気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

2018年「準備の年」から「証明の年」へ

「準備の年」

2017年は、「準備の1年」になりました。
三菱商事ではアセットマネジメント全般という広い世界から、バイアウトの部署に移り、退職まで短時間ながらファンドの投資委員会にも出席しながらファンドだけではない企業の運営について学べたことは、今実際に企業のなかで仕事する上で大きな糧になっています。
総合商社で事業投資先の管理といった地味な仕事から、花形の事業開発に至るまで、一通り立ち会う中で、ビジネスパーソンとしての判断基準のベースを作ることができました。
 
退職後、10月からケニアでCEO補佐として仕事を始め、12月には本来なら半年あった試用期間を切り上げて、新年度からプロジェクト・マネージャーとしてチームを作りながらファンドレイズを軸に会社の成長戦略立案にも関わっていきます。
わからないことだらけ、大事な仕事が山積するなかで苦しい優先順位付けを迫られ、国際機関との細密な文書のやり取りから新しい施策のコンセプト立案まで毎日が楽しくて仕方がありません。
新しい職場・ポジションも含め、絶望のフェーズを経て、ようやく挑戦するための舞台が整ったのが、2017年でした。
 
 

「証明の年」

2018年は、「証明の1年」にしようと思います。
幼い時から情熱を持ってきた事業経営、大学で出会ったインパクト投資、商社で目の当たりにした事業投資の世界、人生をかけて準備してきたすべてのインスピレーションを、「企業の成長とインパクト最大化」というゴールに向けてみようと思います。
自由に全力で挑戦する機会なんて、人生に何度かしかないわけですが、今回はそうかもしれない、と直感しています(前回はブラウンに入学した時でしょうか)。
自分は臆病な性格なので対外的には希釈した、受け入れられやすいアイデアを出すことが多かったのですが、この一年は自分の中で煮えたぎるものを、生のままぶつけていこうと思います。
エッジを削ぎ落とす前の、生身の自分が世界とどう触れ合い、どう反応されるのか、それを肌身で学ぶことが自分の境界線を見定めるために必要だからです。
自分の仮説、そしてそれを実現する実力を、失敗もしながら証明していくのがこの1年です。
"If you don't fail, you are not pushing it far enough."(「失敗がないということは、挑戦していないということだ」)というIra Magazinerの言葉に日々立ち返ろうと思います。
 

中長期の挑戦について

学生時代から、「どんな仕事をしたいのか?」「将来の野望は何か?」と聞かれ続けてきたのですが、既存のキャリアトラックではどこへ行っても自分の興味関心を実現できないということを今更ながら実感しています。
情念溢れるアントレプレナーの世界観と、プロフェッショナリズムの最高峰にあるファイナンスやインパクトの切り口を自分なりに重ねた先にあるのは、既存のビジネスセクターでも、ソーシャルセクターでも、パブリックセクターでもない気がしています。
結局は、「自分の業界」を作ることでしか、自分の世界観を世に問うことができないのではないか?そういう人物になるために、どうしたらいいのか?
そんな問いが、頭をよぎります。
 
その方向性を定める第一歩が、今回のケニアのソーシャル・スタートアップでの挑戦です。
CEOの直下で仕事をする中で、自分はファイナンス担当者なのか、戦略担当者なのか、はたまた事業開発者なのか、アイデンティティを巡る問答を続けていこうと思います。
筋道がイメージできるまで徹底的に考え抜くのが自分のスタイルですが、最終的には「なるようになる」部分や、「とにかく行動しながら、なんとかする」という考え方もあるので、今まで以上に体を張っていこうと思います。
 

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Komaza Fellowship 10週目:世界最大級のインパクト投資カンファレンスSankalp Forumに行ってきた

12月7-8日にインドのムンバイで開催されたインパクト投資カンファレンスSankalp Global Summit(サンカルプ・グローバル・サミット)に参加してきた。

少し時間が経ってしまったのだけれど、世界有数の会議であり、投資する側、される側の両方の人たちが一堂に会する場で、学ぶことが多かったので記録として残しておきたい。 

Sankalpとは?

インパクト投資カンファレンスというと、米国西海岸のSOCAPやシンガポールのAsia Ventrure Philantrophy Network(AVPN)が有名だが、インパクト投資やソーシャルビジネスのメッカ、インドで行われるSankalpも世界中のインパクト投資家が集まる一大イベントだ。

先日発表されたマッキンゼーの調査によると、インド国内では2010年から2016年の7年間に52億ドルが社会的事業への投資に向けられた。

驚くべきはそのリターンで、トップティアのファンドは平均して34%のグロス・リターンを上げているという(全体の中央値は10%)。

新興国として数億人単位のBOP人口があり、優秀な若い才能を抱え、数少ないIPO市場を擁しているインドは、インパクト投資がいち早く地場で根付いた地域でもあり、そこから生まれたVCのアービシュカール(Aavishkaar)が開催するSankalpには、世界のインパクト投資家が注目する。

 

 

ということで、今回印象的だった場面・発言をハイライトしていきたい。

 

「そこらの社会起業家よりもイーロン・マスクのほうがはるかに優れた社会的インパクトをもたらしている」

彼は国際機関やNGOたちがこれまでどんなに努力しても実現できなかったスピードと規模で、一挙に再生エネルギー(SolarCity)や電気自動車(Tesla)を普及させている。

ファンタジーのような理想を描いて、それを徹底したリスク・テイクと実行で実現させる人物こそが、本質的な意味での社会的起業家になってくる。

もはや、ソーシャルセクターとプライベートセクターが二分された時代は終わりつつある。

 

 

「インパクトばかり考えているインパクト投資家は、投資に失敗する」

優れたインパクト投資先は、ビジネスモデル自体にインパクトが組み込まれているので、殊更にインパクトに注力したプロジェクトを立ち上げる必要自体がない。

企業がビジネスとしての成果に集中しても、対象人口がBOPや社会的弱者であるなどして自動的に社会的インパクトにつながるような事業こそが、優れたソーシャル・ビジネスだ。

 

ファンド・マネージャーの立場から見れば、「インパクト投資家」を謳っていても、やっていることは基本的には普通のベンチャー投資と同じであり、しかもファンドレイズ環境は普通のベンチャー投資を自称したほうがはるかにいい。

 

「アセットクラスとしてインパクト投資を捉えるのは間違っている」

ゴールドマンサックスなどの投資銀行やブラックロックのようなアセットマネジメント会社、TPGのようなPEファンドに至るまで、世界のトップ投資家・金融プレーヤーが数百億から数千億単位でインパクト投資のポートフォリオを構築している。
そうした中で、インパクト投資も新しいアセットクラス(投資対象となる資産のジャンル)として認知されているのだが、そうした「十把一絡げ」なくくり方でインパクト投資を始めても、結局中途半端に終わってしまうとの声が会場で度々聞かれた。
そもそも「社会的インパクトを目的に投資する」というのは、「経済的リターン(=投資収益)を目的にする」いわゆる従来の「投資」とほとんど変わらない漠然としたテーマだ。
 
参考まで、実際に自分・自社がインパクト投資家になるときに考えないといけないのは、ざっくりだけど次の通り。
  • なんのために?ー社会的インパクトだけでいいのか、経済的リターンも追求するのか?社会的インパクトをどう定義するのか?
  • どこに?ーホームグラウンドの地域なのか、国外なのか?途上国なのか、先進国なのか?
  • 何に?ーそもそも企業なのか、NPOなのか、アントレプレナー個人なのか、マイクロファイナンス機関なのか、プロジェクト(不動産、インフラ、プログラムなど)なのか?
  • どうやって?(どんなリスクをとるのか?)ーエクイティ、メザニン、デット、債務保証、グラント(寄付)などなど、なんのリスクに対してどんな形で投資するのか?
  • どこまで関与するのか?ー経営権をとるのか、お金だけか、資金以外の支援をするのか?
  • パートナーはいるのか?ー単体でできるキャパシティがあるのか?有力なパートナーは必要か?DDから投資実行、フォローアップ、インパクト評価までどんな建て付けがベストか?
これだけ変数があるからこそ、結局は個別の案件の経験が、業界での地位を決める事になるのだろうと思う。
熱狂的信者(Enthusiast)ではなくて、実務家Practitioner/Professionalとしてこの業界で仕事をする意義がある。
 

基調講演をされた渋澤さんと。日本のソーシャル・ファイナンス業界の方々も結構参加しており、「おー、久しぶり」という出会いが何度もあった。

 

「インパクト投資家は”Blended Finance”なんてカッコ良くいってるけれど、そんなJargon(陳腐な流行語)じゃなくて、起業家にアクセスしやすいシンプルな投資プラットフォームを早く作って欲しい」

これはフォーラムに参加していた起業家が、パネリストをしていた投資家陣に向けた質問。

ひとえに「インパクト投資家」といっても、商業銀行や開発銀行、ファミリーオフィス(富裕層の私設投資ファンド)、ベンチャーキャピタル、エネルギー投資会社など様々なプレーヤーが混在する。

リスク選好も投資機関も、規模も多種多様な彼らの流行語になっているのが”Blended Capital”(様々なタイプの資金を混成したファイナンス手法)という言葉だ。

一見すると、ファイナンス手法のイノベーションのようなポジティブな響きだが、起業家からすれば単に資金調達を投資家の都合で複雑化されているように見える。

個人的には、今後もこの傾向は続き、投資家の意向に合わせて適切なファイナンスを受けられるような設計をする会社内ファイナンス担当者の存在がどんどん重要になると予想している。

今は、投資家も投資を受ける企業側も、お互いが業界スタンダードを模索しているタイミングだと思う。

 

 

「どうだ、起業家サイドで仕事してると、投資家目線のマクロな質問をしているだけじゃ、世の中動かないことがよくわかるだろ」

Sankalpを主催するファンド・マネージャーVineet Raiから直接言われた言葉。

彼と初めて出会ったのは、社会人1年目の秋にARUNさんが企画・開催したアービシュカールの紹介イベント。

仕事終わりに飛び込んで、散々質問攻めにした挙句、帰りのエレベータにも乗り込んで、インパクト投資をどうすればキャリアにできるのか詰め寄った(そんなことばかりしてるので、こんな耳の痛い小言を言われる笑)。

その後も、来日の際の立ち話やメールで経過報告はしていて、今回ケニア行きの直前にも、優れた投資家に求められる知識と経験と実行力を鍛えるために、事業に入っていきたいという話をしたばかりだった。

実力を遺憾なく発揮できる立場にある今、大企業にいた頃のような言い訳はもうできない。

今年はプレーヤーになりたい一心で準備してきたのがようやく結実した年だったので、

 

Vineet Rai氏と。

 

例によって遠慮ゼロで質問しまくった結果、オーガナイザーからゲスト・発表者用のギフトを頂いてしまった笑

 

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Komaza Fellowship 12週目:年末のナイロビ

あっという間に年度末なので一週間の振り返り。
 
ケニアは国民の9割近くがキリスト教徒ということもあり、クリスマス前から休暇シーズンに突入する。
ということで、会社は21日水曜日で営業を終了して、来年の4日までクローズになる。
 
今週は年度末定例の保険やらリファンドやら、諸々の手続きを済ませつつ、先々週から最終段階にあるグラント申請の詰めを行う。
同じ組織の担当者数名からいろいろなツッコミが入って慌てふためきながらも、なんとか形にできそう(とか言っている今もメールが飛んできている)。
 
クリスマスは、王道のマサイマラで過ごすべく、木曜日からナイロビに入った。
マリオカートみたいなローカルバスの運転で人生最大の車酔いを経験しつつも、沿岸部とはまったく違う大都会を満喫中。
ご飯も美味しいし、Expats(海外駐在員)も多いので、新鮮な環境。
しかも、泊めていただいているのは、トレーニーとして駐在している前職時代の同じ部署の先輩で、久しぶりに懐かしい話で盛り上がる。
夜は、ナイロビにいる起業家や駐在員の日本人コミュニティに混ざって中華料理を楽しんで気分転換。
東アジア料理も日本人だけのディナーも数ヶ月ぶりで、なんだかぎこちなくなってしまった。
 
今回のナイロビ訪問には仕事のミッションもあって、Komazaの既存投資家ともミーティングし、来年のファイナンス戦略に向けた優先順位を確認してきた。
つまるところ、ファイナンス担当の仕事はグラントにせよ出資にせよ借入れにせよ目の前の一つ一つの作業にあるわけで、基本的な仕事の精度、スピード、成果を高めていくこと全てに優先されるということを再確認する。
経営的視点を理解しなければ、起業家を支えることはできないけれども、それ以上に日々の仕事のスピードと質が事業全体の成果を左右してしまうというのも、スタートアップの現実。
ありとあらゆる重要なことが未着手でも、最も致命的な部分からケアしていくという、優先事項の中の優先事項をさっさと片付けることで初めて、きちんと本質的に大切なことに時間とリソースを使うことができる。
そこに至るまでは力技であることを改めて肝に銘じたい。
 
 

ナイロビまでは、キリフィの自宅から5分の所にあるバス停から夜行バス。途中休憩のサービスエリアは深夜2時でもこの通り大繁盛。新幹線が通っても、道路交通は人的移動・物流の中心。

 

ナイロビの都会っぽさに感動しつつ、ナイロビNo.1と言われるカフェLe Grenier A Painへ。まともなコーヒーも、ケーキも久しぶりすぎて散財してしまった。

 

Karenという高級住宅地にあるVCのオフィス。数エーカーの土地に立つ一軒家がそのままオフィスになっている。ミーティングをしたバルコニー、ストーブも置いてあってオシャレすぎる。

 
 
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Komaza Fellowship 11週目:試用期間から真剣勝負へ

ケニア生活も2ヶ月半が経ち、ようやく日常生活は一通りの「想定外」やハプニングを経験できている。
日曜日にインド出張から帰国して、月曜日は投資家とみっちり次年度の事業計画について議論し、火曜日(独立記念日で祝日)と水曜日はアディス・アベバからやってきたドナーとの面談
木曜日と金曜日は、ドナー面談で出てきた論点を潰すべくひたすらアプリケーションと予算組み。
開発の世界の独特な言い回しや考え方(ときに経済観念を無視しているというか、大々的に矛盾する笑)に翻弄されながらも、マッキンゼーから派遣されている優秀なドナーの担当者に救われながら、何とか形になった。
こういう官僚的な文書作成をするときに、ビジネスと組織特有のロジックと両方を理解してくれるパートナーがいてくれるのは本当にありがたい。
 
今週のハイライトは何と言っても中間レビュー。
もともと、このKomaza Fellowshipは、会社とフェローそれぞれにとっての「お試し期間」だったわけだけれど、数ヶ月後に失効する雇用ビザ更新の関係でレビュー(成績評価とオファー)を2ヶ月目の終了時点ですることになっている。
自分の場合は、上司がCEOなので、何を言われるか内心ドギマギしながら、準備をしていた。
個人のパッション、中長期的なキャリア観、会社内での仕事について話をする流れで、無事に希望していたポジションでオファーをもらうことができた(何が評価されたのかについては前回記事参照)。
オファーレター自体は先にもらっていたので、あとは条件交渉や実質的に「特命担当」となっている今の立ち位置を今後どうしていくのか、キャリアステップとして社内でどのようなポジションを期待するのか、といった話が議題になる。
大企業とは違い、偉くなること自体にそこまで意味はないので、会社の向かうべき方向にどうやったら自分が一番貢献できるのかを考えてプレゼンし、筋の良い役割は何なのかという観点から交渉したのが功を奏したのかもしれない。
いよいよ、スタート地点に立てたということで、来年から100%の仕事ができるよう年末は余念無く準備をしたい。
 
【余談】
木曜日は忘年会的なイベントが開催され、食事をしたりケーキを食べたり、出し物をしたり大騒ぎだった。

みんなの大好物のチキン・ビリヤニに並ぶスタッフたち

こんな丸太の形の特注ケーキも用意されていた。バウムクーヘンみたいで結構美味しい

 

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ケニアのスタートアップでも活きる商社スキルとは?

今週はちょうど入社2ヶ月目ということで、上司(CEO)からのリビューがあり、無事に希望していたポジションに昇進が決まった(というか提案した業務とタイトルをやらせてもらえる)。
タイトルそのままですが、ちょうどいい節目なので、ベンチャー経験ゼロ、途上国経験ゼロの自分がどうやって最初の2ヶ月間を生き延びたかを書いてみたいと思う。
一般的に大企業からベンチャーへの転職は、大成功と大失敗の明暗が分かれやすいと言われていることもあるので、ソーシャルセクターやベンチャーへ飛び込もうとしている大企業やグローバルファームの若手の方々の参考になれば嬉しい。
(もちろん、これはあくまで2ヶ月目での印象なので、1年後には大苦戦しているかもしれないのだけれど。。。)
 

1. ガバナンス能力

商社時代に一番自分が嫌いだった事業投資先のガバナンス対応。
取締役会の度に上がってくる規程や決議をいちいち社内規程や関連する規制に照らし合わせ法務部などとも吟味して、時には訳のわからない数のハンコを貰いに稟議のスタンプラリーする。
そんな経験はもうなかろうと勇んでケニアのベンチャーに転職した僕が入社して一番最初に任された仕事はなんと会社の「リスク管理規程」の作成。
 
「なんだそれは!?」と最初こそ思ったが、よくよく聞いてみれば、投資家からリクエストされたものの社内に分かる人が誰もおらず、未整理のままになっていたらしい。
幸いに、同様の文書は散々レビューしたことがあったので、ウェブ上のテンプレを参考にしながら数日で諸々の管理規程一式を書き上げ、無事第一号タスクはデリバーできた。
この時も、かつてめんどくさいと思っていたコーポーレート部局とのやりとりなんかを思い出しながら、会社の形態の合う形にテンプレを直していったのが功を奏して、投資家からの評価も上々だ。
大企業のしがらみ全てを導入したら、間違いなく会社は立ち行かないんだけれども、何を考えておくべきかという想定問答集として大企業のリスク管理システムは参考になる。
また、ソーシャルセクターなど、国際機関や公的機関とやりとりの多い組織であれば、スタートアップにこそこうした文脈を理解して、要領よくこなせる能力のある人が求められる(そういう官僚主義も理解しながら、アントレプレナーっぽいことができる人材は以外と少ない)。
要すれば、百戦錬磨のアントレプレナーにスタートアップのスキルセットで挑むよりも、彼らが持っていない大企業的な「当たり前のことを当たり前にする」システム構築力で勝負する方がバリューが出しやすいのではないか、というのがこの2ヶ月の印象だ。
 

2. 企画屋としてのアナリスト能力

大概のインダストリーの話を数日かければさも専門家のように語り、そしてそういうハッタリで更にいろいろな専門家と交流することで、急速にラーニングしていく能力。
学習後1週間で専門家に「興味深いですね」と言ってもらえるインサイトを探り当てる知的体力。
専門家に負けない知識を身につけるよりも、専門家が自分たちと同じ仲間だと思ってくれて、なおかつビジネス実務の理解もある存在としてリスペクトしてもらうことが、質の高い情報を得るための鍵になるということを、商社で学んだ。
 
情報はストックよりもフローであり、その流れを作るのが上手い人がビジネスチャンスをつかんでいく。
「分からなくても、情報を整理することにバリューがある。分からないなりに思い切った仮説を持つことを恐れるな」と言っていた上司の言葉が身に染みる。
 
これは、自分が配属されたのが事業開発部という特異な部署で、毎日のようにMBAホルダーの上司たちとマクロ経済から個別企業のビジネスモデルまで散々議論しながら新規事業を考えていた経験があったからかもしれない。
ちなみに、この能力は、人や社会を動かすことに力点が置かれる分、きっとコンサルの人たちが学ぶ厳密な検証よりもより遊びが多い印象(分析だけでなく、時にはデータや分析を基に秀逸な小話を作ることも笑)。
 

3. ストーリー説得力

セールストークは、商社パーソンの必須スキル、と言われながらも、トレーディングから事業投資へと事業形態の切り替えが進む今日にあっては若干不安定なこの能力。
自分の場合は、組成するファンドの売り込みに上司と同行することが何度もあり、そうした経験が今投資家と対面するときのベースになっている。
投資対象に限らず、関係する小話から数字、金融史の話まで、縦横無尽に相手を巻き込むスキルは、これからも実践を通じて磨きをかけていきたい。
 

4. アレンジ・傾聴力

日本企業の無駄の象徴として語られるアレンジ業務。
確かに無駄なんだけれども、僕なりの理解は、「アレンジ力=環境をコントロールする力」という見方。
交渉するにせよ、信頼関係をつくるにせよ、意図した結果の実現確率を上げるために場を整え、流れを整えるために想像力を駆使して、準備するという基本スタンスは仕事のベースになっている。
 
レストラン選びとか飲み会に限らず、相手の好みや思考のパターンを把握して、次のステップを予測し、計画する「傾聴→企画」のプロセスは他の仕事でも活きてくる。
自分は優秀な上司たちの詰めに怯える毎日を過ごしたおかげで、実際今までCEOから聞かれて答えられなかった質問も、論点として提示されて提案資料を出せなかったことも一度もない(ありうる論点は事前に整理して、追加説明・提案が必要なものはパワポの形で保存されている)。
 
会話についても事前に場所と状況を考慮し、論点を整理して行っていることで、最小限・最効率のコミュニケーションを徹底しているし、複数人の会議は事前に論点振りや落とし所を明確にしてファシリテートする(この点は、雑談をコミュニケーションとして尊重していた前職より、時間あたりの議論濃度を重視している)。
 
同時に、アレンジャーとしてコミュニケーションに不安がある場合は前後のフォローをする。
こうした一連の「流れづくり」の作業は、商社の若手としての下積みが多分に活かされている気がする(ただし、実際に仕事をしつつ、アレンジもやったからこういう理解ができたのであって、「若手にはとにかく下働だけさせる」というやり方は大反対だ)。
 

5. 感情察知能力・ポリティカルスキル

いわゆる「人間力」のように語られる気がするけれど、これは単に酒を酌み交わしたりスポーツをして仲良くなりましょう、というものではなくて、人心の機微に配慮し、インセンティブ設計を誤らない考え方。
金融で散々Conflict of Interest(利益相反)やガバナンスの議論をしたおかげか知らないが、ロジカルな検討の上できちんとこの辺りを抑えて施策を実行しておく重要性は、大企業で学んでおいてよかったと思うことが多い。
 
最近読んだ京セラの稲盛さんの本に「人に罪を作らせない」という一節があったのだけれども、こじれるべくしてこじれる話をいかに減らせるかは、新しい制度設計や人材採用を次々にしなければならないベンチャーでは重要な能力だと思う。
あと、時々「スタートアップ=オープンで社内政治なんてない」と勘違いしている人がいるが、スタートアップの方が、個人の裁量が大きく、制度のガバナンスも少ないので、構造的に感情面やポリティカルな行動が表面化しやすい。
 
そいういう意味で、いわゆる優等生会社員はベンチャーには向かないのかもしれない(そういう人に限って、日経新聞を鵜呑みにして「やはりベンチャーの時代だと思います」とか平気で言っていたりするから恐ろしい)。
時代の適応と個人の適応が一致するとは限らない。
 

6. ニッチ業界への知見

これはどこの業界へ転職するかによると思うのだけれど、自分の場合は、森林・農地投資やVC投資、アフリカ投資など様々な案件に関わったときに身につけた業界知見がそのまま基礎知識として生きている。
特にB2B領域では、業界外から業界の生きた情報を仕入れるのは難しいので、こういうナレッジは自分のキャリアの判断材料だけではなく転職後の日々の仕事においてもバリューになる。
特に、自分の場合は森林アセットのファンド化というニッチなプロジェクトを担当することもあり、同年代の人材で代替される可能性がゼロに近いというのは、決定的な成功要因になったと思う。
 
僕自身は、「自分の業界」を見つけるために、世界中のあらゆる業界と接点のある総合商社に入社したきっかけになっているので、どちらかというとあえて狙いに行った形。
配属リスク含めてかなり無茶なことをしたわけだけれど、実際にケニアに移ってからも、前職での2年半が存分に活きているのは嬉しい発見だった。
 

まとめ:つまらないことほどバリューになる

以上、思いつくままに書いてみた。
振り返ってみると、いわゆる大企業的で、仕事としてどちらかというと「つまらない」と思っていた基礎的な作業の方が、自分のコア・バリューになっているのが面白い(なので、「大企業なんてつまらない」と思わずに下積みすることにも意義があるのかもしれない)。
自分で事業を立ち上げたり、エンジニアとして一匹狼で武者修行している人たちと仕事をする中で、自分の競争優位性やコア・コンピタンシーを見つけようとすると、正統派のビジネスの考え方やプロセス、「あるべき姿」を理解していることがエッジになる。
 
一方で、会社が成長すれば、同程度の経験を持つ大企業やグローバル・ファーム出身の人が流入してくるので、そんなエッジに価値はあっという間になくなってしまう。
なので、ここからはそうした一般的なスキルセットを前提に、会社に対する個別具体的な価値付けをして、自分のバリューを上げていくことでキャリアを固めていくことが鍵になる。
年功序列では、在籍時間がそのまま自分のポジションになっていくが、ベンチャーでは在籍時間をきちんと功績に繋げて初めて自分の存在価値が積み上がってくる。
入社直後に役立った大企業的なスキルセットをベースに、来年度からは会社の成果に直結するユニークな価値を出すことに注力していきたい。
 
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