画鬼・暁斎展
今日は仕事の帰りに、オフィスの近くで開かれた江戸末期・明治初期の絵師川鍋暁斎と建築家ジョサイア・コンドルを特集した美術展に寄ってきた。
コンドルについては、明治維新の改革の嵐の中で、日本の形の上での西欧化を担った重要な建築家として知っていたものの、川鍋暁斎なる狩野派の絵師については、作品を目にしたことも名前を聞いたこともなかった。
それなのに、会場に入るや否や、その画風の自由奔放さと有無を言わさぬ説得力に度肝を抜かれた。
まず特筆すべきは、彼の構成にたいする絶妙なバランス感覚だ。
狩野派の絵師でありながら、尾形光琳や俵屋宗達のような大胆な間の取り方と、わざとアンバランスを取り入れて躍動感を演出するフレーム作りには感嘆するしかない。
それでいて、絵の内容には必ずユーモラスなストーリーが描かれていて、動物も人間も関係なく、高尚で麗美な印象の日本画のイメージを覆していく。
絵師という職業人である以上に、満たしきれない生命への愛着と絵心の両方に突き動かされて筆が走っているような感覚。
作風としては伊藤若冲にも似た趣味人としてのこだわりが随所に出ている一方で、暁斎は細密な描写よりも生の諸相に滲む愛くるしさを、雑多さやみっともなさもひっくるめて表現しようとしていた気がする。
そういう点では、「虫一匹見ても実在の歴史人物の姿が浮かび、頭の中でキャラクターが各々勝手に動きだす」とインタビューに答えていた司馬遼太郎のような、情愛の濃やかな人懐っこい絵師像が思い浮かんだ。
嬉しいことに、この「画鬼・暁斎」の作品の多くが国内の美術館に収蔵されている。
若冲や光琳など、戦後多くの国宝級の秀作が海外へ散逸した中で、まとまった数の作品が残っているのは幸運なこと。
今回はミーハーな都内での美術展での巡り合いだったが、今度はしっかりと彼の業績を追ってみたいと思う。