気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

199週目:メルー訪問とConservation Forestryの仕組み

写真をカメラからダウンロードするのをめんどくさがっていたら、2週間も経ってしまった。

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金曜日に休みを取って、ケニア山にほど近いロッジにやってきた。

バックパックとカメラをもって気軽に旅行するか、がっつり仕事道具をもって考え事をすることが多いので、ちゃんとしたConservancyのロッジに行くのはこれが初めて。

ただ、せっかくケニアに住んでいるので、食わず嫌いせずにResidency Priceでコロナ以前なら絶対に予約できない人気ロッジに行ってみよう、と思い立った。

Conservation Internationalなどコミュニティやランドスケープを幅広く保護する取り組みをしているチームと仕事をするなかで、単なる林業やスタートアップとは毛色が違う、環境保護の元祖であるConservancyに興味を持ったというのもある。

Komazaは、あくまでも農家の収入創出が目的であり、商業植林でしかないが、ケニアをはじめとするConservancyは国立公園のような政府のバックアップをほとんど受けることなく、大自然を売りに海外から観光客を呼び込んだり、オーガニック栽培の野菜や食肉を販売したり、カーボンクレジットを売却したり、様々な方法を使って既に大半が失われたアフリカの豊かな自然を保護している。

当然ながら、スタートアップのようなアグレッシブな資金調達はしていない代わりに、植民地時代から連綿と積み重なった取り組みから学べるものが少なくない。

とりわけ、次の運用は勉強になった。

  • ナイロビなど大都市から離れた場所に位置し、国立公園に隣接して、豊かな生態系を誇る。もともとの土地から、コミュニティ連携や近隣の自然公園との接続など、さまざまな工夫を凝らして生態系・社会制度の面でカバーを広げていく。
  • 植民地時代などから英国系ケニア人が土地を保有しており、牧場などとしても活用されてきた場所を拡張していく。典型的なのは、小高い丘の斜面にロッジを配し部屋から大自然が眺望できるようにして、欧米のホテル並みの設備と食事を提供するために住み込みのスタッフを雇う。
  • 一泊数百ドルから数千ドルという価格設定で、私設飛行場やヘリパッドを完備。富裕層や海外旅行の団体客を呼び込む。
  • 電子柵などで地域を囲み、希少な生物(サイやライオン、チーター、ヒョウなど)を密猟者から保護する目的で、数十人ー百人程度のレンジャーを配置し警備にあたる。
  • 希少生物については位置をコミュニティなどと連携して把握し、重点的にモニタリングする。密猟者の通報システムなども、地域密着型で配備。
  • 域内では入場を制限して、密猟者や時には観光客にも厳しい目を光らせつつ、昔から同地を利用してきたコミュニティには職業訓練やライオンなど危害を与えかねない動物への対応の指導などを手厚く行い、共存を支援。
  • 食肉(Conservation Meat)や有機野菜栽培で観光以外の収入源を確保。ほかにも工芸品や皮革製品など、産業づくりで収入を多元化。
  • 使われるエネルギーや水については再生可能エネルギーなどサステナブル化を徹底。
  • 様々な取り組みを一つのストーリーとして、自然・コミュニティ・地域あらゆる点で調和のとれたエコシステム作りを目指す。ハイグレードなConservacncyが地域を超えたプラットフォームに登録され、互いに交流する。

事業を作るというより、社会のありようをデザインしている感がある。

今回訪問したロッジは20世紀初頭にイギリス人入植者が始めたもので、趣味のいい設計と充実したアクティビティで、「ケニアの国内旅行はこんなものだろう」という先入観を打ち砕かれた。

別世界ではあるものの、興味深い体験だった。

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198週目:チームとレビュー

先週・今週とチームメンバーとのレビューが続いている。

スタートアップで仕事をする醍醐味として、身の丈に合わない挑戦ができる、というものがある。

身の丈の合わない挑戦をするから、たくさん失敗をするし、一人で頭を抱えるし、能力のギャップに自覚的になりやすい。

一方で、チームのマネジメントという観点では、個人個人が良い意味で失敗を重ねて試行錯誤する場を確保しつつ、最終的な成功を後押しできるか、が大切になる。

ついこの前までは、自分自身の延長としてチームを見てしまったり(そうすると、常に何で自分の想像した通りに物事が進まないのか苛立ってしまう)、自分にとっては自明の決断ができないと理解できなかったり(考え方は人それぞれだし、ある程度は失敗も許容しなければ、本人が結果からフィードバックを受けられない)など、マネージャーの初歩的なミスばかりしていたので、今回も試されるような気持ちで臨んでいる。

自分という個別具体的な体験と、書籍やコーチング、メンターからの助言といった極めて一般的なツールに頼りつつも、どうにか同じ目線でキャリアや成長について対話ができないか、模索が続いている。

 

仕事そのものは順調で、着々と案件が積み重なり、進捗している。

今年の頭に入社したもと三菱商事のメンバーも、ずば抜けた適応能力と確かなスキルで、どんどん仕事をリードしてくれており、大変心強い。

他のメンバーも自分の持ち場で奮闘しており、引き続き応援役として頑張りつつ、自分自身もしっかりスコープの仕事を果たしていきたい。

年初のOKR設定では、おそらくどれかは失速するだろうと思って定石通りアグレッシブに目標設定したところ、結果的にすべて目標に到達する勢いで、むしろキャパシティに不安がある。

チームの質は申し分ないので、マネージャーとしての力量が問われるし、個別のタスクの消化ではなく仕事の切り回しにセンスが求められる。

引き続き、夏休みモードとは程遠いが、頑張っていきたい。

197週目:転換点

ブログを書いていると、2か月おきに「今こそ転換点だ!」と威勢よく書いている気がするが、実際仕事そのものが目まぐるしく、なおかつチームの火力が強いので、どんどんギアを切り替えていくプレッシャーを感じる。

 

3-6月はリリースが相次いだ。

去年末に仕込んだ案件を一気に形にしていったから、出てきたわけで、調子が良いわけでは決してない。

地道な交渉であったり、仕込みであったりが、ようやく形になったというだけで、案件が表に出た時というのは、浮かれている場合ではなく、次の仕込みを始める時期である。

体力的にも精神的にも辛いのだけれど、この時の踏ん張りが継続的に波に乗れるかを決めていく。

サボったら如実に数か月後が苦しくなるのは、資金調達のような仕事ではよくある話だ(当地の資金調達のタイムラインは9-18か月が一般的なので、ベンチャー調達というよりはプロジェクトファイナンスを延々と回していく形)。

リリースが続々と出て、周りから「順調ですね!」というタイミングで踏ん張ってきたものが、徐々に形になりつつある。

ちょうど夏休みシーズンの入りかけだけに、最後の追い込みをかけたい。

可能性のある話がいくつも並走し、案件と案件が絡み合って、複雑怪奇なスパゲティ状態。

頭痛のタネでもあるが、自分たちのチームでしかできない仕事なのではないか、と前向きにとらえて続けていきたい。

 

今週は紹介で業界の大先輩CFOとZoomする機会があった。

ややこしい話やConfidentialな内容を扱う仕事だけに、同業の人にアドバイスをもらう機会はほとんどない。

目の前の仕事や自分の役割だけを考えても頭がいっぱいになるので、踏み込んだ相談をする意味は大きかった。

忙しい仕事の合間にお時間を頂き、感謝感謝。

 

事業・起業家の成長と自分の能力の差分を定期的に見極めないと、あっという間に裸の王様になってしまうという危機感がある。

フェローというペーペーで入社した時からレビューのたびに「事業の成長が自分の成長を超えたらすぐに辞表を出す。自分でも注意するが、気づかなかったら教えてくれ」とCEOには伝えてきた。

企業の成長フェーズと自分の変化が追い付いているか、さらには業界の変化に対して自分が対応できているか、変化した先の未来でも今と同じ以上の貢献が事業に対してできるのか、突き詰めて考えていると昨今のアフリカベンチャー熱には考えさせられる。

分からない世界で必死に戦い続け、最後は結果で進退が決まる、というのは面がアフリカのスタートアップにはつねに付きまとう。

韓非子の冒頭にある「大王その罪を裁せよ」ではないけれど、執念とある種の諦念を同時に持たなければ続けられない。

 

そんな危機感を持ちながら、大先輩に思い切った質問をぶつけて、見えてくるものが多かった。

今更ながら、目の前の仕事に向かう心構えを確認できた気がする。

引き続き、大変なのだけれどあきらめないで頑張りたい。

When Vision Fails 

インパクト投資やClimate Finance、アフリカベンチャーなど、未来志向な業界で仕事をしていると、ありとあらゆるビジョンに触れる機会がある。

起業家を支援したいという投資家もいれば、社会の理不尽を是正したいという起業家もいる。

志を持つのは、変化の第一歩として大切のは間違いない。

一方で、志を結果につなげるまでの道のりは遠い。

自戒の意味も込めて、「ビジョンが失敗に終わる瞬間」について書いてみたい。

  1. 想いに実行力がついて行かない:願いが正しくても、実行するための能力やチーム、リソースが足りていないと、ビジョンはかなえられない。一方、想いだけで人を説得できてしまう分、周りはどんどん共感して応援してくれるんだけれど、肝心の課題解決が進まずに空回りしてしまう。想いは出発点でしかなく、結果ではない。
  2. 独善化してしまう:「~のために」という目的で仕事をするのは尊い動機かもしれないが、「~」に当たる受益者やパートナーが本当に求めているものが何なのか、さらには、もしかして自分が受益者のためにならないどころか、マイナスになってはいないか、という危機感を失うと、厳しい。独善化はいったん始まると、かたくなになっていき、最後には「どうしてわかってもらえないんだ!」という自己憐憫に陥る。
  3. ビジョンが更新されない:ビジョンは創業の動機や感動的な創業秘話とは別物である。事業に取り組む中で見えてくるディテールやニュアンスが次第に組み込まれ、大枠では一貫していても、定期的に見直され更新されていくべきだ。最終的には、ビジョンから日々のオペレーションまでが抽象から具体へとつながっていくのが、インパクトを成果とする事業の理想形である(ロジックモデルとかTheory of Changeとも呼ばれる)。創業当初からビジョンの具体性が変わらないのは、あてずっぽうのまま進んでいるリスクをはらんでいる。
  4. 気持ちを切り離すことができない:インパクトを目的とする仕事をする人は、心の中からやりたいと思って仕事をしている割合が、一般的なビジネスや公共セクターよりも大きい。だからこそ、自分の私的な経験や価値観に基づいた押し付けをしてしまう危険を常にはらんでいる。誰もが自分なりの経験や判断軸を持っているのは当然としても、難しい状況や精神的に緊迫した状況で、単なる自分のわがままやこだわりが、相手に無用な迷惑をかけていないか、意思決定をゆがめていないかを常に確認する必要がある。開発の世界では常々ドナーと受益者の関係で研究されてきたテーマであり、パワープレーができる立場の人ほど、無意識の強要に注意が必要である。
  5. 続けることができない:継続力とか根性とか、そういう話ではない。現実問題として、自分の身の丈を超えた課題に挑み続け、なおかつ流行りのベンチャーのような注目を浴びることもIPOで大金持ちになることも難しい領域において、一つのプロジェクトに取り組み続けるには持続可能な仕組みが必要不可欠である。物心両面において、無理をしすぎないように何とかバランスを取らないと、気持ちだけでは難しい局面が出てきてしまう。
  6. 自分のためと相手のためのバランスを失う:SDGsやESGが声高に叫ばれる時代に合って、自分のためだけに仕事をしていると言い切る人は減ってきているかもしれない。同時に、自分のためだけに仕事をしている人があまりいないように、他者のためだけに仕事をしている人もおそらくあまりいない。受益者のためを思って身を粉にしていても、努力を続けられるのはあくまで自分が満足を覚えるからであり、ソーシャルベンチャーであっても相手と自分ふたつの主体に同時に仕えている。このバランスが崩れると、相手を無視した独善的な施策が生まれたり、家族やメンタルヘルスといった自分側の状況が悪化したりしてしまう。理想のバランスを定義するのは難しくとも、バランスを崩さない注意が必要だ。
  7. 変化が止まる:社会課題に向き合うベンチャーには、革新性と一貫性という相反する性質が求められる。これまで停滞していた課題を打破するには革新性が不可欠であり、事業が立上げフェーズを超えても、領域を広げたり効率を高め続けるために自己変革を迫られる。同時に、社会に対する向き合い方や原点と言える価値観については、思想からオフィスのデザイン、チームの採用、日々のコミュニケーションにいたるまで一貫性が期待される。

196週目:Dancing the Dance

長い年月をかけてきた人間関係やらプロジェクトやらが、思いついたように動き出して、Good Surpriseでカレンダーが埋まった週だった。

苦しい時期を一緒に戦った投資家が出張できていたり、一年以上ぶりの投資家面談が入ったりするなど、何かと慌ただしい。

予定を立てて着実に実行するのも大切だが、踊らされるがままに踊り切ることが意味を持つ時期がある。

自分は不器用なので、しびれを切らしてしまいがちだったが、今回は体力と能力をストレッチさせて何とか全部やりくりしたい。

ご縁がご縁を呼び、新しい挑戦が出てくるプロセスを、計画外として切り捨てず、おおらかに受け止めて形にしていく。

主体性はあまりないかもしれないが、自分の想像力の外に出る成果を生むチャンスととらえて乗り切りたい。

 

蒲柳の質なので、体力だけは持たせたい。

前職でかろうじて完走したマラソン復帰を目指して、ガーミンの腕時計でトレーニングを再開した。

食生活もデリバリーから野菜と肉中心の自炊に切り替えて、絞っていく。

仕事が長距離走のようなものなので、粘りに粘っていこう。