気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

Komaza 30週目:金融機能をスタートアップに

今週は、久しぶりに淡々とした一週間。
先週からジョインしてくれた、ケニア人の同僚の力もあって、徐々に落ち着いて仕事ができるようになってきた。
今まではほぼ自分だけで仕事を丸抱えして、その場の判断で優先順位をつけて、泥沼にはまりながら作業をしていたので、穏やかに仕事ができるのは個人としてのありがたいこと。
それに僕自身がいかに力を振り絞ったところで、会社の僕に対する依存度が上がるだけで、継続的な価値創造にもならないから、やはりチーム体制で臨んでいくことには意義があるのだと信じたい。
 
また、コーポレート・ファイナンス部門自体を立ち上げるという、僕のミッションは、林業というキャッシュフロー付加が高いこの事業とって必要な「金融機能」を会社に付加する重要な仕事になる。
ただ、投資家対応やらレポーティングのための事務方を作るのとも、個人商店を作るのとも違うのだ。
今後の事業に最適な資金調達のストラクチャーを構想し、実現に向けた投資家の巻き込みも含むすべてのお膳立てをし、それを実行するだけのキャパシティを非属人的な形で残すこと、それが今の事業に対して僕ができる最大の貢献だと思う。
 
金融というと、何をしているのかわからないとか、虚業だとか、チャラチャラしているとか、本分はオペレーションにしかないとか、言われてしまうかもしれないけれど、ビジネスのリスクと可能性を大所高所から考えたり、ビジネスの仕組みを本質的に変えたり、事業にとって重要な情報・ネットワークを得るきっかけを作ったり、金融機能にはお金以外の重要な意義もある。
そもそもこういう考え方があるということを教えてくれたのは、前職の三菱商事の金融部門の先輩たちだった(商社の金融部門の歴史について知りたい人は、3大商社の中で唯一独立した金融事業グループを持った三菱商事の黎明期を描いた「金融革命への疾走」を読んでみてほしい。様々な金融商品を扱う中から出てくる事業感覚や業界の情報をいかに非金融事業に還流できるかは、経営者と金融部門長両方の力量や理解が問われる重要な論点だと思う。すべての事業に金融機能が必要というわけではなく、アセット投資が大きい商社や、資金調達が難しい林業などは重要度が高い。)
 
こうした「ファイナンスの本分」に近づくには、一人のプロフェッショナルの仕事だけではダメだし、チームとして様々な課題を解決する能力を作りあげ、なおかつそれを活用できるプラットフォームがなくてはならない。
ひとりの個人としても勉強しつつ、仕組みづくりとも逃げずに向き合っていきたい。

 

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(今は雨季の真っ只中で、連日4−5時間は大雨がふる。つかの間の晴れが貴重)

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スタートアップ転職の向き不向き

ここ数週間は週末のほとんどを中長期のキャリアについて考えることに時間を使っている。

大企業のように社内制度が整っておらず、プロフェッショナルファームのようにトレーニングや学習のステップが定式化されていないので、自分でいかに勘所を掴んで、集中的に学習できるかが、成長(方向性とスピードの両方)を決めてしまうからだ。

 

スタートアップに行くと、「泳ぐか溺れるか」という環境で成長が加速するという人がいるけど、それは一面的でしかなくて、溺れかけながら泳げるようになった「成長後」の人の能力開発は本人に委ねられることがほとんどではないかと思う。

スタートアップで働いている人にすれば、「(任された仕事で)溺れる→なんとかする力を身につけガムシャラに成長する→???」という感じだろう。

 

大企業のように組織化された人事制度があるところだと、社員の成長を安定的に継続させる仕組みとして評価と昇進が用意されている(「(任された仕事で)溺れる→なんとかする力を身につけ成長する→一段階上のポジションに昇進」)。

社員側から見ても、今のポジションの1つか2つ上のジョブ・ディスクリプションを読んで、それに合わせて行動を変えてみたりすることで、成長を続けることができ、外資コンサルのように「Up or Out」の環境であれば、周りから見て次のレベルだと判断されれば昇進させられてしまう。

 

一方、アーリーステージのスタートアップは毎日の仕事どころか会社の業態でさえも変わってしまうような世界なので、業務内容が変わるので役割期待を定式化して人事制度を組むのが難しい。

組織図だって半期・年単位でどんどん変わっていく。

「任された仕事」を回せるようになってしまえば、次の役割やレベルを決めるのは本人次第ということになる。

これが意味するのは、

①任された仕事をやり続けても次のステップが見えてくるとは限らない

②上司に成長目標を聞いても答えが出るとは限らない

③そもそも仕事を作ってポジションを作るというスタンスが求められる(&資金の追加調達で外部から優秀な人が入って来れば代替されてしまう)

という人事制度が固まっていない組織特有の不確実さだ(だからアービトラージがあるともいえる)。

 

「スタートアップへの転職に成功する人・失敗する人」みたいな記事で論じられる向き不向きというのも、こういう不確実さを逆手にとって自分でキャリアを作っていくことができるかどうか、という点に収束しているような気がする。

印象論で書いてしまいましたが、コメント・批判大歓迎です!

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Komaza 29週目:ケニア人エリート金融マンが入社

今週のハイライトは何と言っても、コーポレートファイナンス・チームに新しいメンバーが入ってきてくれたこと。
ナイロビの大手金融機関からケープタウンに留学していた、バリバリのケニア人プロフェッショナルで、インパクト投資の世界に興味を持って、入社してくれた。
これまで、マネージャーのポジションこそあったものの、チームは僕一人だったので実質的に個人事務所のように仕事をしていたのが、今週入社した彼と6月に来る予定のもう一人が揃うことで、ようやく形としてのコーポレートファイナンス・チームが生まれることになる。
 
スタートアップとはいえ、組織としてはNGOとして設立された2006年から続き、一昨年のシリーズA以降は約400人の従業員を抱えるそれなりの規模に成長してきた(=バーンレートそれなりに高く、ファンドレイズが重要)。
林業という長期間お金を貼り付けないといけないビジネスを支えるために、世界中のインパクト投資家やドナー、開発銀行、気候変動関係の投資家など様々な金融プレーヤーから、事業のニーズに即した資金調達を行う必要は今まで以上に高まっている。
こうした背景で、入社当初のCEO補佐的な立場から全社のファイナンス戦略(ファンドレイズや投資家とのコミュニケーション、投資戦略)を考える部署として、コーポレートファイナンス・チームの構想を立てたのが2月のこと、そこから一気に採用プロセスの設計、面接・選考を経て、ここまでこぎつけた。
 
去年の10月に入社してから、仕事をすればするほど成果が上がって、結果仕事が増えるという好循環(?)に苦しみながら個人芸と体力で乗り切っていたのを、これからはチーム体制を前提に脱属人化していくというフェーズになってくる。
 
この方向性に決めた理由は大きく3つ。
一つは、ケニアの辺境の地でいつまでも個人商店をやっているわけにもいかないし、組織としての成長がベンチャーの重要な成功要素でもあるので、新しい経営機能を会社に残せるように制度・人材両面を強化することが第二四半期の目標になるということ。
二つ目は、ガンバリズムだけで成長し続けるのは新卒数年くらいでそこから先は意識的に仕事以外に時間を確保して勉強しないとあっという間に「それなりに優秀な30代」になってしまうこと。
三つ目は、本当にチャレンジングな仕事で成果を挙げるために、日常業務や比較的定式化されやすい業務をチームでこなして余剰時間を確保する必要があること。
 
フルタイムの部下を持ってチームを指揮するのはこれが初めてなので、ファイナンスだけでなくチームの勉強も続けつつ、面白いプロジェクトからめんどくさい作業までバリバリ片付けていきたい。
 
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Komaza 28週目:グラント・ファイナンスについて

毎日新しい発見があるソーシャル・エンタープライズでのファイナンスの仕事。
最近、公共性の高い大規模なグラントを調達したので、その時の経験について書いてみたい。
 
ファンド関係のドキュメンテーションや子会社管理は前職で馴染みがあったものの、ドナーの契約書という新しい性質のもので、正直右も左もわからない状況だった。
基本的に、こうしたドナーの多くは資金を政府の開発基金から集めているので、こうしたドナーの契約書は、お金持ちの慈善財団よりも厳密にリスクを管理し、国民(納税者)からの問い合わせがあればいつでもレシートと実績を引っ張り出して再評価できるような仕組みになっている。
そういう意味では、当然の厳しさなのだけれど、彼らがお金を出すのは新興国で社会課題に挑むベンチャーという、本流のVCでも手を出せない高リスク案件ばかりなので、紙の上での要請と現実が一致しない部分も少なくない。
また、もとの資金の出所からの要請などがあると、ちょっと無理やりに見えるような条項が付け加えられたりする。
 
こうした光景は、三菱商事でプリンシパル投資案件を担当した時にも、開発銀行などの公共性の高い投資家が有限投資組合契約書(LPA)の改定を求めたりしていたので、投資家・ファンド間のやりとりとして見覚えはあった。
ただあの時は投資しているファンドと投資家という第三者同士のやりとりだったので、今回いざ自分が契約当事者として読んでみるとかなり違和感がある。
変な責任を負わされたり、会社が傾いた時に傘を取り上げられたりしたら大変だ。
100%どころか90%の確約が難しいような守れない約束はしたくない。
ただ、そういう考え方では、そもそもグラントの契約なんて結ぶことができなくなってしまう
 
なぜなら事業が極めてリスキーなので、100%の内容だけで契約条項を決めると、投資をする側の権利がほとんどなくなってしまうからだ。
結果的に、投資を受ける側がリスクを丸呑みする書面になり、実際上は投資家の方も破綻した社会的プロジェクトに法的な追い討ちをかける意図もないので、一部の事例を除いて契約書通りの残酷な手続きを踏むことはないという「暗黙の了解」が成立しているらしい。
(例えば、先進国の開発関係機関が、支援先事業に失敗した社会的起業家を訴追したり、資産を剥奪したりするメリットはない)
それでも契約上は必要な条項を限りなく網羅的に担保しておかないと、いざという時に事態の収拾がつかなくなるし、納税者への説明責任を果たせないので、こうした厳しい文面を設定せざるを得ないのだろう。
 
はっきり言って、これが普通の金融機関やファンドだったら、絶対にサインしない(ビジネスの世界では当たり前だが、彼らは書いてあることは本当に仮借なくやってくる)。
レポーティングやコベナンツの多さ、プロセスの複雑さなど、恐ろしくて眠れない。
なので、一旦全部本気でレビューして、最終的に一発アウトになりうるものだけ追加でDDをして、最後はまとめることになるんだと思う。
 
これからはいよいよ本番のエクイティベースでの調達も始まるので、前哨戦としていい勉強になった。
今回のディールをきちんとまとめて、徐々に体制を作っていこうと思う。
 
ちなみに、今回色々な開発あるあるやグラントあるある、公共資金あるあるを体験したので、VCがよくやっているようなスタンダードな契約書ができたらいいなと思っている。
海外だとドナー法務部が握っているから厳しいのだろうけど国内NPO向けの投資契約書なんかはレビュー自体が起業のコストだと思うので、画一化できるのではないか。
 
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Komaza 27週目:新チーム結成

今月で入社半年になるタイミングで、ついに自分のチームを作ることになった。
最初はシニア・フェローというお試し的な入社で、もともとの契約期間の半分以下でマネージャーになって3ヶ月、積み上げてきた実績を評価してもらえたのも嬉しいけれど、なによりこれまで孤軍奮闘していた仕事にチームで取り組めるのは本当に楽しみだ。
採用には約1ヶ月半を費やして、基本的にはオンライン上で募集をかけ、そこからCVスクリーニング、一次面接(短時間)、テクニカル・アサインメント(ワード、エクセル、パワポの課題)、二次面接(テクニカルゴリゴリ)、最終面接の順番で150人近い候補者から二人を採用した。
間違いなく幸運だったのは、この2人とも、担当することになる領域の実力で僕が負けていると感じるような人材であること。
一人は僕の尊敬する元仕事仲間だし、もう一人は僕よりも10年以上経験のある熟練バンカーだ。
 
正直に言うと、自分に果たしてマネージできるのか、Overqualified(実力過多)で言うことを聞いてもらえなかったり、辞めてしまったりするのではないかという不安はないわけではない。というか、めっちゃ怖い。
ただ、大きな目で僕自身の役割を再定義してみた時に、「今の組織が求める人を集め、彼らが大活躍する環境を用意することで、会社の成長に寄与する」という以外の目標はまちがっているように思えたので、思い切って高嶺の花だけを掴みにいった。
特に、まだぎりぎり若手の部類で、経験がものを言うファイナンスの世界で、本当に優秀な候補者と僕が全面的に能力値で対決するのは、正直言って難しい(+投資対効果が低い=自習で追い抜くより、一緒に勉強した方が効率高い)。
 
一方、ファイナンスのチーム作りを課題解決として考えてみれば、必要なピースを集めて、それをうまく組み合わせる力こそがマネジメントであり、その組み合わせを実現するためのビジョンさえ描ければ、個別のピースと同じ能力を持つ必要は微塵もないはずだ(これは、プロフェッショナル的というより起業家的な考え方かもしれない。金融機関などでは、仕事の大半が社内システムの想定の範囲内なので、経験と知識の差が階級の差に直結する。一方、次々新しい施策を部門横断的に打ち出さないといけないスタートアップ経営のような場合、事業の全方面に精通しても、起業家としての成功はおぼつかないし、むしろ本人の能力・想像力の限界がチームの限界になってしまう)。
 
この考え方に至ったのは、この1ヶ月くらいかけて読んでいる「三国志」に触発されたからかもしれない。
才能を自由に活かせる場を優れた人に渡せるか否かという勝負が、この判断の成否を分けるのだろう。
 
僕自身、プロジェクトや企画立案、立ち上げは散々やってきたものの、フルタイムでゴリゴリの仕事をするためのチームを持つのはこれが初めて。
おっかなびっくりなところもあるが、いびつな発想に陥らずに、自然な流れを作っていければと思う。
仕事の量でのストレッチに、仕事の質でのストレッチも加わってくることになるので、折れないための体づくりもしていきたい。
新しい仕事のフェーズ、辛いことも大変なことも、問題解決として楽しんでいくことにする。
 

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