気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

Komaza 72週目:炎上案件を楽しむ

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炎上案件は、最高だと思う。

スリルやプレッシャーもさることながら、ソフト・ハードの技術を駆使しながら、最短で制約を乗り越える訓練として、ベストだからだ。

 

つい最近も別の部門のプロジェクトの緊急支援要請が来て(もちろん、定常業務の上に乗っかる形で)ヒーヒー言いながらやってみたところ、全く自分の領域外の重要な経営課題について2週間程度で会社で一番詳しくなることができた。

引き受けた当初は毎回ストレスで胃がキリキリ痛むし、イライラするしで惨めだったものの、乗り越えた後にはアウトプットを全社発表することになるなど、悪いことばかりでもない。

 

そんなわけで今回は炎上案件について振り返りも兼ねて書いてみたい。

 

炎上案件に飛び込む意味

炎上案件に取り組む意味を考えてみると、普段の業務ではあまりない特別な状況が見えてくる。

  • 緊急事態なので権限を掌握しやすい:普段仕事をしていて全て自分の思い通りにやらせてもらえることがどれだけあるだろうか。炎上案件は基本的に誰もが触りたくない問題案件だ。その代わり、立て直しを引き受ける側の交渉力は高い。必要なリソースしかり、チーム内でのポジションしかりだ。「引き受けるからにはやりたいようにやらせてくれ」というのが通りやすいのは炎上案件の特性だと思う(逆に、しがらみだらけで何もできないのであれば、案件は炎上というより泥沼である)。自分以外誰のせいにもできないリスクがある一方で、 自分のソフト・ハードでの限界を試す最高の機会になっている。

 

  • その場しのぎの判断の連続:いつもであれば余裕をもって計画していることを、その場で的確に判断していく必要がある。いつもきちん段取りを組んで仕事をしている人ほど、接する機会がないようなギリギリの決断(時に割り切り)をする訓練になる。また、チームがストレッチされている状況で、リーダーシップをとる訓練にもなる。全員が同じ方向を向いてモチベーションが高いとは限らない中、誰にいつどのように働きかけるのか、細かい判断が最終的な立て直しの成否に影響する。モーメンタムというのは面白いもので、普段であればしないような思い切った判断とがむしゃらな突破力が合わさると、結果的にチームや個人の潜在的な能力を引き出すこともある。

 

  • 仲間が増えて評価も上がる:炎上案件のリスクを取って、建て直しをやり切ることで、成長するのは自分だけではない。乗り越えた仲間達はまるで戦友のように仲良くなり、あなたとまた働きたいと言ってくれる。困難な状況を打開し、チームを立て直した当人の社内評価は高まり、炎上案件に頭を抱えていた上司も感謝してくれる。個人の管掌領域という意味でも、横断的なプロジェクトも周りから感謝される形でできるようになる。これは、スタートアップという変化が激しく常に仕事を作って価値を証明し続けねばならない環境で、キャリア上大きなアドバンテージになりうる。

 

解決のパターン

炎上案件の建て直しというのは、問題のタイプや深刻度によって、色々なパターンがあるのだと思う。これまでの自分が接してきた炎上というのは、だいたい次のようなパターンで解決ができた。

  • 方向性をなんとなく掴む:これは引き受ける前にやるのがおすすめ。当事者や関係者から何が起こっているのか、何が難しいのかというのをヒアリングして回る。先入観を持ちすぎるのもよくないので、具体的な人物への批判は適度に聞き流す。むしろ考えるべきはボトルネックになっている論点、そして解決されるべきは何かという点に尽きる。あるあるとして、誰にも解決できてない問題は課題の認識自体がされていないケースが少なくない。実際に飛び込んだら、これまで認識されていなかったボトルネックが何なのかということを重点的に探すと思わぬヒントが転がっていたりする。同時に、炎上案件を担当する上で、必要となるリソースの確保や、判断の自由度を確保する。炎上案件こそ、建て付けが大事である(じゃないと自分に延焼する)。

 

  • 膿を出し切る、しつこく説明する:いざ引き受けると乗ったらまずは全員とじっくり話をする。事前になんとなくこの辺りだろうなという仮説をスケッチしてから行くと、話しながら問題解決につながりやすい。単に「何が問題なんでしょう?」と聞くのではなく、自分の仮説を小出しにしてぶつけていきながら、反応を読んでいく。答えがないことが問題なのか、考えるプロセスが整理されていないのか、解決できない圧倒的な何かがあるのか、を探っていく。ホワイトボードやメモ帳を使って、聞いたことを構造化していく。「もう分かっている」と言われていることこそ可視化してみると、抜けてる論点や中途半端に放置されていた論点が浮かび上がってくる。

 

  • ぶつけるのは質問ではなくビジョン:課題点が明確になってきた場合、運が良ければチーム自体がそのまま課題を解決してくれる。ただ大概の場合、チームに課題点が見えても、今一つどうしていいのかがわからないので、そういう状況では恐れることなく自分のビジョンをぶつける。ここまでは質問者として課題の深堀が重点だったのを切り替え、プロジェクトオーナーとしてアイデアをぶつけて引っ張っていく(以前の僕はここでためらっていた)。 プロジェクトオーナーがためらうとチームも混乱してくるので、課題を構造化した勢いに乗って、思い切った仮説をぶつけていく。

 

  • 押し切って見ながら、反応を見る(リードされたいのか、やりたいようにやれればできる話なのか?):問題点の構図が明らかになった時点で、残るは実行のみである。ここからはチームとどのように接点を持つか、進捗管理をするかに注力する。自主的に論点を解決できそうであれば作業をブロックごとに依頼し、チェックインを設定、アウトプットを管理する。一方で、手取り足取り指導が必要な場合は、全体像をまず分解しどこまでどういうことをやってほしいのかというのをスライドに落として共有する(口頭のブリーフィングでは不十分だ)。そして、毎日何度もチェックインをしながら一緒にブランクを書いていく。この時にただ自分の書いたブランクを共有するだけでは、十分伝わらないことが多いので、同時に言葉で説明をする。途方もなく時間がかかる、面倒くさい作業だが、最初のうちこそこれをやっておくことで後半はブランクだけで大体の作業が進むようになる。構造化と明確化というのがこのフェーズでのポイントだ。

 

  • 反論を押し切る勇気:個別の論点について、反論が出てくることがある。変なプライドを持たずに謙虚に考えることは大切だが、立て直しをせねばならない状況になっている時点で全ての事項を再考慮するということはなかなか難しい。そういう場合は、相手の主張を検討可能な論点だとした上で、次回以降の分析に持ち越す、あるいはなぜ今他の問題の方が大切なのかを説明する。実際、この手の「これも大事じゃないか?」問題はさっさと本論のを片付けた後でいくらでもできるわけなので、多少強引な言い方になっても、今やるべきことは何なのかという絶対線を揺るがさない。

 

  • 反省を忘れない:炎上案件は基本的に「明日は我が身」である。そもそもなんでこんなことになったのか、というのはきちんと整理してドキュメントしておく。他人の失敗を当事者的に学べるのが、炎上案件の醍醐味だと思う。

 

余談:

今回の記事を書きながら前職の総合商社時代の上司達を思い出した。

切った張ったの世界で、窮地に陥った事業を立て直したり、崩壊寸前のパートナーシップを整理したり、絶望的な撤退戦を業界再編を促すような形で仕上げたり、そういう現場にいることができたのは本当に幸せだったと思う。

それと比べれば、今回書いたようなチャレンジというのはビジネスの世界では炎上とは言えない、せいぜい停滞しているプロジェクト程度のものだ。

今後も仕事をしていく中で、本当に厳しい課題というのはきっと訪れると思うので(むしろそういう経験がないのはNot Pushing Yourself Enough)、来たるべき挑戦に向かって自分の力をつけて行きたい。