気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

159-160週目:農林業における財務戦略の役割

「どんな仕事やってるの?」と家族やら同期やらいろんな人から聞かれる。
スタートアップの財務・戦略と答えることが多かったものの、最近自分がやっているのは事業の経済性を高めることなんだと思うようになった。

 

林業は、プランテーションのように大規模土地所有を前提として、さらに加工設備からロジスティクスまで膨大な資金が必要な産業だ。
アイデアがスゴイ会社であっても、先行投資が必要で回収までに10年以上かかる、一般的な長期投資よりもさらにハードルが高い事業構造で、どんなにテクノロジーが進化しても木の成長スピードが変わらないので、資金的にかなりきつい。
時間が解決すると言っても、ベンチャー投資家が普通待てるのはせいぜい5年から7年くらいのもので、このJカーブの深さと長さがこの業界の重しになっている。

アフリカ林業投資の過去30年くらいを振り返ると、いろんな人が挑んでは途中で投げ出して、また他の人が始める繰り返しといっても過言ではない。
とにかく10年生き残れば見える世界があるはずなのにそこまで会社や経営者が持たない。

(農業系スタートアップはサイクルは短いものの、作物の生育や干ばつ、日々のロジなど、リスク管理面で違ったチャレンジがある)

 

この状況を変えるには財務的なアプローチがオペレーションと同じくらい大切だ。
事業のモデルをよりキャッシュフロー重視で組み直していくこと。
そして、証券化やカーボンクレジットなどのツールを使って資金のリサイクル効率を上げること。
そうした取り組みの先に、エクイティファイナンスをつけれるだけの将来性、優位性、特異性が生まれてくる。

 

青臭い理想を語るなら、オペレーション上の成功だけでビジネスはドライブされるべきだし、投資家はリスクマネーを出すべきだ。
ただ、どんなビジョンが大きく正しくても、情報は非対称だし、人はリスクを避けたがる。
そうした谷間を埋めるのが自分の役割なのではないか、そう今になって思っている。

不動産にしても企業投資にしてもインフラにしても、特定の経済活動・資産を投資対象にするためには、エンジニアリングが行われてきた。

レバレッジだったり、規制を含む環境整備だったり、政府による介入だったり、ストラクチャー開発だったり、様々な最適化を財務面からして初めて新しいアセットクラスは誕生する。

世界の森林投資AUMの1%に満たないアフリカ林業をMainstreamingするには、これまで投資が盛んではなかった事業で障害になってたリスクやキャッシュ特性を一つ一つ解決していくことが求められる。


色々なタグ付けはできるのだろうけれど、今の仕事を突き詰めれば、Jカーブを浅く、短くすることで、事業価値を最大化し、そのために最適なリスク資金を集めること。これに尽きる。

158週目:仕事の転換点

色々と行き詰っていた一週間。

ベンチャーにおけるプロジェクトの性質は作っては手放し、作っては手放し、でありとりわけ戦略系の案件をプロジェクトベースで扱うと、日常のオペレーションという枠組みがほとんど存在しない中で、リソースを機動的に配分してプロジェクト間の調整をする必要がある。

7月のシリーズBを経て、いくつか走らせていたプロジェクトの前半戦が本格化して、個別案件にまとまった作業が見えてくるタイミングに差し掛かっている。

各案件でぎりぎりまで僕個人で進めて最終的なスコープを見定め、そこから今度はチームに落としていくプロセスの切り換え地点にいることもあって、個別案件だけで充分忙しい上に、チーム全体のリソース配分と採用まで見なければならず、ボールをあちこちで落としてしまう。

幸運なことに、業界の名プレーヤーを採用できそうなので、チームの設計については気持ちが安定してきた。

年内にそれぞれの案件で明確なマイルストーンが見えて、実行の体制が整うことが最重要であり、個別のタスクでじれったいものやさっさと片付けたい気持ちをぐっとこらえて、チーム全体のマネジメントに注力していきたい。

 

3週間ほど週末もぶっ通しで働いていたので、今週は燃え尽きないように休息をとる。

週末はKeppleという日本発のアフリカVCの山脇さんとランチをする。

商社の市場を俯瞰的に見つつも泥臭く足で情報を稼いでいく基本姿勢そのままの業界観が大変勉強になった。

去年までは資金調達そのものに追われていたのだけれど、これからは事業そのものの未来を考えるフェーズであり、どんどん色々な人と話をして見識を広めていきたい。

このブログでも、経営上の論点や感じたことなど、思考の整理として書き続けていく。

 

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同居人がネコを拾ってきた。生後数週間の子ネコで、キュン死している。

事業における身体性

卓越した投資家・経営者と優れた投資家・経営者の違いは何か、という問いをこの15年くらい考えている。

事業を理解して、適切な判断を下していくためには、日常生活においいても常に事業とつなげて考える必要がある。

経営者や投資家の自伝などで、ふとしたきっかけで大きな意思決定をしたりするのは、ふとした瞬間を含む長い時間を意識のどこかで仕事に向けているからに違いない。

経験豊かだったり、知能が高いだったりする以上の「何か」として、「事業の身体化」という要素があるのではないか。

今回のブログでは、事業の身体化あるいは身体性について書いてみたい。

 

身体性を持つとはどういうことか

事業への身体性を持つとは、会社の経営に関するあらゆることに関心を持ち、神経をとがらせている状態のこと。同時に、自分の体を動かすように、会社の状況を把握して自在に変化を起こすこと。言うは易く行うは難しで、何が起こっているのかを自分の物理的な視界や組織的な関係性を超えて知覚し、反応するというのは、難易度が極めて高い。野球選手がバットを身体の延長と呼んだり、自動車の運転になれると空間感覚が延長されるなどといったことよりもはるかに複雑だ。

 

事業に対する感覚が研ぎ澄まされるほど、事業を動かす自由度が上がるほど、判断のスピードは速く正確になる。理想的には、新しいアイデアを聞いたその場で起こりうる反応の連鎖を想像し、意思決定ができるようになる。こうした身体的・直感的なプロセスは、筋の良し悪しを見立てる能力でもある。経験と知識、意識的なトレーニングで身に着けられる後天的な能力で、業界歴の長いプロがパッと見て答えを出すのも、本人の専門性が単なる知識よりも深い身体的な理解を獲得している結果といえる。

 

不確定要素が多い状況下でBetterな意思決定を支える

身体性を持つテーマにおいては、短期間で精度の高い結論が出せ、かつ不確定性が高いスタートアップのような環境では、全体像や落としどころが見えない中でBetterな選択ができる。ポジションが上がり、ハンズオン出来る領域が減るにつれ、実際に手を動かしている人を信頼して仕事を任せる必要が増えてきて、CEOなどになってしまえば、実務はほぼ全役員に任せるのが基本になってしまう。現場への接点も、日々のコミュニケーションも、あらゆるインプットが減った中で、マネジメントの正確性を上げつつ、めんどくさいマイクロマネジャーにならないために、事業に対して身体的な感覚、筋の良し悪しを見極める直観力を維持・向上し続けなければならない。そのために、受け身ではない情報収集を社内外で行ってデータや経験値を高め、同時に意識的に事業の輪郭線を定義して、判断基準を作り上げる必要がある。また、身体感覚は想像力の一種であるから、自分のポジションに関わらずに延長することもできる。早いスピードで成長する人は、この辺の機微の勘が良く、自分の現状ポジションよりも高い視座の感覚を先回りして身に着けて、「こいつは分かっているな」といわれる。

 

身体性がドグマ化するとき

優れた経営者、投資家、専門家などはこの身体感覚が極めて鋭敏で、とりわけ、自分のコントロールの範囲内外の輪郭線への理解がはっきりしていることが多い。日々迫られて判断を下し、その首尾を観察しているから、のるかそるかのギリギリの線が分かっているし、時として言語化もされている。一方で、身体性を使った即断即決の意思決定は、思考のプロセスを省略しているので、自分の思い込みが介在する余地が大きく、自分で気を付けていないと思考のクセが組織に投影されて、ある種の脅迫観念になってしまったり、思考の短所が組織の短所になったりする。数年ならまだしも数十年単位で一つの会社を経営している名物社長がワンマンと呼ばれるのは、この省略が周囲に見えづらく、かつ成功体験を通して身体性が高まった結果、ある種のドグマ的になっているのかもしれない。ドグマは成功法則として機能している限りは強みになるが、ゲームのルールが変わったり、組織のフェーズが変わったタイミングで見直さなければ、逆回転を始める。

 

身体性の延長と過剰反応

判断の質への影響もさることながら、事業への身体性が高まりすぎると、今度は事業に対してぶつかってくる壁が、あたかも自分個人に向けられているように感じられる。経営者が孤独だと言ったり、退職する社員に裏切られたように感じるのは、事業が単なる仕事を超えた自分自身の身体の延長になっているからにほかならない。事業を身体化するということは、個人の生活を事業が侵食するということにもなりかねない。そこで、いわゆる鈍感力が求められ、意識的に身体性を遮断するスキルが求められるようになる。身体性があるが故の過剰反応は、周囲には奇異に映り、判断そのものも感情的になりがちで、こうなると論理的思考を省略して正解を導くために事業の身体化をしていたはずが、非論理的な感情論になってしまい本末転倒になる。

 

身体性を意識的にコントロールできるか

経営者がよく口にする孤独感または「すべては分かってもらえない」というコメントについて考える中で、このブログを書こうと思った。

立場が違うから視座が違うだけだと長年思っていたのだけれど、実は視座という質的なズレに限らず、コミットメントや熱量といった量的なズレがあるのではないか、と感じている。

仕事を身体の延長(または人生そのもの)としている経営者からすれば、仕事はこの上ない切迫感を持つ。一方で、一般の社員からすれば、5時の終鈴と同時に仕事は自分からは切り離される身体外の存在だ。

仕事・事業の身体性をコントロールしていかない限り、長期で挑戦を続けるのは難しくなる。また、一般社員と経営者の必然的な熱量差が、互いへの不信感を生んでしまっては事業成長も望めない。

経営者も延々に仕事だけを考えてしまっていると燃え尽きてしまうので、量をコントロールしつつ、質を担保できないか。

どうすれば身体の延長でありながら、精神の外部に事業を置けるのか、このあたりは面白いテーマになる。

何となく感覚的に認識している内容を言語化してみたが、もう少し深堀りできそう。

157週目:インプットの週

週の始まりまでKilifiで過ごし、チームとの面談をして火曜日にナイロビに戻ってくる。

オンラインでの仕事、決してできないわけではないのだけれど、非言語のコミュニケーション含め、1-on-1の質は対面の方が圧倒的に高いのを実感する。

問題解決に限れば音声と文章だけで十分かもしれない。

ただ、マネージャーレベルとの会話では、タスク的な課題解決はまれで、よりソフトなコミュニケーションの相談だったり、大きなフレーム理解だったり、普段であればホワイトボードやメモパッドで伝えられるものが、やたらとめんどくさくなる。

こちら側からの熱量伝達も心もとない。最後は本人に「これならできる」という確信を持ってもらいたいわけであり、そのあたりの工夫はこれからもしていきたいところ。

 

同時並行して、今週は日本や海外の友人やお世話になっていたメンターの方々と立て続けにコールを設定した。

キャッチアップする中で、自分の立ち位置も分かるし、何より相手の方々が考えていることを聞いて議論するのが面白い。

脳みそをサバイバルモードからマネジメントモードに切り替える必要があり、そのためにも違う領域でハードな挑戦をしている人と、互いに議論する場は貴重。

 

ちょうど2週間ほどで、Global Governace Futures Fellowshipというボッシュ財団のフェローシップのカンファレンス(オンライン)があり、そのために気候変動とガバナンス、シナリオ思考周りの課題図書を読み込んでいる。

知り合いの事業について学ぶのも大切なら、世界の大局を高所から論じたアカデミアの領域も同じく大切。

大学時代ならすらっと読みこなせたはずの文章も、どうしても実務家的なツッコミを入れたくなってしまう。

アカデミアと実務は両輪になるべきものなので、頭の筋肉が衰えないようにしたい(すでにアカデミックな専門職の他フェローとの会話、長時間だと脳の体力が持たなくなってきている汗)。

 

新興国スタートアップの財務を通じて学んだこと

Evernoteの整理をしてきたら、今年の3月ごろにコロナ禍の直撃を受けつつ、資金調達のクロージングに悪戦苦闘していた時期のメモが出てきたので、紹介してみたい。
結果的にアフリカの農林業系スタートアップとしては最大規模のSeries Bを調達できたものの、日次でキャッシュを調整しながら、ギリギリの線でプロジェクトを進めていた当時の考えは今振り返っても参考になることが少なくない。
 
「新興国のスタートアップが失敗する15のパターン」で書いたように、新興国スタートアップにはオペレーションから人事に至るまで、さまざまなハードシングスが待っている。
スタートアップという事業形態が一般的ではない新興国において、財務が考え抜くべき究極の指標はCash in the Bank Accountであり、成長に向けた戦略策定も含めて、いかに会社にキャッシュを生めるか、Jカーブを補う資金調達ができるか、を考える必要がある。
狭義にはキャッシュマネジメント、広義には事業戦略を担当しうる、幅の広い役割を財務は担っていて、一般的にはCFOがここまでカバーしたり、CSO・COOが経営企画的にリーダーシップをとったり、CEOがビジョンの延長として考えたり、とチームで能力的に余裕がある人がみているケースが多い印象。
自分自身、まだまだ完成からは程遠く、毎日のように自分の非才に慄然とするのだけれど、書いてみてわかることもあるので、若干ダークな内容も含めてリストにしてみた。
 
  1. 常に複数のオプションを持つ:プロジェクトを多数同時並行で抱えるのは、仕事の常だ。とりわけ、スタートアップにあっては、新しくできる工夫は無限にあり、むしろ自分の職域も含めて作っていくことが求められる。その際に考えるべきは、そのプロジェクトが「アップサイド」なのか、「ダウンサイド」なのかの区別。Upside Takingなプロジェクトは、とにかく長期的に粘りづよくボールを前にけり続ける必要があり、定期的にマイルストーンを作って進捗を促していき、ゴール手前になった時に一気に案件として仕上げていく。コンサル系の調査や、パートナーシップや、ガバナンス系の改善などはこのカテゴリー。一方、Downside Protectionな案件では、失敗=死なので、選択肢の手数を増やし、Decision Treeを作って常にシナリオを見直し、最善手を打ち続ける。常に複数のオプションを持つことは、アップサイドにおいては非線形的な成果を上げるための仕込みとして重要で、ダウンサイドにおいては失敗のリスクを下げ、打ち手の柔軟性や計画の冗長性を高めてくれる。アップサイドとダウンサイドの区別をあえて明確にするのは、すべての論点に複数のオプションを持とうとすると、プロジェクトの数が一気に増えて優先順位がつけにくくなるからだ。アップサイドは忘れない程度、ダウンサイドは毎日確認、そんな感じで進めるのがよいのではないか。
  2. 自分は何も理解していない前提に立つ:社内では信頼に足ると思われるためにも、何を聞かれても即答できるようにしているべき。ただ、それは外向きの話であり、内向きには常に自分の未熟を忘れず、何もわかっていない前提で勉強を続けないといけない。そのためにネットで情報を拾い、専門書を読み、メンターに助言を求める。わかるようになった気にならないことが、時間を経るほど大切になる。
  3. 当てにしない:社内外問わず、あてにしない。他責にしない。結果に責任を負い、できないことは理由を理解して(追及しない)解決する。とてもシンプルなはずなのに、意外とみんな外に理由を求めたがる。
  4. とりあえずチームに投げてみる:仕事にこだわればこだわるほど、考えたいことが増え、自分の実行・影響できる量との乖離が広がっていく。思い切って課題ごと放り投げる勇気も大切。じゃないと一人事務所になってしまう。
  5. 徹底的に言語化、徹底的に管理:アカウンタビリティとか、思考とか、難しいことばかり言っても、できないときはできない。だから、「イマイチわからない」とか「混乱してきた」と感じたら、言語化を依頼する。大体、行き詰っているのは状況認識からして整理できていない。現状が整理できれば、課題が明らかになり、課題が明らかになれば打ち手が見えて、打ち手が見えればアサインと検証、管理ができる。むしろ、表面的に整理されていても打ち手まで見えない時は、それは「整理」ではなくて、片付けの苦手な人が引き出しに机のものを突っ込んで隠すのと同じだ。
  6. 思考量・情報量・行動量で圧倒する:仕事はポジションではなく成果が決めてくれるもの、というのは商社時代の先輩に教わった言葉。相手が専門家であれオペレーションの部門長であれ、思考・情報・行動のいづれかまたは複数で相手よりも上位に立つ。そうすることで、「門外漢」であっても、意味のある提案ができる。その準備を淡々とし続ける。アンテナを常に立てて、瞬発力高く情報収集し、整理し、発信する。そうすることで、仕事上のパワーをEarnすることができる。
  7. 現場との信頼関係に投資する:組織のこと、案件のこと、人事のこと、ゴシップなど話題になっていることなど、「知っていること」は職業上の義務。ただ、これを毎回聞いて回るのは効率が悪いので、現場から自然と情報が回ってくるようにしておく必要がある。まずは相手に案件でも情報でも手土産を持っていくこと、Giveを重ねていくのは会社の成長にもプラスになるし、個人の信頼関係にも資産を生む。
  8. Feared than Loved:仕事上の人間関係は慣れ合いになりがち。相手の考え方も気になりがち。ただ、ファイナンス含め、専門性のある仕事をする以上、最後は腹をくくって正しいと信じる提言を通す必要がでてくる。そのためには、日々仲良くしていること以上に、その領域で十分な準備をし、圧倒的な成果を出し続け、必要とあれば公開の議論で戦うことも辞さない。社内外問わず、リスペクトは生まれるものではなく、勝ち取るもの。
  9. 短期の柔軟性と長期の頑固さ:カオスに対処する際に、短期的な施策についてこだわらない。多少遠回りをしても、周りが動きやすい施策をとる柔軟性を持つ。それでいて、短期の柔軟性が長期のビジョンに反しないよう、長期の目線で軌道修正を頑固にする。ほとんどの人は、短期の施策にこだわっているので、長期のビジョンベースで逆算された軌道修正には意外と反応が良かったりする。もちろん、危機的状況に対処する場合は、一手一手が大切なので、徹底的に管理する。
  10. 経営者からの信頼と戦い:ちゃんと仕事をして信頼を勝ち取ったうえで、きちんと苦言を伝える。職業上の役割を果たす。