ケニアスタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

ベンチャーで担当者が経営者的思考を手に入れる方法

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年末のこの時期は振り返りとフィードバックセッションをするのだけど、新しくこの秋からマネージャーになったチームメンバーから、アソシエイトからマネージャーへの移行プロセスと学習すべき知識について質問をされた。
僕自身、単なる「若手」として可愛げとハードワークを武器にしていた総合商社時代から、全社でコーポレートファイナンスの責任者になるという階段を必死に上ってきたこの3年間、同じようなことを考え続けてきたこともあり、あまり他人事とはいえないテーマである。
今回チームメンバーとホワイトボードの前で話をする中で明確になってきた3つの成長段階を書いてみたい。
大企業からベンチャーに参画した人や、若手から中堅になっていく中で仕事への姿勢を切り替えようとしている人のご参考になれば幸いである。
ちなみに、起業家・経営者にとっての追加的な視点にも言及しているのでよければこちらもご覧頂きたい。
 

①Expertise:専門家としての視点

ファイナンスなり、テックなり、オペレーションなり営業なり、自分の中核となる専門性。
何をすべきか、何を考えるべきか、どうするべきか、などの具体的な仕事のあり姿を示してくれるもの。
仕事を始めたばかりは誰もが一定程度、「なんでも屋さん」状態にあるのを、自分の適性や仕事の状況に合わせて磨いていくキャリアの中心軸。
 
決まった領域であれば、基本的に自分で何でもできるようになるべく、日々修行するフェーズ。
自分の場合は、学生時代のインターンら始まって、新卒での投資業務、転職してからは財務やディールマネジメントを強みにすべく、貪欲に知識と経験を吸収してきた。
言うまでもなく、日々の学習は一生続く。ただし、学習する効果は知識・経験が広がるにつれ、逓減していくことが多いので、新しい領域に手を広げるか、次にあげる2つの能力を伸ばすことで成長曲線を再び立ち上がらせ、Sカーブにすることができる。
ちなみに、専門家としてキャリアを築くのであれば、②以降よりもこの専門家としての知識を経験を通じて深めていくことになる。
 

②Project Management :チームで成果を上げるプロジェクト視点

仕事上の知識が身について、自分の得意領域のようなものが見えてくると、今度はマネージャーとしてプロジェクト管理をすることが求められるようになる。
自分で何でもできるのは大切だけれど、1日24時間しかないわけで、自分の作業を効率化していくのには限界がある。
結局は細かな効率化を積み重ねて10%キャパシティを広げるより、半分の仕事スピードの人を雇って50%作業効率を上げるほうが、経営的には優れた打ち手と言える。
ミーティングのアジェンダ設定から切り回し、カレンダーの仕切り、タスクの管理やRACIマトリクス、クリティカルパスなど、当たり前になっている業界ツールをインプットしては実践して磨いていく。
専門性をてこにして難しい部分は自分で手を動かしながらも、チームを組成して人に働きかけてプロジェクトを取りまとめることで成果を上げるフェーズ。
実務的には大変だけれどやりがいもあるが、プロジェクトマネジメントだけだと出来る人がそれなりにいるので、複数のプロジェクトを切り盛りしたり、さらに上流の経営論点を考えられるようにならない限りここで停滞する。
ベンチャーなどでも、このタイプの人は一定数存在して、任せた仕事をそつなくこなす安定的な中堅層になる反面、10年単位でみてどこまで劇的な成長やキャリアアップがあるかは疑問。
 

③Business Judgement:経営者の目線

いわゆる、経営的視点。
専門性は経営上の論点の一部でしかなく、プロジェクトをいくつ束ねても、事業の総体としての理解と判断能力がない限り、上には行けない(行く必要があるかは本人の好み次第)。
自分の事業領域や担当領域が限られていても、管掌役員としてのオーナーシップをばっちり発揮したうえで、経営目線で優先順位付けができる人は、スタートアップでは稀有な存在だ。
天才肌の起業家などで、専門性もプロジェクト管理もだめだめなのに、直感的判断が優れているケースがあるように、実際のところ仕事の最上流は経営全般のバランスを取り、同時に容赦なく優先順位の判断を下していく能力だ。
とりわけ、自分のBaby Projectがあると、執着を取り払うのは難しいので、色々な人と議論をしたり、「自分にとって必要なプロジェクトが会社にとっても同じくらい重要なのか」を自問したりすることになる。
起業家でない限り、この能力はトレーニングされにくいので、優秀な経営陣にメンターになってもらうか、ブログや自伝、講演などあらゆるアウトプットに触れること、何よりそうした能力のある人との会話について行けるようになることが大切。
また、正確な自分の役割を理解するために、直接のレポーティングラインの外にいる経営幹部とも常に情報交換をして、社内外の環境を把握していなければならない。
 

3つの視点が何をもたらすのか?

先に述べた3つの段階は、追加的に習得していく視点だと思われる。
最初は1人前になるためにコアとなる実務能力、そこから自分ひとりのキャパシティを超えてデリバリーするマネジメント能力、さらには自分の専門領域やマネジメント領域を俯瞰的に考える能力、という順番で実務家の思考は広がっていく。
ある特定のアイデアについて、Expertiseの観点では100のやるべきことが思い浮かぶとすれば、Project Managementを習得することで100x3=300のやるべきことを思い浮かべ、かつ自分の能力(100)を超えたやるべきことがチーム単位でできるようになる。
そして、Business Judgementが身に着けられると、実はこの100なり300なりの達成すべき事柄のうち、カギを握る10のアウトプットが見えてきて、経営資源の選択と集中ができるようになる。
最終的には「3つの自分」がベン図のように折り重なって事業を立体的に理解されることで、複雑な意思決定に対応する懐の深さが生まれる。
 

スタートアップにおける評価基準と起業家から見た視点

組織によって差異はあっても、仕事を任せられる程度のExpertiseを習得すれば、担当者としては一人前、チームで成果を出せればマネージャーとして一人前、経営的視点から自分の領域を運営できるようになれば役員、というくくりはできそう。
また、起業家のように必ずしも担当者からキャリアを始めていない場合であれば、レイヤーは成長段階は逆行するか同時進行する可能性が高い(やったことないので推測)。
まずは経営的に緊急・重要な問題を自分の手でつぶしにかかり、次第にチームにDelegateすることを学び、最後は最も重要な領域について専門家と議論できるレベルまで深い理解をする。あるいは、それぞれのレイヤーを必要に応じて浅く同時に実践しつつ、徐々に全体感をつかんでいく。
 

経営者に求められる4つ目の視点

ちなみに、経営者や起業家にとって、3つの視点というのはおそらく十分ではない。
経営者目線とも大きく重なるが、重要な外部的視点に、投資家からの視点がある。
業界のスーパースター的な人や上場レベルのベンチャー役員のインタビューでしばしば目にすることもあるが、今経営者として優先している仕事が、単なる事業の継続や成長だけではなく、資本市場からどのように見えるか、という視点である。
市場がある程度合理的である前提において、理論的には企業価値は事業の現状と成長余力を反映したものになるわけで、バリュエーションを分解した先には事業の現在と未来を決める個々の経営判断がある。
経営者として事業価値と目の前の経営上の議論が漠然なりとつながっていることは、中長期でおおきな意味を持つ(別にみんな大企業を目指す必要もないので、事業価値の最大化が目的とは限らず、勝ちやすい規模感を保つべく舵をきるのも立派な経営判断といえる)。
 
念のため書いておくと、IRを頑張るとか、ROEがどうとか、自社株がどうとか、では本質的な議論とは言えない。
むしろ、事業のビジョンや成長という企業の内発的なビジョンを外から客観視して、資本市場と積極的にコミュニケーションをとるのであれば、短期的な株価に迎合する必要もない。
たとえば、ジェフ・ベゾスのShareholder Letterなどは、株主からは赤字は悪材料に見えるかもしれないけれども、Amazonは長期で圧倒的な優位性を築くことを優先すると投資家に宣言している意味で、優れた資本市場とのコミュニケーション事例といえる。
評価を気にしない決断をすることも、市場の理解さえ得られれば立派な外部目線である。
ヘッジファンド出身のベゾスのようにIPO当初から機関投資家と強気に渡り合えなくとも、社外取締役やアドバイザーなどを起用することで、こうした目線を補っている企業も存在する。
いってしまえば、想像力の限界をいかに広げられるか。いくつもの「帽子」を起用にかぶって意思決定に深みを持たせられるかが、事業のレジリエンスと成長可能性を決めていくのではないだろうか。
 
 
毎度のことながら、あくまでもしったかぶりして書いているので、「詰めが甘い!」とか「見落としがある!」とか賛否両論大歓迎です!