気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

気候変動がもたらす未来とスタートアップの新領域

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サミットもあり、気候変動に注目が集まっている。

学校の授業やニュースで地球温暖化や異常気象について知っている人がほとんどでも、気候変動という大枠の詳細や、対策の選択肢や人類への影響について、体系的に学ぶ機会はほとんどない。

頭の整理として、以下簡単にまとめてみたい。

 

気候変動は、何が変動するのか?

NASAの定義によると、「気候変動は、地球上の気候パターンが局所的、地域的、全地球的に長期にわたり変化すること」”Climate change is a long-term change in the average weather patterns that have come to define Earth’s local, regional and global climates.”というもの。ときどき、地球温暖化と気候変動を混同しているケースがみられるが、地球温暖化は海水面上昇などと並ぶ、気候変動に含まれる下部概念。

  • 恒常的な変化:気温の上昇、雨量の変化、気候区分の変化、海水面の上昇、氷河の消滅、植生や土壌の変化。
  • 不規則な変化:嵐や雹、干ばつなど局所的・一時的な異常気象の増加。災害をもたらすレベルの気象状況の頻度・強度の増加。

 

気候変動を防ぐにはどうしたらよいのか?

MitigationとAdaptation:気候変動への対策にはMitigationとAdaptationの2種類が存在する。

  • Mitigation:気候変動を引き起こす原因である二酸化炭素やメタンなどのGreen House Gas(GHG)を空気中から減らす手法。再生可能エネルギーを使う、植林をするといった方法に加え、大気中の二酸化炭素を吸収する装置を使ったり(Carbon Deoxide Removal - CDR)、地球に降り注ぐエネルギーを減らす(Solar Radiation Management - SRM)といったGeoengineering Technologyが含まれる。CDRやSRMは、一般にはあまり認知されていないものの、今後世界規模で気候変動に投資が集まるときに、単なる再エネ投資を超えた本格的な新領域になるだろう。
  • Adaptation:気候変動は既に始まっているので、今すぐにMitigation施策をしても、効果が出るまでにはタイムラグがある。その間のダメージを最小化するための施策がAdaptation。ゲリラ豪雨のために排水施設を強化する、水面上昇のために堤防を作る、農家向けに保険を提供する、フードロスを減らす活動をするなどが具体的な施策の例。

Geoengineering のパターン(出所:IASS)

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考慮すべきニュアンス

気候変動のMitigationとAdaptationはあくまで技術の分類であり、全地球規模で実行するには、ほかにも考えないといけないことがある。

  • 投資の実行:SustainabilityやESGへの意識の高まりから、グリーンボンドや再エネ投資のようなClimate Finance領域では、年間約4,000億ドル(40兆円)が投資されている。地球規模の課題解決には、地球規模の投資が必要であり、これでもまだ必要な投資には遠く及ばないとさえ言われている。政府や国際機関というパブリックセクターでは当然賄いきれない規模であり、企業・金融機関がビジネスとしての関与を拡大していく必要がある。さらに言えば、パブリックセクターの役割は、気候変動関連の投資を実行する主体から、プライベートセクターの拡大を保証や追加投資、先行投資などを通じて支える立場に変わっていく。
  • 人々の意識の変化:人々の消費に対する考え方が変容する。気候変動が教科書のテーマではなくなり、人々の日常を脅かすリスクとして認知されることで、温室効果ガスを排出する活動への風当たりが強まり、環境対策への意識が高まる。 気候変動の結果として、人々の世界観が変わっていくことで、必要な環境対策へのアプローチも変わってくる。
  • リスクの不均衡と投資の不平等:気候変動のインパクトは一様ではない。赤道付近など特に強くダメージを受ける地域と、寒冷地域のように恩恵を受ける地域に分かれる。気候の変化そのものに限らず、社会構造や生活環境、インフラなどあらゆる要素が気候変動のインパクトを左右する。例えば、気候変動のインパクトは赤道近辺で特に強くなるが、経済力のある主要先進国は中緯度に集中している。先進国よりも非先進国のダメージが大きいときに、先進国はどこまで資金を出すべきなのか?中国やインドが経済成長の権利を主張する中で、どこまで単位人口当たりの二酸化炭素排出が認められるのか?気候変動を解決するための様々な施策がでてくる一方で、施策の機会費用や投資必要額、その分配はおそらく政府や国際協調ではどうにもならないところまで来ている。
  • ノアの箱舟:このまま気候変動が進行した場合、社会は大きなダメージを受ける。同時に、ダメージが大きければ大きいほど、MitigationやAdaptationの効果的な施策にはお金が集まる(i.e.機会費用)。仮に、強力な気候変動への対応技術が確立されたとして、その技術を「誰が」握るのかは大きな論点になる。インターネット同様、スタートアップのような零細アクターが開発した技術が、グーグルやアリババのような巨大企業になり、政府が規制するような流れは容易に想像がつく。技術の導入には資金が必要であり、資金を出せる国と出せない国が出てくる。中国やロシア、米国、欧州などが、コロナのワクチンを友好国に優先提供しているように、技術の分配も政治化する要素を多分に含んでいる。

 

世界はどう変わっていくのか?

  • 気候変動の主流化:政策アジェンダとして「いつか重要だけれど、最優先ではない」ステータスに甘んじていた気候変動が、国際政治や経済の重要テーマになる。国際機関やNGOによるアドボカシーをはるかに超える強制力を持つ政策が国家レベルで導入され、企業や経済も主体的に意図をもって行動し始める。最初は規制や目標値の設定から始まるが、時を待たずして気候変動そのものが巨大なビジネスになる。
  • 人々の思考・行動の変化:「沈黙の春」やローマクラブのレポートからは数十年の遅々たる進捗がウソのように、気候変動は政治化され経済活動に取り込まれる。人々の生活に対する期待も少なからず変化し、先進国を中心に消費経済の次なるあり方が模索される。一方で、アフリカやラテンアメリカなど平均年齢が若い新興国では依然として消費は旺盛であり続ける。
  • 都市の移動と難民の発生:気候変動は、海沿いに都市を築いて発展してきた人類の歴史の前提を覆す。海面上昇による旧来の都市の衰退は経済活動のアナログな根幹を崩す。気候パターンの変化は、人類が数百年かけて地域ごとに最適化してきた農業や産業を動揺させる。結果として、主要都市は移動し、土地利用は一変する。
  • 国際政治の覇権争い:中国とインドは人口・経済・環境負荷の総ての面で国際社会の中心に立つ。国連をはじめとする旧来の「国際協力」は次第に力を失い、COPのような国際協調型の対策よりも中国やインド、アメリカなど技術力と資本力を持つ大国が競争するように新たな政策を打ち出す形で変化は進んでいく。冷戦が軍事競争を通じて科学技術を急伸させたように、気候変動とその解決策(金、技術など)をテコにした国際覇権競争は、結果的に気候変動問題の解決に貢献する可能性が高い。アフリカは、2020年代半ばに中国とインドの人口増加が終わるのに合わせ、人口を急増させ、旧来の消費社会の観点から新たな気候変動対策レジームに異議を唱える。中国・インドとアフリカの最大の違いは、単一の統合された「アフリカ」が存在しないこと。爆増する消費者・中間層と天然資源の組み合わせは地域紛争を悪化させる可能性も秘めている。

 

スタートアップの役割

最後に、プライベートセクターの急先鋒としてのスタートアップの役割についても少しふれておきたい(たぶん後日加筆します)。

  • 技術を開発する:MitigationとAdaptationはいずれも、数十年前とほとんど変わらない技術で成り立っている。とりわけ、Geoengineering の分野は未発達であり、新技術で気候変動をコントロールできれば現在のプロジェクションは、未来は一変する。気候変動対策のボトルネックは経済活動とのトレードオフであり、Mitigationで強力な技術が出れば経済活動を拡大しつつ気候変動を抑止するという理想的な状況になる。また、自然災害や異常気象でも人々の生活や活動が影響を受けないためのAdaptation周りの工夫は、公共政策に限らずビジネスの機会になる。
  • 技術を改良する:気候変動周りはこれまでビジネスがあまり入ってこなかった領域である。ソーシャルインパクトでさえ、数十年にわたって起業家たちが取り組んで、マイクロファイナンスをはじめとする新手法が確立されてきた一方、Climate Startupというのはほとんど見受けられない。強いて例外を挙げれば、再生可能エネルギーや核融合など領域であり、まだまだ技術改良が見込まれる。公共事業として政策的に先行投資されてきた領域を民間でもエコノミクスが回るようにするのはスタートアップの役割になる。軍事技術だったコンピューターやインターネットが、スタートアップによって世界に広まったのと同じことが起きる必要がある。
  • 技術を拡大する:技術開発の先に、技術改良があり、最後は拡大(Proliferation)が来る。技術が確立され、投資対効果が高められた先にあるのは、圧倒的な拡大である。例えば、自分が仕事をしているKomazaは林業という十分に確立され、改良された業界において、零細農家とのパートナーシップという新しい要素を加えることで、大規模な土地確保が難しいアフリカで植林をしている。気候変動は地球規模の課題であり、ソリューションは地球規模でなければならない。言い換えれば、地球規模のビジネスチャンスがある。

 

気候変動は、貧困解消と並んで21世紀の一大テーマになる。

小規模農家による林業というこの2大テーマの結節点で仕事をしてきて、いよいよ時局が変わりつつあるのを感じる。

分かりやすさと大局観優先で書いてみたので、異論反論感想あればぜひコメント頂きたい。