気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

Komaza 85週目:芸風について

TokyoSwingさんの芸風に関するブログ(「超優秀な若手の悩みと芸風」)がかなり刺激的だったので、感想と合わせてブログを書いてみた。

 

以前のスキル偏重、Box Tickingなキャリア観(通称「スキル君」)批判に続き、スキルの対立概念として「芸風」を掲げる。

コモディティ的エリート主義が横行するコンサルブログ界にあって、深いポイントを突く記事で、とても勉強になった。

 

ここで指摘された芸風については、学生時代からずっと考えてきたテーマで、僕自身としても思い入れが深い。

ただ、この記事では、芸風がどのように発現し、どのように開発されているのか述べられていなかったので、未熟ながら私見を述べてみたい。

 

①芸風の発現:

芸風はおのずから現れる個人の成功法則だと思う。もともとの得手不得手や器用さとも関係するが、何より困難な状況なのになぜか乗り切れた、あまり努力しないのに成果が上がった、などというとき、本人は芸風を発揮しているのだと思う。ただ、芸風と特技の違いは、より無意識的であることで、そこに至る機会の発見、筋道の作り方、クロージングの仕方にいたるまで、何の気なしにやっていることや選択基準が大きく影響する。これを理解するには、自分と向き合うだけではなく、上司や周りから「驚いた経験」を聞いてみるのが良い。そうすると、自分でも思いがけない「驚き」を周りが受けていたりして、この手のフィードバックが自分の芸風の理解に役立ったりする。

 

②「常ならざる世界観」の形成:

世界史で大事をなす人の中には、極貧生活を送ったり、投獄されたり、親族を皆殺しにされたり、働き盛りに大病をしたりしている人物が少なくない。これは、こうした特殊な経験が、普通の人と違う世界観を生むからだと思っている。多様な経験という枠内に収まらない、異常・極限の環境に身を置くことは、その経験を通じた独自の世界観のインプットになるだけでなく、そうした状況を生き抜く上で自然に発現する自分の芸風を見つめなおす契機になる。宮本武蔵の有名な逸話に、吉川一門との果てしない切り合いの末に、有名な二刀流に知らず知らずに目覚める場面がある。統計分析でよく言われる”Crap In Crap Out”の対偶として、ユニークなインプットがユニークなアウトプットの糧になり、インプットの強さ次第ではインプットをアウトプットに変換するフォーミュラ自体(=世界観)もユニークなものになりうる。「苦労は買ってでもしろ」的な成功体験には、極限体験を通じた世界観の理解・変容が関わっているのではないかと思うこともある(たいていは嫌味な自慢だが)。

 

③意識的再現と純化:

「常ならざる経験」を踏まえて、きっかけをつかみ、意識的に再現することも、大切だと思う。ちょっと正攻法とは違う気がしても、思い切って自分なりの世界観を表現する意思決定をし続けることで、世界観の純度が高まり、かつ挑戦の結果得た失敗は、世界観の迫力にもつながる。妄信するのはダメだけれど、思想の純度を意識することは、芸風を個性以上の強みにする上で、大切なのではないかと思う。普通の人のほとんどは、この純化の作業に常識という躊躇いが入っているから、非凡になれない。意識的再現と純化のプロセスは、世間的に見てリスクが高い。それでもやるのか、は善悪ではなく人生の優先順位の問題だ。

 

④芸風は人生を豊かにするのか:

芸風は自己実現をさらに煮詰めた、自己濃縮のようなものだと思う。結果として、非凡な成果につながるかもしれないし、あるいは周りと衝突を招くだけかもしれない。確率的には苦労することのほうが多く、なおかつ濃縮する自己と向き合い続ける覚悟と忍耐がないとただつらいだけになってしまう。覚悟がつくまでは、芸風をどこまで突き詰めるのか、というのを処世術的に考えて線引きをしてみるのもよいかもしれない。個性ありのままを尊重するよう教えられたゆとり世代としては、自分の人生を消耗するレベルまで個性を濃縮するという考え方そのものに割と抵抗があったりする(あれ、だって多様性って社会の構成員の安心と居心地よさのためじゃなかったっけ?)。

 

つらつら生意気を書いてしまったが、今こうしてケニアのド・ベンチャーで四苦八苦しているのも、いい世界観の糧になればと思う。

Komaza 84週目:中央ケニア視察

うまくブログにアクセスできないトラブルが続いて先週の投稿ができていなかったので、一週間遅れでこちらの投稿から!
 
今週は、並走するプロジェクトを抱えながら、フィールド調査。
バリューチェーンを改善するイニシアチブは各所で走っているけれど、その中でも特に歴史が浅い伐採のプロセスについて、ケニア国内でも林業が盛んな地域に行って、インタビュー。
当地ではアウトソースが主流で、林地の所有者・農家は、買い付けにやってくるミドルマンに伐採や搬出を依頼する。
というわけで、ギラギラした仲買人から、都会のオフィスで仕事をしつつ最近持っていた森林を伐採して車を買ったビジネスマン、田舎で農業をしながら林業もやっている農家のおじさまなどを丸2日かけてヒアリングした。
 
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(トラクターに接続した機材を使い、伐採場所でそのまま製材することで、輸送コスト削減している。ちなみに、保護具も何もなく作業するのは、国際基準上はアウト)
 
一番重要なのは、どんぶり勘定になっている収益構造をモデル化して、数字を精緻化することなので、雨期のぬかるんだ道を4WDで走りながら、運転している林業のおっちゃんを質問攻めにしつつ、エクセルでモデルを組んでいくというアドべンチャラスな経験もできた笑

乗り物酔いにならなかったのが奇跡。

 

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質問をしながら、その場で計算がしやすいように事前にモデルを組んでいたけれど、結局はヒアリングする相手の思考の枠組みやその場での推定に振り回されて、ほぼその場でゼロから組むことに。
ナイロビに戻る車中で、同行した中央ケニアのチームとおさらいをし、数字の矛盾点を補正して、最終的に理解のできる形になった。
もともとは、経営計画の一環として企画した調査だったけれど、ローカルとバリューチェーンの両方のチームと協業できたので、少しでも自分たちの仕事が日々の営業活動の改善につながればと思う。
途中、伐採の現場も見せてもらったのだけれども、随所に工夫がされていて大変勉強になった。

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(乾燥した沿岸部とは対照的に、高高度多雨の中央ケニアはお茶の名産地としても知られる。この地域での木材需要のほとんどはお茶を煎るための熱供給に使われる)

Komaza 83週目:

 
 
今週はようやく雨が降り始め、気温が30度前後で安定する過ごしやすい気候。
クーラーのない生活は、肉体的にかなり消耗するので、待ち望んだ雨期突入である。
 
仕事では、並行して取り組んでいたプロジェクトが中盤・終盤を迎えつつあり、よく言えば出口が見えて、悪く言えば画竜点睛をしくじらないように気を遣うことが増えている。
新しい投資家のコミットが決まったり、投資銀行出身の新しいメンバーがジョインしたりと、いいニュースの多い週。
週末は、シリーズBに向けたピッチを練るべくパソコンとメモ帳とにらめっこ。
 
余談だけど、どうも商社時代の気質なのか、テクニカルな財務周りだけでは満足できず、つい他の部門と面白いサイドプロジェクトをやりたくなってしまう。
売り上げにつながるディールや他機関とのパートナーシップ、地域との連携など、仕事が忙しくても1-2時間で事業成長のためにできることがあれば、忙しくても基本的に手を出すことにしている。
そんなことを18か月続けてきて、一年がかりで大きな動きが出てきたり、腐らずに連絡取り続けた投資家から出資を持ちかけられたりする。
ベンチャーファイナンスは、大企業以上に事業の内容・課題・展望を肌実感として理解する必要があるから、こうした「おせっかい仕事」も結構役に立ったりする。
こういうことが気兼ねなくできる、自由度の高さと市場からのフィードバックがベンチャーの魅力なのかもしれない。

Komaza 82週目:韓非子が描く、参謀の心構え

臣聞く、知らずして言うは不智、知りて言わざるは不忠、と。

人の臣と為りて不忠なるは死に当たり、言いて当たらざるも亦た死に当たる。

然りと雖も、臣願わくは悉く聞くところを言わん。唯だ大王其の罪を裁せよ。

 冒頭に紹介したのは韓非子の出だしで、知を売り物にする仕事の緊張感とアドバイザーとしてのクライアント(主君)への姿勢が凝縮されている。

「知らずして言うは不智、知りて言わざるは不忠」の方は有名な一節だけれど、 命を懸けて進言するものと宣言した後に「然りと雖も、臣願わくは悉く聞くところを言わん。唯だ大王其の罪を裁せよ」というさっぱりした姿勢に今の自分は共感を覚える。

 

参謀業は、もともとは軍事・政治をつかさどり、人命を左右する仕事だった。

ビジネスでは命こそ取られないけれども、一言一句に職業人生がかかっているのは変わらない。

軽率を戒めながらも、ポジションをとることを恐れずに思い切った進言をしなければいけない。

今の時代、本当に死ぬことはないけれど、会社が死んでしまう(倒産する)可能性はあるわけで、このプレッシャーの中でこそ生まれる思考にどこまでキレを持たせられるかが日々の挑戦になる。

 

だから、平素の心がけとして、あらゆる事態を想定してポジションをとれる準備しないといけない。

それでいて、難しい局面でも泰然自若に見えて、存分に実力を発揮できることがTrusted Advisorとしての理想だ。

そう思うにつけ、「ありかた」と「やりかた」の両面で自分の至らなさを痛感する。

学ばなければならないことはまだたくさんある。

 

ちなみに、週末にPIXARのCFOによる回顧録を読んだ。

Steve Jobsとの距離感や、巨人ディズニーとの交渉、エンジニアとの信頼関係など、絶妙なニュアンス満載で大げさだけれど現代版韓非子的なプロフェッショナリズムを感じた。

 

PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

 

 

Komaza 81週目:イースター休暇

先週末はEaster休暇ということで、金曜日から月曜日までお休み。

色々なことが過去数週間でひと段落したので、疲れが出てきたのか仕事のペースがいまいち上がらず、思い切ってモンバサに遊びに行ってきた。

エアコン(Kilifiは扇風機だけ笑)のある部屋で、本を読んだり仕事をしたり、夜中に目覚めることなく眠れたり、いい気分転換になった。

モンバサ市内はニューヨークのマンハッタンと同じように島になっている。

いつも空港を利用するだけで市内を歩いたことがなかったので、世界遺産になっているFort Jesusと旧市街をカメラを持って歩いてみた。

 

ケニアの沿岸部はひどい干ばつに見舞われており、去年なら今頃道路が水浸しになっているはずなのに、今年はまとまった雨が全く降っていない。

それもあって例年の気候よりも気温が高く、雨が降らずに湿気が空気に残っているので、湿度が高いのかもしれない。

農業は、総労働人口の64%、GDPの35%を担う重要な経済ドライバーなので、世銀はGDP成長率の下方修正をしている。

日本の昔話で雨乞いとか村の行事とか、こうして天候でGDPが直接影響を受けると聞くと、実感がわいてくる。

ましてや、湿潤な内陸部とは違い、年一回の雨期で一年分の食糧を確保しないといけない沿岸部の農家は本当に大変だ。

 

 

 

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モンバサ旧市街

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モンバサ新市街