新しいソーシャルアントレプレナーの時代
アショカの描こうとしている未来とはどんなものなのだろう?
例えば、今僕が働いているSocial Financial Serviceは、市場や金融の力を使って社会変革を試みている事例を研究しながら、Market Approach Social InnovationやSocial Capitalismの分野が今後どのように発展し、それをどう支援出来るのかを考える部署だ。
せっかくなので、今(アショカではなくて)僕が個人的に考えている市場原理を用いたソーシャルイノベーションについて書いてみたい。
目指す頂上が一緒でも、そこへいたる山道があまたあるように、社会問題をどれひとつとっても様々なアプローチが存在する。
そうした中で、なぜマーケットアプローチと金融がもたらす未来に注目する意味があるのか、ざっくりと説明してみよう。
①金融の手法を社会問題の解決に
グラミン銀行と聞いて、ピンと来る人もいるであろう。ごく小額の融資を必要とする人々にむけたマイクロファイナンスは、例えば仕入れをするお金がないから、売るものがなくて、売るものがないから仕入れをできるだけの収入が得られない、といった瞬間的にお金が必要な人に対して小額の資金を提供するサービスだ。
また、経済的なリターンだけでなく社会インフラの整備といった「社会的に意義のある」活動に対して低利で融資を行う、インパクトインベストメントもこうした流れに入る。
このように、先進国では当たり前に行われている融資や投資などの金融サービスを、途上国に行き渡らせることで、より速く効率的に地元の力を使いながら経済発展を実現できるという戦略が広まっている。
90%の人が預金通帳を持っていない、といったことも当たり前の途上国の発展には、こうした必要な場所に必要な資金や金融サービスを提供するインフラが求められているのだ。
②市場原理/ビジネスの手法を社会問題の解決に
「フェアトレード」というレーベル貼られた商品を見たことがあるだろうか。
アフリカや中南米などで生産される作物(バナナ、カカオ、コーヒーなど)の多くは、非常に安い値段で農家から買い取られ、それを先進国の市場に卸している仲介企業が莫大な富みを独占していた。
こうした搾取的な構造から脱却し、農家も企業も両方が豊かになるために、「フェアトレード」のブランドが作られた。
ルイヴィトンのバックが、他のカバンより高くてもたくさんの人が買いたがるように、コーヒーやチョコレートなども「フェアトレードで生産者がきちんとした生活をできるだけの価格でつくりました」というブランドを付加することで、多少高くても買ってもらえるようになる。
つまり、おなじチョコレートでも、ただ甘いものを買うだけでなく、「社会に貢献している」という満足感を加えることで、より高い値段で売ることができ、結果的により多くのお金を途上国の農家に届けられるという仕組みだ。
ほかにも、男尊女卑の社会で、ほとんど使われることのなかった女性の労働力を活かした工芸品の販売など、ビジネスで広く使われる「資源の有効活用」、「新しい価値の創出」、「生産者を束ねる」、「マーケットへのアクセスを与える」など基本的な手法を社会問題、とくに貧困の解決に用いるケースが急増している。
詳しくは、アショカSFSのレポートにある、10のDesign Principlesを参照して欲しい。
http://sfs.ashoka.org/sites/sfs.ashoka.org/files/Ashoka%20SFS%20Investing%20in%20Innovation.pdf
③慈善=ゼロ・サムゲーム
では、そもそも、どうしてわざわざこうした工夫が社会問題の解決に必要なのだろうか?
一言で言うならば、これまでのNPOなどを通した「慈善活動」はゼロサムゲームだからだ。
例えば、アメリカで年間にチャリティーに充てられる資金は、GDPの2%と言われる。
これは日本を始めとする各国と比べても突出している一方で、それでさえ貧困や、教育、健康保険制度等、あまたあるアメリカの問題を全て解決出来るわけではないし、ましてやアフリカの貧困撲滅など到底まかなうことができない。
つまり、どんなに意義のある活動をする人々が増えても、どんなに善意が広まっても、彼らが使うことのできるお金は「慈善」の枠にとらわれてしまう。
機会費用の考え方をすれば、アメリカの中学生に1人に放課後先生をつけて高校に進学出来るようにするためには、アフリカの子ども100人分のワクチンを断念しなければいけない。というような、なんとも残酷な決断を迫られることになる。
でも、もしこれが、アフリカでのワクチンを格安で現地生産する技術を作り、利益こそないものの工場の建設費だけで子どもを病疫から守れるとしたらどうだろう?
社会起業家の使命は、これまでは寄付でしかできなかったことを、できるだけ最小限のお金で、最大の社会的インパクトを生み出せるように工夫(ハック)することだ。
そうすれば、アメリカの子どもは高等教育に進むことができ、アフリカの子どもたちも生命を脅かす危機から救われる。
寄付依存を減らすことで、より多くの人が幸せになる可能性を、マーケットアプローチは秘めている。
限られた資金を、NPO同士が奪い合うよりも、今あるもので最大の結果を出すために、ビジネスの利益最大化やコスト削減、マーケット創出の経験値が活かされるのだ。
まとめ!:社会問題はブルーオーシャン
ビジネスではしばしば、市場というパイをいかにして広げるかが議論に上がる。
売り上げをのばし、利益をのばすには、市場シェアの拡大か市場自体の成長が必須だからだ。
でも、社会問題は違う。
「社会」問題というだけあって、基本的にこうした問題は普通の大企業が1、2社あったくらいでは太刀打ち出来ない規模の場合がある。
もし、この問題を解決しながら、安定して事業を運営出来るだけのビジネスプランを作れたら、どうだろう?
成功事例には、きっと同じような野心を抱く新規参入者が群がるだろう。
本来、こうした状況はビジネスにとっては最悪だ。
せっかく苦労して作り上げたビジネスモデルに、ただ乗りして参入する模倣犯が続出しては、事業開発にかけたコストさえ払えないかもしれない。
でも、社会問題の解決は、事業者の利益最大化ではなく、受益者である社会の利益最大化にある。
もし新規参入が相次いで「マーケットが飽和」すれば、社会問題の解決はあっという間に叶うはずだ。
多くのプレーヤーが参入すればするほど、多様で幅広いサービス/製品が提供されて、より多くの困っている人が救われる。
つまり、
<勇気ある社会事業家がモデルを試行錯誤し、モデルの原型を作る>
→<後発の社会起業家による模倣が始まる>
→<既存の営利企業が本格参入する>
→<社会の課題が解決される>
のようにして、一度「上手くいく!」ということが証明された手法はまねされることで、社会全体に広がっていく。
先ほど紹介したソーシャルファイナンスも、もともとはアキュメンファンドというパイオニアの事例があって爆発的な広まりを見せている。
こうした流れが確立されつつある中でも、社会に問題は尽きない。
つまり、きちんとした手法さえ確立出来れば、社会問題の解決はアントレプレナーにとってのブルーオーシャンに他ならないのである。