Komaza 80週目:感情を整理する方法
Komaza 79週目:FAOでのプレゼン
今週は月曜日から水曜日までローマ出張、そこからナイロビ出張、という移動の多い一週間だった。
- アフリカ林業への投資額は、年間50兆円に上るClimate Financingの0.01%未満。人口増と経済成長、森林破壊という三重苦にあるアフリカの世界での立ち位置を考えると著しいUnderinvestment。
- Blended Financeの役割は、コンセプト検証とグロースの二段階に分けられる。Komazaの場合は植林を零細農家と長期パートナーシップを使って行う高リスクな取り組みをNGOとして寄付を中心に乗り切った。その結果として、モデルの実用性が証明された際に株式会社化することによって、NGO時代の寄付は「Derisking Facility」として機能していた。
- コンセプト検証後、Komazaは株式会社への改組を行った。この時点で、すでに完全な商業ベースへの移行を唱える声もあったが、結果的にはNGOとしての10年近い実績と商業ベースでのサステナブルなビジネス形態に注目が集まり、インパクト拡大をめざす投資家・ドナーからより高額の資金調達ができるようになった。また、ファイナンス目線の投資家が増えるにつれ、彼らからもより低コストな資金(寄付・低利融資など)を調達することへの期待が高まっている。結果として、グロース機関においても、Concessional Financeへの需要は下がるどころか増加しているということがKomazaの経験となっている。
- Constitutionalityについては、国際機関・開発銀行などから慎重論が唱えられているが、Climate Financeについては再生エネルギー投資を中心に莫大な公的資金が注入されている。一部の金融機関は、分散型ソーラー発電をはじめとする再エネ投資と同程度のFinancial Sustainabilityを求めてきているが、こうした投資案件も結局はアセット側で政府が電力の定額買取に公金を投入しているからこそできるものであり、厳密なFinancial Sustainabilityを林業セクターのみに求めるのは的外れである。
- 形だけのプロジェクトや資金提供はもちろん不要だが、Financial Sustainabilityを盾に資金提供を拒む姿勢は案件育成の観点からも産業育成の観点からもPublic Financeの役割に反している。事業側としては公的・民間の両方の株主の社会的・環境的・経済的インパクト期待に応えられるリターンを出せる「ストラクチャリング」を行っていくしかない。ソーシャルセクターにあるベンチャーにとって、High-Risk High-Returnの投資家は希少な存在であり、投資家の社会・環境的インパクトへの期待と経済的リターンへの期待をバランスするために異なる仕組みをつける必要があるのだ(下図参照)。
(出張恒例の食い倒れ、朝昼晩と仕事で埋まったので、間にカフェでうまいものを物色)
(エスプレッソ込み5ユーロなのに感激。住みたい笑)
Komaza 78週目:Principles of Impact Investing
いつもKomazaでお世話になっている創業初期からの投資家Jorisが、LinkedInで面白い投稿をしていた。
インパクト投資と呼ばれるアセットクラスは、2000年代から少しずつ成長が始まり、GIINの調査によると2018年には総額25兆円近いAUMを持つ一大セクターになりつつある。
さらにすごいのは、成長率で、2017年のAUMが12兆円程度だったことから、一年でアセットクラスが倍増するという驚異的なスピードで伸びている。
最近では、SDGsか気候変動関係で、これまでソーシャルセクターとは縁遠かった民間企業も新興国やBOP市場の観点で進出してきているし、かつてはソーシャル・ファイナンスの一大成功例と言われたマイクロファイナンスもフィンテックの一環としてクレジットカード会社やテック企業などが投資するようになっている。
こうした潮流をふまえ、新しい投資家やこれからインパクト投資をキャリアにしたい人の参考になると思うので、紹介してみたい。
Jorisによると、インパクト投資家がとるべき態度・アクションは5つに集約される。
(1) make sure you make a difference (possibly by being different);
>意訳:インパクト投資家は一般の金融投資家が取れないリスクを取りに行くことを目的にしている。それこそがAdditionalityになるのだから、起業家にとって適切なタイミング、方法で、(アーリーステージであれば)将来の事業仮説検証ができる形で投資をすべき。
(2) remember that things take time in East Africa;
>意訳:何をするにも時間がかかる。比較的きちんとした国の、まともな業界の有望なスタートアップでさえも投資回収に20年近い時間がかかることがある。10年未満のファンドは正直厳しい。
(3) accept that great implementation – always – beats a great plan (or app);
>意訳:実行段階で色々な障壁が出てくるのが東アフリカ。実行の部分を軽視してはいけない。
(4) be ready to suffer (a little);
>意訳:時間もかかるしハードシングスはあるから気持ちの準備をしておく。
(5) be clear-eyed about the trade-off between impact and financial returns.
>意訳:社会的リターンと経済的リターンのトレードオフを理解しておく。もちろん、経済的リターンをあきらめてよいわけではないが、先に述べたインパクト投資家の「金融投資家にできないリスクをとる」という定義からしてもわかるように、ほとんどの場合でSub-Commercialな経済的リスク・リターンになることはきれいごと抜きで考えておくべき。
And after all this? Enjoy and be proud of what you are doing
>意訳:せっかくやるなら楽しもうぜ!
当たり前といえばそれまでだけれど、インパクト業界で仕事していて思うのは、こうした「当たり前」がファンドの契約や組織の施策として一貫して反映されていないケースがほとんどということ。
一般投資家との差別化をうたいながら、裏側ではゴリゴリにコベナンツをつけてきたり、リターン期待値を北米VCとベンチマークしてきたり、Exit期間を最長5年しかなかったり、「成り立たないだろうな」という建付けがあまりに多い。
特に最近は国際機関からの数百・数千億単位での投資も増えて、毎年新しいファンドがローンチされているわけで、新しくファンドマネジャーとして旗揚げする元金融・開発プロフェッショナルの力量が大いに試されている。
その点、10年以上淡々と続いている本当のPatient Capitalistの役割は大きいし、彼らの率直な学びはもっと共有されてもいいんだと思う。
Komaza 77週目:ビジネスの原則を辺境で通せるか
日本帰国からフィンランド出張を終えて、帰ってきた初週なので何かと慌ただしい。
資金調達の波もまたやってきているので、うれしい悲鳴だ。
あちこちで寄せては帰す波のように引き合いがあるので、それを全力で打ち返していく。
まだまだチームとしてのキャパシティを引き延ばす余地もあるので、これからは少しチームの環境育成含め粘りをつけていきたい。
出張の飛行機の中や夜寝る前のベッドで、コンサル・経営の世界でおなじみの「三枝三部作」を読む。
初めて読んだのは大学生の時で、当時はフレームワークや考え方ばかりに目が行っていたのと対照的に、今は登場人物の言葉遣い、一挙手一投足、チームとの線の引き方など、もっと細かな部分にいちいち感動した。
今自分が関わっている仕事は、どちらかというと社会的・環境的インパクトxアフリカxスタートアップという辺境領域の掛け合わせ。
資金調達にしても、普段のやりとりにしてもいちいち特殊性を突き付けられることが多い。
こうして考えてみると、ビジネスの根幹、仕事の優れた進め方には、特殊な環境でも通じる型があるのだと改めて思った。
先進国の優秀な人材が集まるクリーンなビジネス環境であれば、ビジネス・ファイナンスの原理原則は共通言語になる。
そういう状況では、同じ土俵・同じ言語でコミュニケーションができる。
ただ、もう一方が同じ言葉を使わない場合、判断軸が異なっている場合、いかにビジネス・ファイナンスとしてのロジックをこちら側で通しながら、相手との落としどころを作れるかが大切になる。
ビジネスの王道からすれば、異常なことばかりの今の仕事を、落ち着き払って的確に判断・処理できるようになることが本物への近道だと思う。
常識はずれなことも日常茶飯事であったとしても、「なってない」という批判でレッテル張りに逃げるのではなく、常に原因あるいは改善の余地を自分に求めていくしか、この業界を変えることはできないのではないか。
道は遼遠である。
追記:
ブログを書いて一晩考えたんだけど、そもそもビジネスの付加価値付けはAbnormalをNormalにそしてExtraordinaryにしていく作業なので、「異常な環境」で仕事をすることこそ、むしろビジネスパーソンとしては正常な喜ぶべきことなんだろう。
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Komaza 76週目:フィンランド出張
今週は一週間、フィンランドで開発銀行と森林投資家、新興国での森林事業者が集まるカンファレンスに参加。
フィンランドの林業
初日はフィンランド最大規模の加工施設と森林伐採の現場を見学、翌日からは朝から晩までプレゼンとディスカッションを重ねる。
フィンランドは国土30万平方キロ、森林比率70%と日本(国土38万平方キロ、森林比率80%)と似た国土構成ながら、森林管理がよく発達している。
国民の5人に一人が森林を持っているという分散型土地所有にも関わらず、80年サイクルの伐期をマネージし、民間業者と組合をうまく活用して、林業をGDP生産第二位(一位は鉱業)にまで育て上げた。
高度に自動化され、組織化された林業のバリューチェーンは、上流を個人所有の森林、中流を複数の大手と多数の地元伐採業者、下流を紙パルプや製材などの大企業が占めるという構造。
驚くべきことに、気温が低く降雪期間が長いフィンランドでは、木の生育量は南米のプランテーションの約5~6分の1であり、伐採のサイクルは実に80年に及ぶ。
長い期間かけて成長した木は芯が詰まっており、質の高い材木を確保することができるのが南方材との違い。
投資リターンはIRRで3~4%ほどしかないが、市場とバリューチェーンの成熟度合いが高いことから、フィンランド国債(AA)よりも低リスク(AAAしたがって低リターン)とされている。
(一台数千万円の機材は、立木を製品規格に切りそろえ、同時にサイズを測定してインベントリデータを作成、さらにマーキングをして搬出時の分類をやりやすくする)
(伐採から搬出、輸送に至る各工程でそれぞれに最適化された重機が用意されている)
(樹齢八十年でぎっしり詰まった丸太。見事)
アフリカ林業の課題と機会
新興国林業の大御所や開発銀行など、業界の最も中心にいるメンバーだけが50人ほどが率直な議論をぶつける場で、ものすごく勉強になった。
各社プレゼンを用意されており、ディスカッションではかなり突っ込んだ数字の議論もあり、あっという間に3日間の現場視察・20プレゼンが終了した。
CEOとBiz Dev責任者と自分の3人だけでの出張で、往復でもいい議論ができた。会社としての事業戦略を次の段階へ持ち上げるヒントを得たのは間違いないと思う。
主な学び(かつ書けるやつ)は以下の通り。
- リスクリターンを考えても、アフリカ森林投資のWACCは12%程度が妥当。PEでは10%後半のリスク評価を受けることもあるが、そのまま林業に当てはめてしまうと、そもそも林業をやる価値がない、という話になってしまう。アフリカ投資のリターン目線に即した投資の実現には、単なるオペレーション継続ではない、ハンズオンによる収益最大化=アセット価値最大化が必要になる。製品ごとに経済性のドライバーは全く異なる。前提として、仕入れの原木価格は常に上昇し続けていることから、利益を確保するためには、①現場レベルでのロス削減(行程の改善&木くず含めた利用)、②プロダクト開発で常に高付加価値を目指す、③ロジの最適化を続ける必要がある。
- 林業は、きちんと育てて、きちんと加工し、きちんと売る「だけ」でよいシンプルなビジネス。一方で、このすべてのプロセスで「当たり前」を実現するハードルが極めて高い(特に新興国)。アフリカについていえば、次の点が課題になる。
- その時々の政治的理由による、マーケットの歪み
- 土地所有権の危うさ
- 外資としてのコミュニティとの関係
- 低コストで生産される輸入製品との競合
- ロジスティクスなど公共インフラ
- 単位林地あたりの収益性を高めることを考えると、純粋な林業だけに用途を限定する必要はない。農業(アボカドやマカデミアなど、Capexが少なく付加価値の高い輸出品目)でベースのキャッシュを確保し、長期の資金貼り付けが必要な林業のJ-Curve低減に充てる方式や、米国で行われているソーラー発電との併用など、キャッシュフロー構造を改善する工夫はいくらでもできる。
番外編:サウナと凍った湖
- 現場がアイスブレーク。初日から参加必須にし、まずは現場(高度に自動化・機械化された伐採現場+フィンランドトップレベルの加工工場)で全員の目線をそろえる。特に新興国系の参加者は、わかってはいても北欧林業の完成されたバリューチェーンに心洗われる。基本的にこの業界の人は木や森が好きな人たちなので、このあたりからみんな無邪気モードに突入していった。下手なアイスブレークよりも、みんなが一緒に興奮できる体験を用意したのが奏功している。
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参加者の絞り込み。今回のカンファレンスには色々な思惑や文脈があるのだけれど、それにしても完全招待制で50人程度に絞り込んだのはとてもよかった。お互いがお互いを知っている上での会話なので、遠慮のない会話がいきなりされていた印象。
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サウナ。これはフィンランド外交伝統の必殺技らしい。ちゃんと招待メールにも「海パン持参」と書かれていた。日本とは違い人前で裸になることに抵抗が大きいアメリカ人までも、すっぱだかで30-40人がサウナでギリギリまで接近して(笑)話をしている光景はかなり圧巻。そして、サウナであったまった体をゼロ度の湖(湖の飛び込み台の周りはポンプがついていて、水の流れを作ることで氷が張らないようになっている)に飛び込んで冷やすと、もうBest Buddyなんではないかというくらいにみんな仲良くなる。日本でも温泉で商談するケースを聞いたことあるけれど、大の大人たちがワアワア言いながら氷の張った湖に突っ込んでいくほどのエンタメ性はないかもしれない。フィンランドおそるべし。もちろん、女性には別なサウナが用意されている(だれも湖に飛び込んでいなかった模様笑)。(湖畔のサウナから、ここに飛び込む。今考えると、なかなかな画だ笑)
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朝から晩まで拘束する。これは、参加する側としては相当ハードなものの、実際、朝食から夜中のサウナに至るまで、ほぼ全参加者が8時から夜中まで顔を突き合わせていた。朝遅く始まり夕方早く終わるカンファレンスが大半の中、会場を森の中のリゾート施設にして(文字通り)逃げ場がない状態で缶詰にしたのは、結果的にはよかったのだと思う。大人数だと難しいと思うけれど。 (会場は、昔の狩猟用別荘を改装したホテル。周りは見渡す限り森と湖で逃げ場がない)