気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

Sankalp Africa 2019

先々週の水曜日、ナイロビで開かれたアフリカ・ベンチャーのカンファレンス、Sankalp Forumに行ってきた。

主催者はAavishkaarというインドのVCで、ソーシャル・インパクトの高いビジネスに限って投資しながら30%超のリターンを生んだ伝説的なファンドだ。

この一年で、TIAACREFという世界最大規模の機関投資家のヘッドがボードに加わったりと、新興国VCを代表するファンドとして存在感を一層強めた印象。

実は、主催者であるAavishkaar創業者のVineetは、僕のキャリアの恩人でもある。

全イベント参加できた去年とは違い、今年はレセプションにしか出られなかったので、今回は彼との出会いについて書いてみたい。

 

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(レセプションの様子)

 

彼と初めて出会ったのは、2015年の冬、日本でのインパクト投資のパイオニアであるARUNが開催したイベントでのことだった。

パソコンを探したら出てきた当時の写真はこちら。

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まだ会社員1年目で、なかなかオフィスから抜け出せない中、意を決してオフィスを出たのが7時半ごろ。

ARUNさんが企画したイベントはとっくに始まっていて、自分が会場に入った時には1時間のプレゼンの最後の10分程度だったと思う。

ただ、このフィールドは土地勘もあったし、事前にAavishkaarについては調べ上げていたので、日本でおなじみ誰も手を上げない質疑応答で、ひたすら質問を投げ続け、最後は帰り道のエレベーターで自己紹介まで恥も外聞もなくやった。

ここまでやることはあんまりないけど、Vineetの投資への姿勢、ビジネスと社会的インパクトのバランス感覚には、ワシントンDCや海外の会議で見たこともないものを感じて思わず徹底的にやってしまった。

それくらい衝撃的な出会いだった。

 

それからは、メールを通じてやり取りをするようになって、三菱商事を退職するときにも、ちょうど東京に来ていたVineetを捕まえて(時間を頂いてというよりも、こちらの表現が正しい気がする)、ケニアに来てからもムンバイのSankalpで、立ち話をしながらフィードバックをもらう。

 

初めて会ってから4年くらいしか経っていないのだけれど、ここまでダイナミックにキャリアを作れたのは、Vineetと会うたびに一番深いところで悩んでいる問題についてアドバイスをもらえたからだと思う。

多くの人が、社会的インパクトを表面的なきれいごとにしたり、自己満足の手段にしかできていない中で、いかにビジネスと社会的な善行(数字ときれいな写真に飾り付けられたアニュアルレポートではなく!)を投資家として実現するか、本気で悩み続けているVineetの言葉に今回も励まされた。

あとは現場で成果を残していきたい。

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(毎回恒例になりつつある写真撮影)

Komaza 75週目:日本→ケニア→フィンランド

今週は日本から戻って、Kilifiに数日、そこからNairobiに戻って今夜からフィンランド(!)に向かう。

フィンランドはヨーロッパ随一の林業国であり、現場含め色々と見て回る予定。

 

参加するカンファレンスの予定表には、

①当地の気温はマイナス20度~5度程度。3月だからってなめてると凍死します

②サウナと(屋外での!)水泳をお楽しみのために用意しました。水着をお持ちください

という意味不明なメッセージもあり、もはや怖いもの見たさですが、めちゃくちゃ楽しみです。

 

南半球のKilifiは今が夏の真っ盛り。連日30度を超える気温の世界から、マイナス20度に飛び込んできます笑

 

 

余談:土曜日に開発学を学ぶためにイギリスの大学院に在籍されている田才さんが主宰する国際協力サロンでKomazaについて話をした。

SDGsをはじめとする開発学やソーシャル系の概念がビジネスや行政など複数の領域をまたぐMultidisciplinaryな時代にあって、ざっくばらんな議論の場は面白い。

とりわけ、「インパクト投資」と「ESG投資」の違いや、企業の非経済的インパクトに関する考え方の変遷など、質問されて改めて言葉にするのが難しい内容もあり、勉強になった。

定期的に勉強会をされているようなので、興味のある人はこちらのTwitterから!

ちなみに、次回のスピーカーは、Learning for Allの教師仲間、品川夏乃さんです。

 

 

 

Komaza 73-74週目:日経SDGsフォーラム登壇で日本デビュー

怒涛の二週間をまとめて振り返る。

完全に言い訳ですが、時差ボケと仕事で余裕なく、しかもきちんと書きたかったので、まとめて更新です。

 

2/18-2/24:Kilifi→Nairobi→Japan

月曜日・火曜日はKilifiで新しいプロジェクトの立ち上げ、水曜日からはナイロビ出張で面談をこなし、アフリカ最大のインパクト投資カンファレンスのSankalp Africaのレセプションに行き、金曜日の夜に日本に向けて出発という慌ただしい週になった。

嬉しいことに、新しいチームメンバーも参加が決まり、少し気持ちが軽くなって日本行きの飛行機に乗る。

大企業にいたときは、優秀な若手が湯水のごとく湧いてきていたのを当たり前だと思っていたけれど、それがどれだけ大変かというのはベンチャー採用をして身に染みてきている。

年内に向けあと2-3人は採用予定なので、そこに向けてシステム化を進めたいところ。

フライト24時間はさすがに体にこたえたものの、一日しっかり休んで登壇する日経SDGsフォーラムの準備をした(が、時差ボケで結局朝4時までスライドのおさらいをしてしまった。。。)

 

 

2/25-3/3:Komazaの初日本ロードショー

初登場は日経フォーラム

日経SDGsフォーラム特別シンポジム「森林、自然資本と社会的共通資本」に登壇し、ARUN功能さんのパネルで、Komazaは本邦初上陸を果たした。

ARUNが定期的に開いているインパクト投資のセミナーに参加させて頂いたのが、2015年のこと。

そこから続いていたご縁なので、嬉しいし、何よりありがたい。

他にも、主催者や当日ゲストとして、昔からお世話になっている方々がいらしていて、単なるカンファレンスとは違う、感慨深い発表だった。

加えて、三菱商事時代の上司たちに何人も来て頂き、めちゃくちゃ応援してもらう。

役員レベル含め10人近い人が来ていたことが後日判明し、愛のあるツッコミとイジリと応援メールを頂きました。

 

フォーラム自体は、共催の日本政策投資銀行の渡辺社長、原田環境大臣、牧元林野庁長官、業界で知らない人はいない速水林業の速水社長はじめ、業界の超重要人物が登壇する豪華なイベント。

単なるお題目としてのSDGsではなく、本当に日本の経済界を変える気概を持った心あるプロフェッショナルの方々の尽力あって、当日席600に対して、2500人の応募があり、日経カンファレンス史上最高倍率を記録したとのこと。

森林というニッチなテーマでありながら、ここまで関心が高いというのは、本当に驚きだった。

見逃してしまった皆さん、こちらのリンクに当日のプレゼンがアップロードされているので、興味のある方はぜひ!

channel.nikkei.co.jp

 

森と生きる

僕自身が登壇したのは、日本インパクト投資ファンドのパイオニアARUN功能さんのモデレートして、世界各地の取り組みを営利・非営利の両方から紹介する「森と生きる」というパネル。

南米のプランテーションを機関投資家やファミリーオフィス向けに運用する森林ファンドのEcoforestからアッカーマンCEO、30年以上にわたり環境保護からアドボカシーに至るまで幅広い活動をしてきたイオン環境財団の山本事務局長、アフリカでもおなじみサラヤの代島取締役、という多様な顔ぶれで、スタートアップの日常からは違った視点で林業を見ることができたのは新鮮だった。

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パネルの様子

 

ジャパン・アングルをめぐる旅

今回の帰国は出張なので、普段よりも思い切ってアポイントを入れた。

東証一部上場の林業企業の社長プレゼンから、昔からインパクト投資関連の勉強会でなじみのあった方まで、色々な方々にKomazaを紹介して回る。

前職にいた頃は、実力も気合も十分な海外のファンドマネジャーに、「日本でのファンドレイズは2−3年通い続けてようやくスタートライン」と言い続けたのを、今度は自分に言い聞かせて、地道に面談を重ねる。

こっちに来てから知ったのだけれど、ケニア農林業はJICAの30年来のプログラムはじめ日本とも縁の深いらしい。

時間はかかると思うけれど、粘り強くジャパン・アングルを模索していきたい。

 

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当日のプログラム

 

恐怖と向き合う

このところ恐怖というものについて考えることが増えてきた。

何かと不安になり、几帳面なわけでもないのに潔癖でどうしてもイライラしてしまう。

落ち着かなさゆえに、無謀と言われた留学をしたり、卒論を書いたり、海外大生が遠慮する日本の大企業で仕事をしたり、安定を捨ててケニアに飛び込んだり、ユニークな人生を送っている。

こんなことになったのは、意識が高かったというより、苛立ちや不安が常に僕を駆り立てて凡庸を許さなかったからだ。

 

ある意味でこの性格は、人生の初期のフェーズにおいては幸運だった。

というのも20代というのは自分のやりたいことを模索すべき時であり、自分を理解するために様々な試行錯誤を広い範囲ですることに意味があるからだ。

ただ、最近になって僕はようやく、自分のすべきこと、得意なこと、取り組むべき事業を絞り込みつつある。

そうなってくると、今までは遊ばせておいても良かった不安感や焦燥といったものを、コントロールすることが大切になってくる。

「何をなすべきか」という問いに自分を収斂させ、地道な行動を重ねていかないといけない。

 

というわけで、毎日不安に胸が押しつぶされそうになった時、その不安について考える習慣をつけようとしている。

何が不安なのか、何を恐れるのか、感情を客観視する習慣をつけたい(マインドフルネスとかでよくある)。

ここを十全に理解した時、僕はようやく心を落ち着けて大胆な試みをすることができるのだと思う。

人生に時間があるようで実はない。数十年かけなければ納得のいく事業は生み出せない。

それがはっきりした今、不安や恐怖に惑わされることなく、自分が集中することのできる期間を伸ばしていくことが大成への道だと思っている。

Komaza 72週目:炎上案件を楽しむ

炎上案件は、最高だと思う。

スリルやプレッシャーもさることながら、ソフト・ハードの技術を駆使しながら、最短で制約を乗り越える訓練として、ベストだからだ。

 

つい最近も別の部門のプロジェクトの緊急支援要請が来て(もちろん、定常業務の上に乗っかる形で)ヒーヒー言いながらやってみたところ、全く自分の領域外の重要な経営課題について2週間程度で会社で一番詳しくなることができた。

引き受けた当初は毎回ストレスで胃がキリキリ痛むし、イライラするしで惨めだったものの、乗り越えた後にはアウトプットを全社発表することになるなど、悪いことばかりでもない。

 

そんなわけで今回は炎上案件について振り返りも兼ねて書いてみたい。

 

炎上案件に飛び込む意味

炎上案件に取り組む意味を考えてみると、普段の業務ではあまりない特別な状況が見えてくる。

  • 緊急事態なので権限を掌握しやすい:普段仕事をしていて全て自分の思い通りにやらせてもらえることがどれだけあるだろうか。炎上案件は基本的に誰もが触りたくない問題案件だ。その代わり、立て直しを引き受ける側の交渉力は高い。必要なリソースしかり、チーム内でのポジションしかりだ。「引き受けるからにはやりたいようにやらせてくれ」というのが通りやすいのは炎上案件の特性だと思う(逆に、しがらみだらけで何もできないのであれば、案件は炎上というより泥沼である)。自分以外誰のせいにもできないリスクがある一方で、 自分のソフト・ハードでの限界を試す最高の機会になっている。

 

  • その場しのぎの判断の連続:いつもであれば余裕をもって計画していることを、その場で的確に判断していく必要がある。いつもきちん段取りを組んで仕事をしている人ほど、接する機会がないようなギリギリの決断(時に割り切り)をする訓練になる。また、チームがストレッチされている状況で、リーダーシップをとる訓練にもなる。全員が同じ方向を向いてモチベーションが高いとは限らない中、誰にいつどのように働きかけるのか、細かい判断が最終的な立て直しの成否に影響する。モーメンタムというのは面白いもので、普段であればしないような思い切った判断とがむしゃらな突破力が合わさると、結果的にチームや個人の潜在的な能力を引き出すこともある。

 

  • 仲間が増えて評価も上がる:炎上案件のリスクを取って、建て直しをやり切ることで、成長するのは自分だけではない。乗り越えた仲間達はまるで戦友のように仲良くなり、あなたとまた働きたいと言ってくれる。困難な状況を打開し、チームを立て直した当人の社内評価は高まり、炎上案件に頭を抱えていた上司も感謝してくれる。個人の管掌領域という意味でも、横断的なプロジェクトも周りから感謝される形でできるようになる。これは、スタートアップという変化が激しく常に仕事を作って価値を証明し続けねばならない環境で、キャリア上大きなアドバンテージになりうる。

 

解決のパターン

炎上案件の建て直しというのは、問題のタイプや深刻度によって、色々なパターンがあるのだと思う。これまでの自分が接してきた炎上というのは、だいたい次のようなパターンで解決ができた。

  • 方向性をなんとなく掴む:これは引き受ける前にやるのがおすすめ。当事者や関係者から何が起こっているのか、何が難しいのかというのをヒアリングして回る。先入観を持ちすぎるのもよくないので、具体的な人物への批判は適度に聞き流す。むしろ考えるべきはボトルネックになっている論点、そして解決されるべきは何かという点に尽きる。あるあるとして、誰にも解決できてない問題は課題の認識自体がされていないケースが少なくない。実際に飛び込んだら、これまで認識されていなかったボトルネックが何なのかということを重点的に探すと思わぬヒントが転がっていたりする。同時に、炎上案件を担当する上で、必要となるリソースの確保や、判断の自由度を確保する。炎上案件こそ、建て付けが大事である(じゃないと自分に延焼する)。

 

  • 膿を出し切る、しつこく説明する:いざ引き受けると乗ったらまずは全員とじっくり話をする。事前になんとなくこの辺りだろうなという仮説をスケッチしてから行くと、話しながら問題解決につながりやすい。単に「何が問題なんでしょう?」と聞くのではなく、自分の仮説を小出しにしてぶつけていきながら、反応を読んでいく。答えがないことが問題なのか、考えるプロセスが整理されていないのか、解決できない圧倒的な何かがあるのか、を探っていく。ホワイトボードやメモ帳を使って、聞いたことを構造化していく。「もう分かっている」と言われていることこそ可視化してみると、抜けてる論点や中途半端に放置されていた論点が浮かび上がってくる。

 

  • ぶつけるのは質問ではなくビジョン:課題点が明確になってきた場合、運が良ければチーム自体がそのまま課題を解決してくれる。ただ大概の場合、チームに課題点が見えても、今一つどうしていいのかがわからないので、そういう状況では恐れることなく自分のビジョンをぶつける。ここまでは質問者として課題の深堀が重点だったのを切り替え、プロジェクトオーナーとしてアイデアをぶつけて引っ張っていく(以前の僕はここでためらっていた)。 プロジェクトオーナーがためらうとチームも混乱してくるので、課題を構造化した勢いに乗って、思い切った仮説をぶつけていく。

 

  • 押し切って見ながら、反応を見る(リードされたいのか、やりたいようにやれればできる話なのか?):問題点の構図が明らかになった時点で、残るは実行のみである。ここからはチームとどのように接点を持つか、進捗管理をするかに注力する。自主的に論点を解決できそうであれば作業をブロックごとに依頼し、チェックインを設定、アウトプットを管理する。一方で、手取り足取り指導が必要な場合は、全体像をまず分解しどこまでどういうことをやってほしいのかというのをスライドに落として共有する(口頭のブリーフィングでは不十分だ)。そして、毎日何度もチェックインをしながら一緒にブランクを書いていく。この時にただ自分の書いたブランクを共有するだけでは、十分伝わらないことが多いので、同時に言葉で説明をする。途方もなく時間がかかる、面倒くさい作業だが、最初のうちこそこれをやっておくことで後半はブランクだけで大体の作業が進むようになる。構造化と明確化というのがこのフェーズでのポイントだ。

 

  • 反論を押し切る勇気:個別の論点について、反論が出てくることがある。変なプライドを持たずに謙虚に考えることは大切だが、立て直しをせねばならない状況になっている時点で全ての事項を再考慮するということはなかなか難しい。そういう場合は、相手の主張を検討可能な論点だとした上で、次回以降の分析に持ち越す、あるいはなぜ今他の問題の方が大切なのかを説明する。実際、この手の「これも大事じゃないか?」問題はさっさと本論のを片付けた後でいくらでもできるわけなので、多少強引な言い方になっても、今やるべきことは何なのかという絶対線を揺るがさない。

 

  • 反省を忘れない:炎上案件は基本的に「明日は我が身」である。そもそもなんでこんなことになったのか、というのはきちんと整理してドキュメントしておく。他人の失敗を当事者的に学べるのが、炎上案件の醍醐味だと思う。

 

余談:

今回の記事を書きながら前職の総合商社時代の上司達を思い出した。

切った張ったの世界で、窮地に陥った事業を立て直したり、崩壊寸前のパートナーシップを整理したり、絶望的な撤退戦を業界再編を促すような形で仕上げたり、そういう現場にいることができたのは本当に幸せだったと思う。

それと比べれば、今回書いたようなチャレンジというのはビジネスの世界では炎上とは言えない、せいぜい停滞しているプロジェクト程度のものだ。

今後も仕事をしていく中で、本当に厳しい課題というのはきっと訪れると思うので(むしろそういう経験がないのはNot Pushing Yourself Enough)、来たるべき挑戦に向かって自分の力をつけて行きたい。