気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

Komaza 48週目:

今週はナイロビ出張。
ドナー支援の一環として、某戦略コンサルのチームと、会社の海外進出戦略についてブレストする。
社内で現場と経営の両面で議論をしていると、いつの間にか堂々巡りになってしまうこともあり、外の世界から客観的なフィードバックをもらえるのは非常にありがたい。
 
特に、開発やドナーの世界でありがちな、個人のこだわりやファンドの投資テーマの押し付け、特定の結論への誘導といったトラブルもなくプロジェクトを進められているのは、アフリカのソーシャルエンタープライズとしては珍しいことなのではないだろうか。
経営の優先順位づけの誤りが会社の危機に直結するベンチャーの世界で、ドナーの要求に負けて経営を誤ってしまう(例:事業モデルを見定めるために試行錯誤しないといけない時期に、特定のプランに沿ったプロジェクト実行を求められる)というのはスタートして間もないソーシャルエンタープライズにありがちな話。
そういうリスクを避け、ドナーと良い意味で信頼関係を作るためにも、プロジェクトのスコーピング段階で侃侃諤諤の議論を厭わずやりきる必要がある。
Corporate FinanceにGrant Fundingは一般的には含まれないが、一般的な資金調達が難しい新興国にあっては、機動的・戦略的にグラントやドナーを活用することも、ファイナンスの重要な機能だと思う。

Komaza 47週目:起業参謀という仕事

今回もスタートアップ・ネタ。

New York Timesに掲載されたElon Muskのインタビューは目を通した人も多いのではないか。

週120時間働き、人生を削りに削って仕事に向かう痛々しい姿に、それが優れた経営者の姿かは別として強い印象を受けた人は少なくないのではないか。

数日後には、ハフィントンポストの創業者Ariana Huffinton(本人も昔はスーパーハードワーカーとして有名だった)が公開書簡でElon Muskの仕事への姿勢は誤っていると糾弾するなど、実現すれば史上最高額だったMBOの撤回と合わせて議論を呼んでいる。

An Open Letter to Elon Musk(イーロン・マスク氏に宛てた公開書簡)と題された記事では、 

”This is not about working hard -- of course you’re always going to work hard. It’s about working in a way that allows you to make your best decisions.”

(抄訳:ハードワークしてはいけないという意味ではありません。最良の決断を下せるような働き方をするということです。)

といって工場やオフィスで寝泊まりする働き方が、本当に会社のために最も良いことなのか問いかけている。

 

 

 

もともとElon Muskのマッチョな働き方は有名だったけれど、個人的にはHuffinton氏の記事に対してTwitter上で、

 

 

と反論した姿に考えさせられるものがあった。

追い詰められているのは本当なのだろうし、ソフトウェア以上にコントロールすべき要素が多い大変な業界なのだと思う一方、経営者の孤独という語り尽くされたテーマを改めて思い浮かべてしまう。

特に象徴的だったのが、"You think this is an option. It is not.という言葉。

今の自分の役回りはプロとしてCEOに”Option"を示し、比較し、最善の決断をしてもらうことなので、今回のTeslaのように事業の状況が逼迫してきた時にどこまで役立つアドバイスができるのかは大切な問いだ。

 

 

結局プロフェッショナルとして会社にいる限り、CEOと同じ視点に立つことはできない。

第一線のヒリヒリ感を疑似体験したり、想像はできても、同じプレッシャーを感じることは不可能だし、むしろ同じプレッシャーを感じること自体にはなんの価値もない(だってみんなで不安になって、仲良しクラブしていたら、一体誰が冷静に経営を考えるのだろう)。

むしろ不安で押しつぶされそうになり、孤独感の中で戦う起業家をいかに(多少は)プレッシャーが少ない経営チームが支えること。

あるいは、中長期のシステムづくり、経営体制づくりを通じて起業家の知らぬ間にプレッシャーを軽減してしまうこと、それこそが経営における参謀やマネジメントチームの価値なのだと思う。

 

能力ギリギリで粘りながら、誰よりも切迫感と現実感を持って経営に向き合えるか、それが僕にとってのケニアでの挑戦だ。

CEOと話す前には毎度胃が痛いし、夜中に目がさめる。

仕事に失敗することの不安よりも、自分が独りよがりで仕事をしていないか、自己満足で本質的なインパクトのあるプロとしての提案ができていないのではないか、そもそも存在価値がないのではないか、そういう根源的な不安でうなされる。

 

スタートアップの仕事は、大企業なら「そんなの無理です」という仕事を「楽勝です」と言って引き受け、工夫をしながらなんとかしていくプロセスでもある。

そういう意味では、虚勢を張りまくるための根拠のない自信なしに成功は望めない。

一方で、まっさらな紙に事業の構想を書くときに感じる全能感に浸って、自己満足に陥れば、事業を危険にさらすことになる。

自分の能力をシビアに図りつつ、不安と対峙することで仕事の質を上げていくことが必要だ。

ときに自分の存在価値さえも疑いながら、自分の役割を研ぎ澄ました先に、プロとしてのあるべき姿があるのではないか、そう信じて「起業参謀」の仕事をしていきたい。

Komaza 46週目:閑話休題

先週の記事をかなりの数の方々に読んで頂いて、いい気になっていたら、ブログの更新を1週間飛ばしてしまったことに気が付いてしまいました。。。

なので、今回の記事が正式には「先週」の定期更新になります。 

tombear1991.hatenadiary.com

 

ケニアに転職すると伝えたとき、何人か「絶対行くよ!」といってくれた人たちがいて、来週から何組か三菱商事時代の同期や後輩が遊びに来る。

仕事の方は相変わらず忙しいのだけれど、ケニア有数のリゾート地なので迎えられるのを楽しみにしている。

国際機関やビジネスでいらっしゃる日本人の方に公私ともにお越しいただく機会も増えているので、ケニアのコーストの魅力が伝えられれば嬉しい。

Komaza 45週目:ソーシャルxベンチャーxケニアで苦労したことTop10

数ヶ月かけてきた戦略の仕事が週末でようやくひと段落。
日本にいる友人から、「ブログ見てるといつも楽しそう、ベンチャーは忖度とか悩みとかがなくて羨ましい」というコメントがきたのですが、書いていないだけでもちろんしんんどいです笑


日本のベンチャー界隈は採用難のようで、起業家はみんなnoteとかTwitterで和気藹々とした投稿してますが、あれはリクルーティング戦略としてやっているだけで、ベンチャーに向き合っている人たちは身を切るような切迫感を持ってやっているんだと思う。


多分に洩れず僕自身もストレスがご褒美的な性格ではあるものの、「ベンチャー最高・起業最高・アフリカ最高」みたいなお花畑投稿だけするのも読者の皆様に不誠実だと思うので、今回はソーシャルxベンチャーxケニアxファイナンスで大変だったことをつらつら書いてみたい。
(追記:やばい、筆が止まらない。。。)

1. 仕事がない

大企業の仕事をやめて、ファイナンスのキャリアも宙に放り投げて、入社した初日に「Job Description何も決まっていないんだけど笑」とCEOに言われる。人事がなってないとかそういう話では決してなくて、プロなら若手でも自分でスキルと経験を説明し、できることをCEOに理解してもらいながら仕事を自分で定義する必要がある。これは会社にいる限り、永遠に続く。常に会社のニーズを理解し、CEOの意図と思考を先読みし、自分の職域を定義する。まずは自分の役割を仮説ベースでも良いのでCEOと握り、成果を出して信頼を勝ち取り、必要であればチームを組成する。与えられることを前提としない。自分のスキルや経歴が会社に価値を提供できるかどうかは、日々試される実力主義で、なおかつ役割はその時々でガラリと変わる。必要な機能を先読みして、実装して、CEOの咀嚼可能な形でタイムリーに説明することができなければ、このポジションは明日にも消えてしまう。

 

2. 全部重要・全部緊急

法務部も会計ファームも専門家がほとんど社内リソースで賄える大企業とは対照的に、何でもかんでもFigure Out(なんとかする)ことが求められる。信頼できる社外アドバイザーを見つけたり、時間とコストを意識しながら、何が重要でそうでないかを判断する毎日は9時5時のサラリーマン生活とは無縁(やったことないけどw)。


3. 誰もマネジしていないフリーフォール案件

無数のプロジェクトが走る社内。誰よりも手を動かし、多くのディレクターと話をしていると気づいてしまう、手付かずになってしまった重要案件。指摘すれば、自分の仕事がさらに増える。でも指摘しなければ、プロとしての倫理を問われる。というほど大げさじゃないにせよ、フリーフォール案件の仕切り直しとかは以外と厄介だったりする。うまくいけばお手柄だけれど、手柄を掴むためには嬉々として地雷原に飛び込まないといけない。


4. データ信頼性ゼロからの絶望のクリーンアップ

メール一本で取り寄せるデータが全て信用できないとしたら、どうなるだろう。たとえ善意のある、仲の良い同僚からデータをもらっても、それがそのまま使えることはほぼゼロに近い。担当者が変わっていたり、定義の理解にズレがあったりして、ほぼ必ずクリーンアップか加工が必要になる。そもそもデータが存在しなかったり、必要なデータを作るためのサーベイ、モデル構築、分析までしないといけないこともある。大企業やプロフェッショナルファームでは、出てくる資料や情報をある程度信用できるかもしれないが、そんな世界は夢のまた夢。担当する分析は基本的に投資家候補によるDDに使われるので、変なミスや作為的な編集は法的責任を問われかねない。Welcome to startup! 訴えられるのではと日々怯える。


5.「なんとかしろ」案件

ファイナンスや事業計画はどの事業部門も共通に欲している機能。本来は各事業部が個別に事業計画を立てて、ファイナンスも考えるべきなのだけれど、ここは大企業の世界ではない。必要に応じて、個別案件にパラシュート降下して、短期間でWorkableなモデルを組んだり、論点整理をしたりすることになる。毎度勉強になるので、個人的には好きな業務だけれど、猛烈なスピードでキャッチアップして案件をリードするのは体力・気力的に消耗するのも事実。


6.(エレベーターがないのに)エレベーターピッチ

CEOはとにかく忙しい。よって、CEOへのバリュー提供は、「単にいい提案とエクゼキューションができたか」のようなふわっとしたものではなく、「最小限の時間で必要な判断を下し、情報を共有し、ブレストを行い、次の方向性を確認し、その後フォロースルーができたか」という殺伐としたものになる。基本的に前日までにGoogle Docでアジェンダを共有し、文書ベースで論点や参考資料を示し、コメントで返答可能なものは時間を使わない、という戦術を駆使して週一時間でアジェンダを網羅する。時間管理もイシュー管理も胃が痛くなるんだけど、慣れればエレベーターピッチの拡大版みたいで楽しい。ちなみにキリフィの街にはエレベーターは一台しかない笑

 

7. 政治と忖度

「スタートアップって忖度ないんでしょ」というのは典型的な誤解だと思う。大企業のようにポジションを前提とした所属団体や経歴ベースの差別とかはないにせよ、ガバナンスストラクチャーもなければ、意思決定系統も曖昧(というか組織の成長に合わせて日々変わっていく)中で、無数のステークホルダーを束ねたり動かしたりするのは、大企業のポリティクスと同じくらい複雑な作業。特に、コーポレートファイナンスはCEO直轄の全社横断部門なので、社内の動向はゴシップから直近パフォーマンスまで常に気を配って判断する必要がある。今になって思えばスタンプラリーのような大企業の稟議プロセスも、実は担当者の手間を省いていたのかもしれない。


8. プロフェッショナル・コミュニティとの断絶

専門職の人が、刺激を受ける同業者との交流不足で煮詰まってしまう。人口5万人のケニアの田舎街にファイナンスの話ができる人なんてほとんどいない。ナイロビのような大都市はまだしも、地方に拠点をおくベンチャーにありがちで、ITやファイナンスなどプロフェッショナルコミュニティがないことを苦にして転職するケースも少なくない。僕の場合は、Skypeで定期的に面白い友人と話をしたり、ネットや読書でインプットを増やしたり、たまにナイロビに行ってこっちのプロフェッショナルと話をしたりしていた。今は、仕事を通してヨーロッパやアメリカの投資家や開発プロフェッショナルとも日夜議論できるようになって、結構楽になった。ディールを掴みにいくまでがしんどかったが、結局のところどこに行っても自分の仲間は自分で探し、コミュニティを作る図太さは大切。特に、コーポレートファイナンスなら金融の情報機能を果たすべく、社外との接点をレバレッジして、どんどん専門家や面白い人を連れてこないといけない。


9. 体力的に追い込まれた時の追い打ちハプニング

寝不足が続いてオフィスに行くのもしんどい時に限って起こるハプニング。普段なら「またかあ、仕方ない」で対応できるはずなのにこういうときに限って不運が重なる。道端を歩いていると警官に絡まれて、賄賂を要求されたり(やれやれ)、断水でシャワーが浴びられなくなったり(海水OR雨水で対応)、携帯の電波が不安定になったり(Wifiを求めてホテルに避難)、停電でパソコンが使えなくなったり(電源を求めてホテル・カフェに避難)する。新興国あるあるだけど、気持ちが滅入るイベントが立て続けに起きると、気持ちの立て直しがかなり重要。落ち込む自分をあやしながら、ちょっと高い飯を食べ、酒を飲み、寝るとか、マッサージを受けに行くとか、筋トレするとか、建て直し力が問われる。


10. 社会的インパクトとビジネスの二枚バサミ

ビジネスの世界での期待値コントロールより、ソーシャル・エンタープライズの期待値コントロールは断然複雑だ。ある投資家はリターンを気にし、ある投資家は木の種類が気になり、他の投資家は農家の生活と収入の関係から質問をしてくる。金銭のリターンは定量化する方法が確立しているが、社会的・環境的インパクトの評価は所属組織の専門領域や、多くの場合、担当者の個人的な経験によって定義される。なので、ビジネスであれば数通りの説明で済む内容も、ときに数倍の労力を費やして説明することになる。Accountabilityは重要であり、会社としてのラーニングにも直結するので、大変だけれど意味のある仕事。

 

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改めて書き出してみると、こういう大変な部分こそ、今一番自分が楽しんでいる部分だということに気づかされる。
一方で、目の前の仕事をうまくできるようになることだけでは、いつまで立っても自分の想像を超える学びを得ることはできない。
外部との情報交換や、体系だった学習、メンターとの対話を貪欲に重ねていかないと、あっという間に自己満足になってしまう。
会社にとって本源的な価値を届けるために、想像の限界の外に飛び出して、自分の学びを会社の学びにできるか。


やることもはっきりしてきたので、挑戦を続けていきたい。

Komaza 44週目:Watamuで寿司・家族留学してきた

今週末は、ナイロビの日本人プロフェッショナルの方々からのお誘いで、マリンディの近くにある沿岸部の街Watamuに行ってきた。
プール付き・ビーチ沿いの大きな家を丸々借り切って、子ども連れ2家族と3人で週末を過ごす。
長めの雨季でにわか雨がよく降っていたのが嘘のように、カラッと晴れ通したのはラッキーだった。
 

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ハイライトは、マグロ・クエ・伊勢海老を仕入れての寿司作り講座。
この日のために日本から持ってきた出刃包丁と柳刃包丁を手に、震えながら捌き方の指導を受ける。
生まれて初めてさばいた魚がマグロというのも贅沢だけど、価格は日本の数十ー百分の1だと思うので許してください。
 

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日本の皆様には怒られると思うけど、高級魚の定番のマグロとクエと伊勢海老をキロ単位で仕入れて、もう当分見たくないと思うくらい食べた。
ナイロビから来られた方々は、炊飯器、白米、お酢、わさび、醤油とフルセットと物量豊富。
一通りの秘術は伝授されたので、あとは練習あるのみ。
とりあえず簡単で美味しい伊勢海老と練習にいいとすすめられたアジで経験を積みたい。
 
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もう一つのハイライトが、「家族留学」。
家族留学という言葉はManmaという団体が始めた活動で、一回りくらい上の世代で子育てをしている家庭にホームステイすること。
今回30代で0歳-4歳のお子さんのいる方々と2日間過ごしたのは、自分にとって全く異次元の体験だった。
大学生の時に家庭教師をしたりしていたので、小学生くらいなら相手をした経験もあったのだけれど、知らない間に、自分の「子育て」のイメージが小学生になっていたのに気づかされる。
自分は、想像を絶する可愛さにキュン死しつつ、全く予想できない感情と行動の波にひたすら翻弄されるばかり。
あの手この手の連続攻撃を巧みにあやしたりかわしたりしながら育児されているお父さん・お母さんには本当に頭が下がる。
こんなことブログで書くことになるとは思いもよらなかったけれど、仕事ばかりしている自分からすると、完全な異世界体験だった。
ケニアと東京の生活の変化よりも衝撃的。
20代はとにかく仕事にオールインと決めているにしても、30代以降のいわゆるプライベートライフはついつい考えてしまう。

今週も頑張ります。