気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

事業における身体性

卓越した投資家・経営者と優れた投資家・経営者の違いは何か、という問いをこの15年くらい考えている。

事業を理解して、適切な判断を下していくためには、日常生活においいても常に事業とつなげて考える必要がある。

経営者や投資家の自伝などで、ふとしたきっかけで大きな意思決定をしたりするのは、ふとした瞬間を含む長い時間を意識のどこかで仕事に向けているからに違いない。

経験豊かだったり、知能が高いだったりする以上の「何か」として、「事業の身体化」という要素があるのではないか。

今回のブログでは、事業の身体化あるいは身体性について書いてみたい。

 

身体性を持つとはどういうことか

事業への身体性を持つとは、会社の経営に関するあらゆることに関心を持ち、神経をとがらせている状態のこと。同時に、自分の体を動かすように、会社の状況を把握して自在に変化を起こすこと。言うは易く行うは難しで、何が起こっているのかを自分の物理的な視界や組織的な関係性を超えて知覚し、反応するというのは、難易度が極めて高い。野球選手がバットを身体の延長と呼んだり、自動車の運転になれると空間感覚が延長されるなどといったことよりもはるかに複雑だ。

 

事業に対する感覚が研ぎ澄まされるほど、事業を動かす自由度が上がるほど、判断のスピードは速く正確になる。理想的には、新しいアイデアを聞いたその場で起こりうる反応の連鎖を想像し、意思決定ができるようになる。こうした身体的・直感的なプロセスは、筋の良し悪しを見立てる能力でもある。経験と知識、意識的なトレーニングで身に着けられる後天的な能力で、業界歴の長いプロがパッと見て答えを出すのも、本人の専門性が単なる知識よりも深い身体的な理解を獲得している結果といえる。

 

不確定要素が多い状況下でBetterな意思決定を支える

身体性を持つテーマにおいては、短期間で精度の高い結論が出せ、かつ不確定性が高いスタートアップのような環境では、全体像や落としどころが見えない中でBetterな選択ができる。ポジションが上がり、ハンズオン出来る領域が減るにつれ、実際に手を動かしている人を信頼して仕事を任せる必要が増えてきて、CEOなどになってしまえば、実務はほぼ全役員に任せるのが基本になってしまう。現場への接点も、日々のコミュニケーションも、あらゆるインプットが減った中で、マネジメントの正確性を上げつつ、めんどくさいマイクロマネジャーにならないために、事業に対して身体的な感覚、筋の良し悪しを見極める直観力を維持・向上し続けなければならない。そのために、受け身ではない情報収集を社内外で行ってデータや経験値を高め、同時に意識的に事業の輪郭線を定義して、判断基準を作り上げる必要がある。また、身体感覚は想像力の一種であるから、自分のポジションに関わらずに延長することもできる。早いスピードで成長する人は、この辺の機微の勘が良く、自分の現状ポジションよりも高い視座の感覚を先回りして身に着けて、「こいつは分かっているな」といわれる。

 

身体性がドグマ化するとき

優れた経営者、投資家、専門家などはこの身体感覚が極めて鋭敏で、とりわけ、自分のコントロールの範囲内外の輪郭線への理解がはっきりしていることが多い。日々迫られて判断を下し、その首尾を観察しているから、のるかそるかのギリギリの線が分かっているし、時として言語化もされている。一方で、身体性を使った即断即決の意思決定は、思考のプロセスを省略しているので、自分の思い込みが介在する余地が大きく、自分で気を付けていないと思考のクセが組織に投影されて、ある種の脅迫観念になってしまったり、思考の短所が組織の短所になったりする。数年ならまだしも数十年単位で一つの会社を経営している名物社長がワンマンと呼ばれるのは、この省略が周囲に見えづらく、かつ成功体験を通して身体性が高まった結果、ある種のドグマ的になっているのかもしれない。ドグマは成功法則として機能している限りは強みになるが、ゲームのルールが変わったり、組織のフェーズが変わったタイミングで見直さなければ、逆回転を始める。

 

身体性の延長と過剰反応

判断の質への影響もさることながら、事業への身体性が高まりすぎると、今度は事業に対してぶつかってくる壁が、あたかも自分個人に向けられているように感じられる。経営者が孤独だと言ったり、退職する社員に裏切られたように感じるのは、事業が単なる仕事を超えた自分自身の身体の延長になっているからにほかならない。事業を身体化するということは、個人の生活を事業が侵食するということにもなりかねない。そこで、いわゆる鈍感力が求められ、意識的に身体性を遮断するスキルが求められるようになる。身体性があるが故の過剰反応は、周囲には奇異に映り、判断そのものも感情的になりがちで、こうなると論理的思考を省略して正解を導くために事業の身体化をしていたはずが、非論理的な感情論になってしまい本末転倒になる。

 

身体性を意識的にコントロールできるか

経営者がよく口にする孤独感または「すべては分かってもらえない」というコメントについて考える中で、このブログを書こうと思った。

立場が違うから視座が違うだけだと長年思っていたのだけれど、実は視座という質的なズレに限らず、コミットメントや熱量といった量的なズレがあるのではないか、と感じている。

仕事を身体の延長(または人生そのもの)としている経営者からすれば、仕事はこの上ない切迫感を持つ。一方で、一般の社員からすれば、5時の終鈴と同時に仕事は自分からは切り離される身体外の存在だ。

仕事・事業の身体性をコントロールしていかない限り、長期で挑戦を続けるのは難しくなる。また、一般社員と経営者の必然的な熱量差が、互いへの不信感を生んでしまっては事業成長も望めない。

経営者も延々に仕事だけを考えてしまっていると燃え尽きてしまうので、量をコントロールしつつ、質を担保できないか。

どうすれば身体の延長でありながら、精神の外部に事業を置けるのか、このあたりは面白いテーマになる。

何となく感覚的に認識している内容を言語化してみたが、もう少し深堀りできそう。

157週目:インプットの週

週の始まりまでKilifiで過ごし、チームとの面談をして火曜日にナイロビに戻ってくる。

オンラインでの仕事、決してできないわけではないのだけれど、非言語のコミュニケーション含め、1-on-1の質は対面の方が圧倒的に高いのを実感する。

問題解決に限れば音声と文章だけで十分かもしれない。

ただ、マネージャーレベルとの会話では、タスク的な課題解決はまれで、よりソフトなコミュニケーションの相談だったり、大きなフレーム理解だったり、普段であればホワイトボードやメモパッドで伝えられるものが、やたらとめんどくさくなる。

こちら側からの熱量伝達も心もとない。最後は本人に「これならできる」という確信を持ってもらいたいわけであり、そのあたりの工夫はこれからもしていきたいところ。

 

同時並行して、今週は日本や海外の友人やお世話になっていたメンターの方々と立て続けにコールを設定した。

キャッチアップする中で、自分の立ち位置も分かるし、何より相手の方々が考えていることを聞いて議論するのが面白い。

脳みそをサバイバルモードからマネジメントモードに切り替える必要があり、そのためにも違う領域でハードな挑戦をしている人と、互いに議論する場は貴重。

 

ちょうど2週間ほどで、Global Governace Futures Fellowshipというボッシュ財団のフェローシップのカンファレンス(オンライン)があり、そのために気候変動とガバナンス、シナリオ思考周りの課題図書を読み込んでいる。

知り合いの事業について学ぶのも大切なら、世界の大局を高所から論じたアカデミアの領域も同じく大切。

大学時代ならすらっと読みこなせたはずの文章も、どうしても実務家的なツッコミを入れたくなってしまう。

アカデミアと実務は両輪になるべきものなので、頭の筋肉が衰えないようにしたい(すでにアカデミックな専門職の他フェローとの会話、長時間だと脳の体力が持たなくなってきている汗)。

 

新興国スタートアップの財務を通じて学んだこと

Evernoteの整理をしてきたら、今年の3月ごろにコロナ禍の直撃を受けつつ、資金調達のクロージングに悪戦苦闘していた時期のメモが出てきたので、紹介してみたい。
結果的にアフリカの農林業系スタートアップとしては最大規模のSeries Bを調達できたものの、日次でキャッシュを調整しながら、ギリギリの線でプロジェクトを進めていた当時の考えは今振り返っても参考になることが少なくない。
 
「新興国のスタートアップが失敗する15のパターン」で書いたように、新興国スタートアップにはオペレーションから人事に至るまで、さまざまなハードシングスが待っている。
スタートアップという事業形態が一般的ではない新興国において、財務が考え抜くべき究極の指標はCash in the Bank Accountであり、成長に向けた戦略策定も含めて、いかに会社にキャッシュを生めるか、Jカーブを補う資金調達ができるか、を考える必要がある。
狭義にはキャッシュマネジメント、広義には事業戦略を担当しうる、幅の広い役割を財務は担っていて、一般的にはCFOがここまでカバーしたり、CSO・COOが経営企画的にリーダーシップをとったり、CEOがビジョンの延長として考えたり、とチームで能力的に余裕がある人がみているケースが多い印象。
自分自身、まだまだ完成からは程遠く、毎日のように自分の非才に慄然とするのだけれど、書いてみてわかることもあるので、若干ダークな内容も含めてリストにしてみた。
 
  1. 常に複数のオプションを持つ:プロジェクトを多数同時並行で抱えるのは、仕事の常だ。とりわけ、スタートアップにあっては、新しくできる工夫は無限にあり、むしろ自分の職域も含めて作っていくことが求められる。その際に考えるべきは、そのプロジェクトが「アップサイド」なのか、「ダウンサイド」なのかの区別。Upside Takingなプロジェクトは、とにかく長期的に粘りづよくボールを前にけり続ける必要があり、定期的にマイルストーンを作って進捗を促していき、ゴール手前になった時に一気に案件として仕上げていく。コンサル系の調査や、パートナーシップや、ガバナンス系の改善などはこのカテゴリー。一方、Downside Protectionな案件では、失敗=死なので、選択肢の手数を増やし、Decision Treeを作って常にシナリオを見直し、最善手を打ち続ける。常に複数のオプションを持つことは、アップサイドにおいては非線形的な成果を上げるための仕込みとして重要で、ダウンサイドにおいては失敗のリスクを下げ、打ち手の柔軟性や計画の冗長性を高めてくれる。アップサイドとダウンサイドの区別をあえて明確にするのは、すべての論点に複数のオプションを持とうとすると、プロジェクトの数が一気に増えて優先順位がつけにくくなるからだ。アップサイドは忘れない程度、ダウンサイドは毎日確認、そんな感じで進めるのがよいのではないか。
  2. 自分は何も理解していない前提に立つ:社内では信頼に足ると思われるためにも、何を聞かれても即答できるようにしているべき。ただ、それは外向きの話であり、内向きには常に自分の未熟を忘れず、何もわかっていない前提で勉強を続けないといけない。そのためにネットで情報を拾い、専門書を読み、メンターに助言を求める。わかるようになった気にならないことが、時間を経るほど大切になる。
  3. 当てにしない:社内外問わず、あてにしない。他責にしない。結果に責任を負い、できないことは理由を理解して(追及しない)解決する。とてもシンプルなはずなのに、意外とみんな外に理由を求めたがる。
  4. とりあえずチームに投げてみる:仕事にこだわればこだわるほど、考えたいことが増え、自分の実行・影響できる量との乖離が広がっていく。思い切って課題ごと放り投げる勇気も大切。じゃないと一人事務所になってしまう。
  5. 徹底的に言語化、徹底的に管理:アカウンタビリティとか、思考とか、難しいことばかり言っても、できないときはできない。だから、「イマイチわからない」とか「混乱してきた」と感じたら、言語化を依頼する。大体、行き詰っているのは状況認識からして整理できていない。現状が整理できれば、課題が明らかになり、課題が明らかになれば打ち手が見えて、打ち手が見えればアサインと検証、管理ができる。むしろ、表面的に整理されていても打ち手まで見えない時は、それは「整理」ではなくて、片付けの苦手な人が引き出しに机のものを突っ込んで隠すのと同じだ。
  6. 思考量・情報量・行動量で圧倒する:仕事はポジションではなく成果が決めてくれるもの、というのは商社時代の先輩に教わった言葉。相手が専門家であれオペレーションの部門長であれ、思考・情報・行動のいづれかまたは複数で相手よりも上位に立つ。そうすることで、「門外漢」であっても、意味のある提案ができる。その準備を淡々とし続ける。アンテナを常に立てて、瞬発力高く情報収集し、整理し、発信する。そうすることで、仕事上のパワーをEarnすることができる。
  7. 現場との信頼関係に投資する:組織のこと、案件のこと、人事のこと、ゴシップなど話題になっていることなど、「知っていること」は職業上の義務。ただ、これを毎回聞いて回るのは効率が悪いので、現場から自然と情報が回ってくるようにしておく必要がある。まずは相手に案件でも情報でも手土産を持っていくこと、Giveを重ねていくのは会社の成長にもプラスになるし、個人の信頼関係にも資産を生む。
  8. Feared than Loved:仕事上の人間関係は慣れ合いになりがち。相手の考え方も気になりがち。ただ、ファイナンス含め、専門性のある仕事をする以上、最後は腹をくくって正しいと信じる提言を通す必要がでてくる。そのためには、日々仲良くしていること以上に、その領域で十分な準備をし、圧倒的な成果を出し続け、必要とあれば公開の議論で戦うことも辞さない。社内外問わず、リスペクトは生まれるものではなく、勝ち取るもの。
  9. 短期の柔軟性と長期の頑固さ:カオスに対処する際に、短期的な施策についてこだわらない。多少遠回りをしても、周りが動きやすい施策をとる柔軟性を持つ。それでいて、短期の柔軟性が長期のビジョンに反しないよう、長期の目線で軌道修正を頑固にする。ほとんどの人は、短期の施策にこだわっているので、長期のビジョンベースで逆算された軌道修正には意外と反応が良かったりする。もちろん、危機的状況に対処する場合は、一手一手が大切なので、徹底的に管理する。
  10. 経営者からの信頼と戦い:ちゃんと仕事をして信頼を勝ち取ったうえで、きちんと苦言を伝える。職業上の役割を果たす。

156週目:チームのコンピテンシーとは何か?

ケニアに戻って2週目はKilifiで過ごす。

一時はナイロビに完全移行することになっていたチームもコロナで全員Klifiにとどまっているので、2か月ぶりのFace to Faceでの仕事をする。

資金調達の終盤戦であった2020年は、基本的には猛烈な圧力の下でチーム一丸となって打ち返す毎日だった。

その結果として、生き延びたチームには圧倒的な戦闘力がついている。

ただ、死地を一緒にかいくぐった経験だけでは、プロフェッショナルとしての成長機会、とりわけ自分自身で仕事を作り、実行し、新しいインパクトを現場で出していくことはできない。

そのためにチームのコア・コンピテンシーを作っている。

業務の根幹となる知識やスキルを多少の単純化を恐れずに、レベル別に定義し、個別にレビューを行う。

ベンチャーとしての全社評価フレームワーク以上に密度が高く、具体性があり、日々の共通言語として使えるツールにしたい。

実のところ、書いている僕本人が一番勉強になる。

そして、書いている本人以上のコンピテンシーが定義できないという恐ろしさに震える。

あえて、定義のプロセスを公開して、ひとつひとつ説明しつつ、議論していくのが思いのほか反応が良かったので、滞在を延期した。

個人としてプレーするのも楽しいし、アドレナリンがガンガン出る修羅場も悪くないんだけれど、それで残るものはあまりない。

生き延びるための施策は下、チームを育て人を残すことこそ上策。

 

追記:

キリフィに来るたび、深夜に海辺に出て坐禅をしている。

海風に当たりながら月明かりに照らされるインド洋を眺めると、色々な感情が去来する。

教科書的には自然の中で自分を溶け込ませるべきなのだけれど、俗世間の煩悩にまみれた自分は、海でキラキラ光る漁師の懐中電灯が気になる。

やれファイナンスだの経営だのインパクトだの大上段でえらそうにしている自分とは、おそらく対照的な生活があり、そこにどこまで自分が繋がれているのか、地に足がついているのか、考えてしまう。

三昧とか悟りとか呼ばれる世界は、大自然の雄大さ以上に、こうした人々の生活の中にあるのではないか。

自意識にのまれやすい仕事だと思っていないと、勘違いしてしまうのを、忘れないようにしたい。

今週は思い付きで書き出した新興国スタートアップの記事が注目を浴びた。

事業や経営やファイナンスについて自分はまだまだ全くわかっていない。自戒。自戒。

 

新興国のスタートアップが失敗する15のパターン

新興国でプレーするなら、まず現地で仕事をしてみることを勧めている。

日本での就職相談やキャリア相談とは違って、ケニアを始めアフリカは環境の変化が激しいし速い。

なので、1万キロ離れた日本にまして日本語で情報が伝わるころには、状況が変わっているというのがほとんどで、ましてそこで日本企業的なゆっくりとしたペースで企画を練っていたのでは、とても歯が立たない。

当地に裸一貫で乗り込んで起業している方々は、本当にすごいと思う。

日本などでの安定した仕事をかなぐり捨てて、泥臭く現場に入って、数年かけてPMFをしていたりするのがザラで、辛抱強く異国の地でビジネスを作っていく姿勢に頭が下がる。

 

さてさて、前置きが長くなった。要は現場に行くと、みんないろんな事業の話をしていて、ゴシップに聞き耳を立てているだけでも勉強になるよね、というのが今回のブログの趣旨。

思い付きでツイートしたら一晩でいいねが50集まって、しかも業界関係者の方も多いので、若干ビビりながらもタイトルの通り、ナイロビのスタートアップ関係者とのゴシップ談によく出てくる失敗パターンを書きだしてみた。

関係者の間では「あ~、それは難しいかもね~」となるものの、意外と避けるのが難しいトラップで、完全に無縁な事業はあまりない気がする。

ただ、リストにして振り返る、自己点検にはいいのではないかと思う。

  1. 先進国でウケるような事業を目指す:飛び込むにあたって仮説はあったほうがいい。ただ、国際機関のレポートを鵜呑みにしたり、開発界隈のカンファレンスでウケの良いバズワードに引きずられて事業をすると、高確率でうまくいかない。現場で何かできない障害があるから、国際機関のような非営利組織がかかわるようになっている、と疑ってかかったほうがいい。あとアフリカの人口のXパーセントはとかも、先進国のように消費者や市場がつながっていないので、あまり意味のない統計だったりする。仮説をもって飛び込むのはいいことだけれど、先進国目線の仮説設定がそのまま課題設定になるとは思わないほうが良い。フィードバックはマーケットから得るべきであり、出身地で応援されることをフィードバックと勘違いしてはいけない。
  2. 原体験重視のため目の前の質を追求してスケールできない:スケールする必要は特にないので、地域密着型の手厚いプログラムというのもアリだと思う。一方、投資家に向けて語っていた原体験がだんだん自己暗示になって事業そのものが向かっている課題の多様性を見逃したり、目の前の質にこだわって自分が直接コントロールしないといけないチーム構成になったりすると、伸ばすのが難しい。当たり前のようで、結構よく見る落とし穴だ。
  3. 同質のチームで立ち上げて自然消滅する:仲良しグループでつるんでスタートするプロジェクトは刺激的だし、一体感もある。ただ、熱しやすくて冷めやすいという面もあり、また最終的にスケールしていく中で誰がリーダーになるのかでも揉めたりする。血みどろの争いになることはまれで、むしろだんだん仕事が大変になってくるにしたがって、ひとり、またひとりと抜けていったりする。誰もが知っている起業家と話したら、実は共同創業者が4人いた、とかはよく聞く。役割分担をいきなり決めるのは難しくても、意図的に多様性を高めて専門別に振り分けができると理想的。
  4. エコノミクスが回らない:アフリカはじめ新興国はとにかく何をするにも手間がかかり、時間がかかる。なので、たとえユニットエコノミクスが回っていても、進捗が遅れる確率が高く、キャッシュには余裕が必要。ぎりぎりのグロースストーリーは資金調達には必要かもしれないが、きちんと第二のストーリーをもっておく必要がある。前にも書いた気がするけれど、テクノロジーに依拠しない。
  5. アクセルのメリハリがなく、中くらいのまま:NGOにするかビジネスにするか、はケニアのみならずアフリカ起業あるあるな質問。小さい規模で仮説検証したり、目の前でコントロールできる範囲内で質の高い事業をするためなら、営利・非営利はあまり関係がなかったりする。一方で、成長するとなると、チームに投資する必要があり、まとまった資金が必要になるので、会社にしていくことになる。会社にしてからも、ローカルでうまく小事業を立ち上げて回してポートフォリオにするのか、一本柱を立てて多国展開を視野に入れるのかで、先行投資の規模もグレードも変わってくる。たまに目にするのが、本人は大きなビジョンを語っているのに、目の前のコントロールに気をとられてチームや設備への投資に向かって舵をきれないパターン。本人の期待や器以上の事業をやる必要もないが、圧倒的スケールを語っているからには、ある程度先行してリスクをとる必要がある。
  6. 次のレベルの相手と話ができない:資金調達に限らず、急成長するベンチャー経営陣は常に今の組織に見合った能力だけではなく、次のフェーズに見合った能力を身に着けている必要がある。採用であれば、小さなビジネスでしかない時に、グロースフェーズに足る人材を口説かないといけないし、資金調達であればインパクト投資家やドナーよりも難易度の高い投資家に話を持ち込まないといけない、営業であれば今のキャパシティを超えた投資を可能にする顧客にぶつからないといけない。事業のレベルはそこに集まる人のレベルによって制約され、とりわけ最初から最後まで会社とともにいるファウンダーチームの成長は線形的ではなく、段階的、非線形的である必要がある。大前研一の場所を変えるか、付き合う相手を変えるか、時間配分を変えるか、でいえば、時間配分と付き合う相手が変えられるように、自分を変えていくべき。
  7. 高度・複雑すぎる:先進国は時間を失わないため、競合に先んじるため、スピード重視で同時進行で様々なプロジェクトを走らせているのが普通かもしれない。ただ、先進国のノリでの成長は、人材確保の点でも、不確定要素の多さでも、ほぼ不可能に近い。ハンズオンするためには現場の近くにいないといけないが、経営リソースを拡張して振り分けるには先進国にもう片足を突っ込まないといけない。そんな環境で、すべてのピースが時間通りにそろわないと起動しないビジネスというのはリスクが高い。事業環境として、いろんなところで障壁があり、当たり前を当たり前にするためのインフラ作りがしょっちゅう必要なアフリカのビジネスで、必要な開発を最小限にしていく努力は、ROIが高い。アーリーとグロースのはざまで、厳しい選択を迫られることも少なくない。
  8. ロジを見過ごす:何度も書いている気がするが、アフリカはあらゆる当たり前が当たり前ではない。マーケットに出せばユーザーが集まることもないし、プログラマーがうろうろしているわけでもないし、支払いの決済が安定しているわけでも、そもそも預金の通貨も安定してはいない。だからこそ、先進国の「これはイケる」という感覚に、いったん立ち止まって「本当にロジは回るだろうか?」と冷めた目を向けてみる必要がある。
  9. 「マーケット」を作らないとアクセスできない:製品が良くてマーケットの感触が良いために、事業が一気に拡大する、いわゆるPMFの瞬間は、先進国のように急激には訪れない。なぜなら、製品を載せるプラットフォームがなかったり、確立されたサービスの拡大チャネルがないから。先進国にいると、誰かが営業して開拓したセクターの一部に乗っていることがほとんどだけれど、新しい領域を新しい地域にパイオニアとして広げるスタートアップは、時としてそうした巨人の肩に乗ることができず、市場開拓というか市場・業界作りそのものにリソースを割かねばならない。
  10. 課題が見えなくなる:スタートアップにもつきものの、課題意識の喪失。スケールしたり、技術開発したり、資金調達したり、事業が軌道に乗ると一気にやることが増える。そうすると、全員が目の前の目標に走っていて、全体を貫くテーマや課題意識が見えなくなるということがある。常にだれかが見ているというのはスタートアップの性格上難しいので、きちんと節目を作って正しい課題に、正しい優先順位で取り組んでいるのかを定期的にレビューする必要がある。
  11. 政府やステークホルダーからの妨害に遭う:笑えないけど結構ある。Disruptされるのは誰もが嫌なので、儲かっている事業や領域こそ、きちんと政府やステークホルダーを味方につける必要がある。大きなアナウンスをするときは政府関係者を招いたり、花を持たせてあげる。規制や法律だけではなく、人をインターフェイスとした介入に備える。むやみに宣伝しない。国内でそれなりに規模のあるNGOなどがボードやGovernment Relationsに起用しているのがどんな人材か見極めて、模倣する。
  12. ローカルマネジメントとの関係性が悪化:この記事は外国人がアフリカで起業する前提で書いているので、やはり触れておく必要がありそう。現地に根差した事業を作るために、パートナーを探すのは急務。国によってはBoardへのローカル人材の採用を求めていたりするので、実際に仕事上必要かどうかは別としても、ローカルで信頼できるマネジメントチームなりステークホルダーの母集団形成ができるかは、中長期で事業のアキレス腱になる。ミスると訴訟になったり、創業した会社のコントロールを失ったりする。
  13. ガバナンスの崩壊:言うまでもないですが、賄賂や不正などのリスクはあちこちにあるので、大規模なやらかしがあったり、隠蔽されたり、投資家の信頼を失う状況になると店をたたむことになる。とくに、投資家のLPに財団や開発銀行など公共性の高い資金が入っていると、政府の汚職などは一発アウト。多少のトラブルは仕方がないので、そのあたりはきちんとレポートする。
  14. Rule of LawなのかEnforcementなのか:当地にいる人はもはや読み流してほしい、違法だからと言って抑止されているわけではない、というありふれた事実。外国人はただでさえも立場が危ういので、自社でリーガルリスクがありそうな場合は当然顧問弁護士に意見を求める必要があるが、法律が自社を守ってくれると考えるのは危険。たとえ法律があっても、行政機関が黙殺することもあれば、下手したらステークホルダーがグルになって利権をかこっていたりする。法律をバックストップにすると、底が抜ける。
  15. 先進国と似た課題を同じテクノロジーで解決する:スタートアップには必ずと言っていいほどストーリーがあり、解決しようとするペインがある。ただ、数歩下がってみると、中長期的に苦しいケースが多いのが、先進国モデルの輸入である。ひとえに先進国モデルといっても、基礎インフラや生活上のペインは先進国でもコモディティ化している普遍的なサービス・商品であることが多い。コモディティ化されたペインは事業価値をつけやすい。一方、Uberのようなモビリティ、その他世界で見て最先端のテクノロジーを扱う場として、新興国を選ぶのは、ROIの原理原則を考えた上にすべきだ。というのも、技術の先端性を競うのであれば、基本的に投下できる資金量が多いことが(規制がないなど一部のリープフロッグ環境を除けば)勝利のドライバーになる。であるならば、同じ顧客の同じ量のペインを解決したとして、顧客あたりのLife Time Valueが高いのはほぼ間違いなく先進国であり、新興国ではない。(いうまでもなく、顧客あたりLTVが高いということは、中国のようなマーケットを除けば、TAMが大きく、バリュエーションもつきやすく、資金調達もしやすく、事業拡大もしやすい)とすると、同じ組織を作って同じオペレーションを回して同じだけのサービスを提供して得られる収入、すなわち投下可能資金は先進国の方が構造的に常に高くなる。しかも、先述の通り先進国と同じレベルのスタートアップを新興国で作るのは並大抵ではない。したがって、ドローンやフィンテックのように実証実験のハードルの低さなどを理由にしない限り、先進国のスタートアップとガチンコ勝負するのは、分が悪い。最終的に先進国のメガベンチャーに売却するのが目的でない限り、とりわけアフリカはインプット(資金、人材、LTV)とアウトプット(質の担保、オペレーションのハードルなど)の両面で厳しいのではないか。これは完全なる僕個人の仮説なので、賛否両論コメント大歓迎です。

深い深い自戒を込めて。また新しいパターンにであったら、追記します。