Zeitgeist

ケニアのスタートアップで企業参謀。留学した後の話。

ケニアのスタートアップでも活きる商社スキルとは?

今週はちょうど入社2ヶ月目ということで、上司(CEO)からのリビューがあり、無事に希望していたポジションに昇進が決まった(というか提案した業務とタイトルをやらせてもらえる)。
タイトルそのままですが、ちょうどいい節目なので、ベンチャー経験ゼロ、途上国経験ゼロの自分がどうやって最初の2ヶ月間を生き延びたかを書いてみたいと思う。
一般的に大企業からベンチャーへの転職は、大成功と大失敗の明暗が分かれやすいと言われていることもあるので、ソーシャルセクターやベンチャーへ飛び込もうとしている大企業やグローバルファームの若手の方々の参考になれば嬉しい。
(もちろん、これはあくまで2ヶ月目での印象なので、1年後には大苦戦しているかもしれないのだけれど。。。)
 

1. ガバナンス能力

商社時代に一番自分が嫌いだった事業投資先のガバナンス対応。
取締役会の度に上がってくる規程や決議をいちいち社内規程や関連する規制に照らし合わせ法務部などとも吟味して、時には訳のわからない数のハンコを貰いに稟議のスタンプラリーする。
そんな経験はもうなかろうと勇んでケニアのベンチャーに転職した僕が入社して一番最初に任された仕事はなんと会社の「リスク管理規程」の作成。
 
「なんだそれは!?」と最初こそ思ったが、よくよく聞いてみれば、投資家からリクエストされたものの社内に分かる人が誰もおらず、未整理のままになっていたらしい。
幸いに、同様の文書は散々レビューしたことがあったので、ウェブ上のテンプレを参考にしながら数日で諸々の管理規程一式を書き上げ、無事第一号タスクはデリバーできた。
この時も、かつてめんどくさいと思っていたコーポーレート部局とのやりとりなんかを思い出しながら、会社の形態の合う形にテンプレを直していったのが功を奏して、投資家からの評価も上々だ。
大企業のしがらみ全てを導入したら、間違いなく会社は立ち行かないんだけれども、何を考えておくべきかという想定問答集として大企業のリスク管理システムは参考になる。
また、ソーシャルセクターなど、国際機関や公的機関とやりとりの多い組織であれば、スタートアップにこそこうした文脈を理解して、要領よくこなせる能力のある人が求められる(そういう官僚主義も理解しながら、アントレプレナーっぽいことができる人材は以外と少ない)。
要すれば、百戦錬磨のアントレプレナーにスタートアップのスキルセットで挑むよりも、彼らが持っていない大企業的な「当たり前のことを当たり前にする」システム構築力で勝負する方がバリューが出しやすいのではないか、というのがこの2ヶ月の印象だ。
 

2. 企画屋としてのアナリスト能力

大概のインダストリーの話を数日かければさも専門家のように語り、そしてそういうハッタリで更にいろいろな専門家と交流することで、急速にラーニングしていく能力。
学習後1週間で専門家に「興味深いですね」と言ってもらえるインサイトを探り当てる知的体力。
専門家に負けない知識を身につけるよりも、専門家が自分たちと同じ仲間だと思ってくれて、なおかつビジネス実務の理解もある存在としてリスペクトしてもらうことが、質の高い情報を得るための鍵になるということを、商社で学んだ。
 
情報はストックよりもフローであり、その流れを作るのが上手い人がビジネスチャンスをつかんでいく。
「分からなくても、情報を整理することにバリューがある。分からないなりに思い切った仮説を持つことを恐れるな」と言っていた上司の言葉が身に染みる。
 
これは、自分が配属されたのが事業開発部という特異な部署で、毎日のようにMBAホルダーの上司たちとマクロ経済から個別企業のビジネスモデルまで散々議論しながら新規事業を考えていた経験があったからかもしれない。
ちなみに、この能力は、人や社会を動かすことに力点が置かれる分、きっとコンサルの人たちが学ぶ厳密な検証よりもより遊びが多い印象(分析だけでなく、時にはデータや分析を基に秀逸な小話を作ることも笑)。
 

3. ストーリー説得力

セールストークは、商社パーソンの必須スキル、と言われながらも、トレーディングから事業投資へと事業形態の切り替えが進む今日にあっては若干不安定なこの能力。
自分の場合は、組成するファンドの売り込みに上司と同行することが何度もあり、そうした経験が今投資家と対面するときのベースになっている。
投資対象に限らず、関係する小話から数字、金融史の話まで、縦横無尽に相手を巻き込むスキルは、これからも実践を通じて磨きをかけていきたい。
 

4. アレンジ・傾聴力

日本企業の無駄の象徴として語られるアレンジ業務。
確かに無駄なんだけれども、僕なりの理解は、「アレンジ力=環境をコントロールする力」という見方。
交渉するにせよ、信頼関係をつくるにせよ、意図した結果の実現確率を上げるために場を整え、流れを整えるために想像力を駆使して、準備するという基本スタンスは仕事のベースになっている。
 
レストラン選びとか飲み会に限らず、相手の好みや思考のパターンを把握して、次のステップを予測し、計画する「傾聴→企画」のプロセスは他の仕事でも活きてくる。
自分は優秀な上司たちの詰めに怯える毎日を過ごしたおかげで、実際今までCEOから聞かれて答えられなかった質問も、論点として提示されて提案資料を出せなかったことも一度もない(ありうる論点は事前に整理して、追加説明・提案が必要なものはパワポの形で保存されている)。
 
会話についても事前に場所と状況を考慮し、論点を整理して行っていることで、最小限・最効率のコミュニケーションを徹底しているし、複数人の会議は事前に論点振りや落とし所を明確にしてファシリテートする(この点は、雑談をコミュニケーションとして尊重していた前職より、時間あたりの議論濃度を重視している)。
 
同時に、アレンジャーとしてコミュニケーションに不安がある場合は前後のフォローをする。
こうした一連の「流れづくり」の作業は、商社の若手としての下積みが多分に活かされている気がする(ただし、実際に仕事をしつつ、アレンジもやったからこういう理解ができたのであって、「若手にはとにかく下働だけさせる」というやり方は大反対だ)。
 

5. 感情察知能力・ポリティカルスキル

いわゆる「人間力」のように語られる気がするけれど、これは単に酒を酌み交わしたりスポーツをして仲良くなりましょう、というものではなくて、人心の機微に配慮し、インセンティブ設計を誤らない考え方。
金融で散々Conflict of Interest(利益相反)やガバナンスの議論をしたおかげか知らないが、ロジカルな検討の上できちんとこの辺りを抑えて施策を実行しておく重要性は、大企業で学んでおいてよかったと思うことが多い。
 
最近読んだ京セラの稲盛さんの本に「人に罪を作らせない」という一節があったのだけれども、こじれるべくしてこじれる話をいかに減らせるかは、新しい制度設計や人材採用を次々にしなければならないベンチャーでは重要な能力だと思う。
あと、時々「スタートアップ=オープンで社内政治なんてない」と勘違いしている人がいるが、スタートアップの方が、個人の裁量が大きく、制度のガバナンスも少ないので、構造的に感情面やポリティカルな行動が表面化しやすい。
 
そいういう意味で、いわゆる優等生会社員はベンチャーには向かないのかもしれない(そういう人に限って、日経新聞を鵜呑みにして「やはりベンチャーの時代だと思います」とか平気で言っていたりするから恐ろしい)。
時代の適応と個人の適応が一致するとは限らない。
 

6. ニッチ業界への知見

これはどこの業界へ転職するかによると思うのだけれど、自分の場合は、森林・農地投資やVC投資、アフリカ投資など様々な案件に関わったときに身につけた業界知見がそのまま基礎知識として生きている。
特にB2B領域では、業界外から業界の生きた情報を仕入れるのは難しいので、こういうナレッジは自分のキャリアの判断材料だけではなく転職後の日々の仕事においてもバリューになる。
特に、自分の場合は森林アセットのファンド化というニッチなプロジェクトを担当することもあり、同年代の人材で代替される可能性がゼロに近いというのは、決定的な成功要因になったと思う。
 
僕自身は、「自分の業界」を見つけるために、世界中のあらゆる業界と接点のある総合商社に入社したきっかけになっているので、どちらかというとあえて狙いに行った形。
配属リスク含めてかなり無茶なことをしたわけだけれど、実際にケニアに移ってからも、前職での2年半が存分に活きているのは嬉しい発見だった。
 

まとめ:つまらないことほどバリューになる

以上、思いつくままに書いてみた。
振り返ってみると、いわゆる大企業的で、仕事としてどちらかというと「つまらない」と思っていた基礎的な作業の方が、自分のコア・バリューになっているのが面白い(なので、「大企業なんてつまらない」と思わずに下積みすることにも意義があるのかもしれない)。
自分で事業を立ち上げたり、エンジニアとして一匹狼で武者修行している人たちと仕事をする中で、自分の競争優位性やコア・コンピタンシーを見つけようとすると、正統派のビジネスの考え方やプロセス、「あるべき姿」を理解していることがエッジになる。
 
一方で、会社が成長すれば、同程度の経験を持つ大企業やグローバル・ファーム出身の人が流入してくるので、そんなエッジに価値はあっという間になくなってしまう。
なので、ここからはそうした一般的なスキルセットを前提に、会社に対する個別具体的な価値付けをして、自分のバリューを上げていくことでキャリアを固めていくことが鍵になる。
年功序列では、在籍時間がそのまま自分のポジションになっていくが、ベンチャーでは在籍時間をきちんと功績に繋げて初めて自分の存在価値が積み上がってくる。
入社直後に役立った大企業的なスキルセットをベースに、来年度からは会社の成果に直結するユニークな価値を出すことに注力していきたい。
 
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