Komaza 47週目:起業参謀という仕事
今回もスタートアップ・ネタ。
New York Timesに掲載されたElon Muskのインタビューは目を通した人も多いのではないか。
週120時間働き、人生を削りに削って仕事に向かう痛々しい姿に、それが優れた経営者の姿かは別として強い印象を受けた人は少なくないのではないか。
数日後には、ハフィントンポストの創業者Ariana Huffinton(本人も昔はスーパーハードワーカーとして有名だった)が公開書簡でElon Muskの仕事への姿勢は誤っていると糾弾するなど、実現すれば史上最高額だったMBOの撤回と合わせて議論を呼んでいる。
An Open Letter to Elon Musk(イーロン・マスク氏に宛てた公開書簡)と題された記事では、
”This is not about working hard -- of course you’re always going to work hard. It’s about working in a way that allows you to make your best decisions.”
(抄訳:ハードワークしてはいけないという意味ではありません。最良の決断を下せるような働き方をするということです。)
といって工場やオフィスで寝泊まりする働き方が、本当に会社のために最も良いことなのか問いかけている。
もともとElon Muskのマッチョな働き方は有名だったけれど、個人的にはHuffinton氏の記事に対してTwitter上で、
Ford & Tesla are the only 2 American car companies to avoid bankruptcy. I just got home from the factory. You think this is an option. It is not.
— Elon Musk (@elonmusk) 2018年8月19日
と反論した姿に考えさせられるものがあった。
追い詰められているのは本当なのだろうし、ソフトウェア以上にコントロールすべき要素が多い大変な業界なのだと思う一方、経営者の孤独という語り尽くされたテーマを改めて思い浮かべてしまう。
特に象徴的だったのが、"You think this is an option. It is not.”という言葉。
今の自分の役回りはプロとしてCEOに”Option"を示し、比較し、最善の決断をしてもらうことなので、今回のTeslaのように事業の状況が逼迫してきた時にどこまで役立つアドバイスができるのかは大切な問いだ。
結局プロフェッショナルとして会社にいる限り、CEOと同じ視点に立つことはできない。
第一線のヒリヒリ感を疑似体験したり、想像はできても、同じプレッシャーを感じることは不可能だし、むしろ同じプレッシャーを感じること自体にはなんの価値もない(だってみんなで不安になって、仲良しクラブしていたら、一体誰が冷静に経営を考えるのだろう)。
むしろ不安で押しつぶされそうになり、孤独感の中で戦う起業家をいかに(多少は)プレッシャーが少ない経営チームが支えること。
あるいは、中長期のシステムづくり、経営体制づくりを通じて起業家の知らぬ間にプレッシャーを軽減してしまうこと、それこそが経営における参謀やマネジメントチームの価値なのだと思う。
能力ギリギリで粘りながら、誰よりも切迫感と現実感を持って経営に向き合えるか、それが僕にとってのケニアでの挑戦だ。
CEOと話す前には毎度胃が痛いし、夜中に目がさめる。
仕事に失敗することの不安よりも、自分が独りよがりで仕事をしていないか、自己満足で本質的なインパクトのあるプロとしての提案ができていないのではないか、そもそも存在価値がないのではないか、そういう根源的な不安でうなされる。
スタートアップの仕事は、大企業なら「そんなの無理です」という仕事を「楽勝です」と言って引き受け、工夫をしながらなんとかしていくプロセスでもある。
そういう意味では、虚勢を張りまくるための根拠のない自信なしに成功は望めない。
一方で、まっさらな紙に事業の構想を書くときに感じる全能感に浸って、自己満足に陥れば、事業を危険にさらすことになる。
自分の能力をシビアに図りつつ、不安と対峙することで仕事の質を上げていくことが必要だ。
ときに自分の存在価値さえも疑いながら、自分の役割を研ぎ澄ました先に、プロとしてのあるべき姿があるのではないか、そう信じて「起業参謀」の仕事をしていきたい。