム、あらゆるものが急成長中であり、未完成。そういう場所だからこそ、自分のプロフェッショナル業としての仕事がプラクティスとして意味を持つ。未完成な場で達成する「正しい施策」こそが、時代を作るメルクマールになる。
  • 実力を試す:三菱商事では、本当に色々な仕事を経験させてもらった。ただ、グローバルなプロフェッショナル・ファームのように、世界的に統一されたトレーニングの対極のOJTと徒弟制で育った自分が、どこまで通用するのかが不安で転職活動中は本当に鬱だった。とはいえ、その答えを知るには、ぬるま湯から抜けてOwn Riskでつっこんでいくしかないわけで、腹をくくるなら早いほうがいい。
経済危機の端緒に居合わせたタイミングもあって、ロンドンのオフィス街を歩きながら、「こんな立地にオフィスを持ってビジネスを回せるってすごい。想像がつかない。こうした企業もかつては零細企業だったりスタートアップだったりするわけで、この世界の広さと奥深さを自分はまだ理解しきれていない」なんて感傷的になった。
知識としては当たり前のことなんだけれど、体感的に理解したのはこれが初めてかもしれない。

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週末をまたいでミーティングのためにパリに移動。この時はユーロスターも客足がまばらになっていた。
ボッシュ財団のフェローシッププログラムに同じく日本人として参加している方とも会うことができて、数時間学生のようにカフェで語りつくしてしまった。
本業のコミュニティが限られてくる一方、フェローシップを通じて新しい議論の場を広げていければと思う。

 

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自分も事業に対して果たすべき仕事をせねばと思う。ロンドンからケニアへは12日の夜便で帰国。幸いケニアへの入国も体温測定だけで済んだ。

126週目:Sankalp Africa

今週は相変わらず事務仕事に忙殺される。
DD対応はようやく佳境を超えた気がするものの、投資家同士の調整にひどく神経を使う。
忙しいのは順調な証拠として、色々と気をもみながらも、根本的な不安からは徐々に開放されている。
 
週内のハイライトは、年一回ナイロビでひらかれるインパクト投資カンファレンスのSankalp Forum。
インドの投資ファンドAavishkaarが主催するイベントで、(確か?)今年が5年目。
過去3年参加しているけれど、毎年陣容が豪華になっていていて、去年は世界最大の機関投資家のひとつ、TIAA-CREFのCIOからメッセージが届いていたりしていたけれど、今年はMicrosoftとJohnson & Johnsonがメインスポンサーになっていって、アセットクラスとしてのインパクト投資から、新興国VCとしてのインパクト投資へのシフトを感じる。
3年前とかだったら、事前に面白いパネルを調べて、質問まで用意して乗り込んでいったんだろうけれど、今回は知り合いとのキャッチアップであっという間に時間が過ぎてしまった。
界隈の皆様が集まるイベントということで、犬も歩けば棒に当たる的に、”Hi- how are you doing? Are you still doing XXX? What are you going to do next?"みたいになるのが若干うっとおしい笑
 
それはさておき、このカンファレンスの主な目的が、インパクト投資ファンドとして異例の数十パーセントリターンを叩きだしたAavishkaar Capitalの創業者Vineet Rai氏との面談。
三菱商事の1年目にARUNの勉強会に残業後遅刻して参加して、メインのプレゼンテーションをほぼ聞いていなかったにもかかわらず図々しく質問攻めにしてたら、「君は典型的な日本人ではないなw」と連絡先を渡してもらい、それ以来5年以上定期的にカンファレンスなど機会を見つけては話をしている。
 
「インパクト投資」というフワッとしたテーマの気持ち悪さに苦悶していた5年前に、Vineetの毅然とした事業への姿勢というか気迫のようなものを感じたことが、最終的に今のキャリアに至るきっかけだったと思う。
業界のすう勢だとか、資金の流れだとかそういう環境要因以上に、新興国で挑戦するにはどういう事業を、どのようなプライオリティで作るのか、という本質的なビジネス論を会場の片隅で2時間ぎっしり議論できたのは本当に贅沢。

そもそも経験年数のあるプレーヤーが少ないこの業界で、巨人の肩に乗れることは、感謝してもしたりない(インパクト投資がそこまで日本ではやっていなかったときに招聘講座を開いてくださったARUNに感謝!)。
 
さて、来週はまたヨーロッパ弾丸出張。がんばります。
 
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125週目:

先週の越境DDツアーでたまりにたまった仕事を淡々とかたずける。
Good NewsとBad Surpriseがかなりの強度で両方来ており、若干燃え尽きた。
金曜日は激務に連日耐えながら、新しいチャレンジを毎日のように戦っているチームとのディナー。
土曜日はなんとか半日休みをとって、走り込みと読書。残り半日は、今後のCEOとの時間軸の打ち合わせ。
時々刻々と状況が変化する中で、毎月のように状況を棚卸して、最善策を考え抜く。
スタートアップだからこそ、常に弱者であり、Underdogでありながら、いかに状況をコントロールできるか。
商社でもCreating something out of thin airについては、色々な伝説(笑)を見聞きしていたものの、いざ当事者となると考え方が違ってくるし、一期一会という言葉の重みに日々戦々恐々としている。
出来るだけのことを後悔なくやり続ける以外にできることはないと割り切る胆力が大切だと思う。
 
仕事の気分転換に弓道について調べていたら、「正射正中」の名人芸として、的を見ずして的中させる演武がYouTubeに上がっていた。
曰く、正しい姿勢、正しい動作、正しい心持ちで弓を引けば、的への意識なしでも的中できるとのこと。
的を求める気持ちの焦りが、的を逃すというのは、耳の痛い話で、玲瓏の境地をいつになったら実践できるのだろうかと嘆息してしまった。
今は初めての挑戦の連続に全力をぶつけることしかできないけれど、そうした試練の先に静かな境地があってほしいと思う。