気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

149-151週目:Convictionを生み出す過程

自分は今、転換点いるという感覚がぼんやりと続いている。
Series Bのクロージングを終えて、2週間休暇を取った。

自主隔離で外に出られないのもあって、いままでにないくらい空白の時間を過ごした。
本を読んだり、NHKのプロフェッショナルを観たり、映画を流したり、いつもは気ぜわしく食事するだけの家族とゆったり話したり、無為な時間が流れている。
休暇に入った時の自分は、完全に燃え尽きていて、何をしても頭が動かず、簡単な意思決定さえおぼつかず、意欲と実行力の両面で泉が枯れてしまったような感覚があった。


たとえ、元気とやる気を完璧にチャージしたとしても、また仕事に戻った時に自分がPrepared for the jobであるという実感が湧かない、いわばConvicationがない感じ。
Convictionがないというのは、不確実な中で仕事をするスタートアップにおいては、命取りになりかねない。

頭と体を休めながら、同じく長い期間頭と体を酷使する将棋のプロ棋士の本などを読みながら、どうすれば数年ではなく数十年単位で成果を上げていけるのか、考えていた。

いつもだったら、温泉宿でパーッと気晴らしをするところ、それができない分今回は内省で解決せざるを得ず、独り言の延長のようなブログで今考えていることを書いてみる。

 
Series B、アフリカのスタートアップでの仕事
スタートラインに立つことができた、というのが正直な実感。
業界で最大規模だとか、色々な「初」が達成されたとか、言い出せばキリがないのだけれど、当事者の自分でさえも「のるかそるか」不安になりながら、戦い抜いて良い結果につながった経験そのものが、これまでは「自分には何もできないのではないか?職業人として何か価値を出したことがあるのか?」と自問し続けてきた人生にかけがえのない節目を残してくれた気がする。
ここに至る過程で何回か地獄の釜が開いたこともあって、その度に職業人としてストレッチされるばかりではなく、自分自身の未熟な世界観・人生観を矯正させられた。
窮地で決断を迫られ続けるなかで、「人間とは?人生とは?自分とは?」という問いが何度も頭をよぎって、今も消化しきれていない。
仕事は、自分自身と世界の合わせ鏡のようなもので、あり姿を鮮明に映し出すこともあれば、むしろ無限に反射し続ける自分の姿に飲み込まれそうになることもあるのかもしれない。

日本に帰ってきて、前回一時帰国した半年前の自分の生活圏にいきなり戻ると、今と当時の世界観の変化に驚く。

前は気にならなかったことが気になったり、違う考えを抱いたりする。

目の前の風景や人々はそんなに変わっていないはずなのに、受け取り手の自分が戸惑って初めて、自分が以前とは違う人間になっていることに気づかされる。


解像度が上がる
仕事で大切なことは、アイデアを考えた時に、頭の中であるべき姿、実現に至るプロセス、その過程における主要ステークホルダーの動きが、動画的にイメージ出来ることだと常々意識している。
慣れてくると、「これはイケる」とか「なんか気持ち悪い」とか直感として筋道がわかってくる。


余談だけれど、京セラ創業者の稲盛和夫氏は、セラミックの完成品の色合いが「思い描いていたものと違う!」といって、さらに改善したりしていたらしい。最近何となくわかる気がする。
将棋やチェスのプレーヤーが、若いときは定跡の研究に基づいた知識・思考の勝負、成熟期は経験に基づく大局観で勝負するように、思考のショートカットができると、より多くの案件を同時進行で進めることができるようになる。
今回の資金調達をはじめとする一連の取り組みは、複雑怪奇かつ思いがけない相関もあったりして、自分の想像力の幅が一気に広がった。
同時に、自分の他者に対する期待値と実際のギャップや、思考・行動のクセも見えてきた気がする。
仕事の日誌をつけてログは残しているので、判断の良悪ふくめ、じっくり数年かけて検証していきたい。

 

Learn to Manage, Learn to Change

ユニクロの柳井さんの愛読書、ハロルド・ジェニーンの「プロフェッショナルマネジャー」の冒頭に、たしか”Managers need to manage."という言葉があった。

プロフェッショナル業的な仕事とスタートアップ的ななんでも屋さんと両にらみで仕事をしてきて、これからはなんでも屋さんxチームで成果を上げないといけなくなってきている。

3年かけた仕込みがついにスケール感のある案件として実現しつつあるわけで、ここを淡々と形にしていく安定感が求められるのではないか、と秋から取り組むプロジェクトのタイムラインを見て直感した。

そこにきて、”Managers need to manage"という言葉が凄みを持ってくる。

難しいことも、相手次第のことも、色々あるなかで、きちんとゴールを達成し続けるのがプロフェッショナルマネジャーであり、ConsistencyをもってManageできる人は意外と少ない、という同氏の言には重みがある。

 

また、資金調達を経て次なる成長フェーズに会社が向かう中で、僕自身も変わらねばならない。

自分が偉くなるわけでも会社のお金が自由に使えるわけでもなく、グロースフェーズにある会社としてどうあるべきか、そのために必要な会社の成長、ひいては自分の成長を前のめりで定義する必要がある。

資金調達、とりわけクロージングは作業的に大変ではあるものの、やるべきものはトラブルシューティングなので、ビジョンから逆算して仕事をしていく能力はしばらく使っていない。

それを自覚したうえで、会社のあるべき姿、マネジメントの優先事項、自分の果たすべき役割を定義しないと、ブレブレになってしまうだろう。

Learn or DieというかChange or Quitというか、そういう緊張感は持たないといけない。


Convictionは生み出すもの
新しいことをやるときに、「これは必ず出来る」というConfidenceを持つのは難しい。
とりわけ、際どい挑戦であればあるほど、頭で考えて良くて五分五分、実際にやってみて初めて活路らしきものが見えることも少なくないわけで、そもそもConfidenceが高すぎる挑戦は自分のComfort Zone内にあって本当の意味でストレッチにはならない。
一方、「絶対にやってやるし何とかしてみよう」というConvictionは、意志の力を借りる分、作り出すことができる。
活躍している起業家や投資家が「これしかないと思った!」とか「天命だと感じた!」みたいな発言をよくしているけれど、そういうのは「~なら出来るだろう」というConfidenceではなく「~なら出来るに違いないし、やってやる」というConvictionの方なのではないか。


LogicやIdeologyとして当然というだけでは不十分で、NecessityとかUrgencyがあれば、それもまたConvictionのベースになりうる。
あるべき姿に限らず、やらないわけには行けない、というのも仕事への意欲を掻き立ててくれる。
そもそも、業務範囲が変わっていくベンチャーにおけるリーダーシップは「こんなことをやってみよう。いややらないわけには行けない!」と勝手に着火して燃焼していく自燃性のものになる。


不特定多数の人が読むブログで書くのも妙な気がするけれど、Fake it till make itという部分は完全には排除できないというのが、今の仮説。

幻想であってもそれを絶えず想像し、自分なら出来ると自分に言い聞かせて、出来る前提で行動していくことで、状況が次第に好転していく、ということは少なからずあるように思われる。

トイレの壁に目標を貼る人もいれば、毎朝目標を口に出す人もいるし、思い入れのある品を身の回りに置く人もいる。

大学時代から始めたこのブログも、自分の中に芽生えたConvictionを言語化して、自分に暗示をかけるためのツールといえるかもしれない。

先の資金調達もいよいよクロージングというタイミングで、ちょっと高いペンを買って、そのペンを毎日見つめながら、「このペンでClosing Documentにサインする!」と強烈に自己暗示をかけたりしていた。

自分を絶え間なく励まし、背伸びさせていく努力がConvictionを生むのではないだろうか。


当然、勝算や目標設定の正しさについては十分考えを巡らせたうえで、仕事に取り組んでいる。
それでも「もうひと頑張り!」というタイミングでは、誰よりも可能性を信じて、自らに暗示をかけるようにして周囲を巻き込んでいくことも大切だ。
信じるからこそ、説得できるし、説得できるからこそ物事が動き出す。


自主隔離中に延々とNHKのプロフェッショナルを50話くらい見ていた時に、エピソードのどれをとっても取材されている人は悩んでいたし、もがきながら考えていたし、それでもはっきり自分の意見を言いきっていた。
自分には経験がないとか、出来るかどうかわからないとか、こんなことでいいのかとか、将来どうしようとか、思ってしまう自分を導いていきたい(ふと、「自省録」の指導理性という言葉を思い出した)。
 
日本での滞在も残すところわずか、体のメンテナンスと並行して自分の中のConvictionを高めていきたい。

148週目:休暇

燃え尽きたので、休暇のため日本に帰ってきた。

ともかく2週間は外出を控えていることもあり、一晩ゆっくり寝たらキツキツの予定をこなす毎度の一時帰国とは打って変わって、時間を持て余している。

人と会ってインスピレーションをもらうのも大切だけれど、静かに本を読んだり勉強したり考え事したりする時間のありがたみを数日目にして早くも感じる。

 

シリーズBにむけて2年あまり気の休まることなく仕事をしてきたこともあり、ここにきて心身ともに休みを取らないといけないと実感している。

長い文章がレビューできなかったり、意思決定に時間がかったり、手足がしびれたりと、肉体的にもここで一度休む必要が出てきた。

 

数週間まえに、CEOとの休暇のタイミングを合わせようと相談したら、即答で却下された。

「今の計画の前に1週間、後ろにもう1週間足して、少なくとも8月は仕事をするな」というお達しで、当初はそんなに要らないと思っていたけれど、実際のところしっかり充電して、目の前の仕事を大局的に考え直す機会としたい。

 

いろいろと考えていることもあるので、その辺はまたブログで。

 

147週目:キリフィ・チームとの再会

今週は2月から戻っていないKilifiでチームと再会。

ファンドレイズのための出張に、DDのためのSite Visitsで飛び回っており、ひと段落するところでCOVID19でケニア国内の移動が禁止されてしまった。

さらには、ケニア国内でも僻地中の僻地であるはずの人口5万人の町Kilifiで、なんとケニアで最も初期の症例が出てしまい、Kilifiそのものも封鎖対象になってしまうという想定外の状況。

血税でヨーロッパ周遊に出かけた副知事が媒介となり、大騒ぎ。

一時はナイロビ以上に厳戒態勢が敷かれて、自家用車以外での外出禁止など相当厳しかったらしい。

それはさておき、自分以外のチーム全員は、ビーチもあって、ナイロビのように感染・動乱リスクが高くないKilifiに残る決断をしていた。

どこにいようとも、WFHなので関係ないし、チームのメンバーもひとりひとりがしっかりと案件を進めてくれたおかげで、正直どこからでもハードワークできる最強のチームが出来上がっている。

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とはいえ、資金調達で眠らない数か月を戦ったからには、きちんと対面で話もしたいし、食事もしたかった。

幸いにチームといっても数人の小さな所帯なので、換気やスペースに注意しながら面談とディナーを設定する。

引き続き、KilifiのHQは最少人数での運用になっていて、いつも会議室の取り合いをしていたのがうそのよう。

ミーティングルームからもイスが撤去されていた。

週明け月曜日に大統領声明が出て、レストランでの酒類の提供が禁止されたので、締め切りぎりぎりでディナーとなった。

ビーチ沿いにある自然換気が完璧なバーで祝杯を挙げる。

8月はチームの休息と9月からの複数案件のキックオフ準備に充てる。

シリーズBのクロージング後もなんだかんだやることがあったのだけれど、年終盤の仕込みも含めてしっかり形になったので、しっかり休みたい。

 

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146週目:え、そんなに色々重なるんですか?

資金調達のブログも書いて一安心していたら、意外と面白いイベント続出の1週間だったので、思い出として書いておく。
 
今週は休暇で数日間はまとめてリラックスする予定だった。
チームの予定も溜まっていた仕事も事前にやりくりして、「よし休暇だ!」と意気込んでいたところ、面白いくらい思い通りにいかない笑
 
  • ケニアの地域移動が禁止される当日アナウンスで可能性が出てきて、休暇を取りやめ。急いで、4か月ぶりのチームとの1-on-1 (対面)を入れる
  • 日本政府によるケニアのコロナリスク評価が悪化し、帰国者へのPCR検査義務付けの可能性が高まり、一時帰国を保留
  • 日本への一時期帰国のフライトが一部キャンセルされるもエチオピア航空は通信不安定で代わりのフライトが手配不可
  • 宿泊先の自宅は土日とも停電し、冷水シャワーと星空生活
  • 気分転換のジョグの帰りに蜂に刺されて病院へ
  • ナイロビのハウスメートがCOVID感染者と接触した疑いがあり、検査を受ける。僕自身はKilifiにいたので、感染リスクはないがナイロビ自宅が滞在不可に。
とまあなかなかひどい。
 
めんどくさいこともこれくらい重なると、程よいストレスで、かえって調子が戻ってきた。
新興国にいると、どうでもよいことや当たり前のことで躓いてこんな風に計画が二進も三進もいかなくなることがたまにある。
久しく大都会ナイロビにいたこともあって、停電や冷水シャワー程度で気持ちがなえる弱体化した自分にむしろ驚いた(こんなのは一年前まで日常茶飯事だったはず)。
色々焦ってしまうのだけれど、同時多発的にロジが変動する場合は、事前にある程度クリティカルパスを見定めて、そこから先は場当たり的に最適な(と思われる)選択をしていくよりほかない。
むしろ自分のペースを取り戻す契機と捉えて、泰然自若どっしり構えていこうと思う。
 
何も考えない、心配しない、普通の休暇を取ろうと思ったら、日本で自己隔離しているのが一番いい気がする。
今日、大統領声明が発表されて、懸念されていた国際便や国内移動の制限リスクはとりあえず去ったので、思い切って日本に戻って休みを取りたい。
 
そういえば、今週で29歳になりました。
年初に目標にしていた「実行の年」は、無事達成できそうなので、「もっと実行する」年にできるよう年の後半戦も張り切っていきます。
 
 

144-145週目:シリーズBを調達しました

財務責任者をしているKomazaがアフリカのベンチャーとして最大規模となる30億円(28百万ドル)のシリーズBを調達しました。

アフリカにおけるベンチャー企業の資金調達としては、インパクト投資、環境投資、森林投資、零細農家プラットフォームなど様々な分野で最大規模であり、シリーズBという一般的にはアーリーステージでありながら、機関投資家のAXA Investment Managers、アフリカ森林投資の老舗で開発銀行のFMO、国連傘下の環境ファンドLand Degradation Neutrality Fund、シリーズAのリード投資家Novastar Venturesと、素晴らしいパートナーに参画頂きました。

クロージングに至るまで、何人もの方にアドバイスやご支援を頂きました。改めて御礼申し上げます。

 

ケニアに来た当初から、投資家ではなく、スタートアップの側からファイナンスを使って成長をドライブすること、社会的・環境的インパクトのある事業をInvestableにするのをミッションに、起業家と二人三脚で非線形的な仕事をすることを掲げてきました。

2017年にKomazaに入社して以来、CEO直属のなんでも屋さんとして、NGOからの転換、PEなど投資プロフェショナルで構成される専属の戦略・財務チームの設立、森林の証券化、拡大戦略・パートナーシップ支援など、様々な仕事に携わってきましたが、すべてが結実しています。

入社3か月後にCEOに直談判してゼロから始めたチームも、新興国投資の優秀なプロフェッショナルが集まって、一丸となって取り組んできました。

 

インパクト投資という言葉こそ有名になりましたが、その中身はまだまだ混とんとしているのが現状です。

投資される事業の側も投資家と同じくらい頭と足を使って新しいプラクティスを積み重ねていかねばならないと思い飛び込んで、ケニアに行くのも初めて、新興国での生活も初めて、CEOに会うのも初めて、何よりもベンチャーが初めてという初めて尽くしの挑戦でした。

実際に仕事を始めてみると、新興国市場ならではの”Missing Middle”(アーリーとレイトステージ投資家はいるが、間がいない)や開発業界特有の投資条件など、「お勉強」してきた課題に突き当たりながら、なんとかして生き延びる毎日に鍛えられました。

アセットクラスがまだ黎明期であることもあり、前例や定型がほとんど存在しない中で、投資家と事業側の両社でほぼゼロからディールを作っていくプロセスは大変でしたが、やりがいのある仕事です。

投資家にとっても、「森林xスタートアップ」企業のバリュエーション、コロナ下での現地訪問なしでのDD、機関投資家と開発銀行のCo-Lead、LP投資家による直接投資案件など、ありとあらゆる「初」が詰まっていて、侃々諤々議論して合意形成していく過程はとても勉強になりました。

 

学生時代も含めると、これまで10年ほどインパクト・社会起業との接点を持ってきて、「本当に足りないのは何か?」という問いをその都度ぶつけては、新しいプロジェクトにしていくのを繰り返してきました。

今回のシリーズBを通じて、SmallholderやForestry、Climateなど様々なアングルから見て新しい事例を作れたことは、素直に嬉しいですし、ここから職業人として新しい地平が開けるのを感じています。

 

クロージングのセレモニー(オンライン)で、「ファイナンスのプロフェッショナルである以上に、事業に対して熱量とビジョンを持ったイントレプレナー」というCEOの言葉は、たぶん一生忘れません。

社会人になってから教えてもらったり助けてもらったりするばかりですが、ようやく自分の仕事を通じて社会に少しは価値を還元できたかもしれません。

遅ればせながら職業人としてのスタートラインに立った心境です。

 

発表直後から、メンターの方々、接点のある投資家、前職の先輩、果てはペイパルマフィアまで、あらゆる方からお祝いのメッセージを頂き、Africa PE NewsやImpactAlpha、Quarts Africaといったメディアでも紹介されました。

Komazaにきてから定期的にブログを書くようになって3年近くが経ち、一過して積み重ねてきた仕事が形になったことは、事業開発やファイナンスに携わる人間としてとても充実感があります。

 

一仕事終えてこれでゆっくり夏休み、と言いたいところですが、クロージングからの2週間ほどは、これまで通りの通常稼働でクロージングに手いっぱいで溜まっていた仕事や、次のフェーズへの仕込みに費やしました。

資金調達はあくまでも始まりでしかなく、COVID19含め厳しい市場環境でいかにこの資金調達を長期の成長にぶつけていけるか、は相応に難易度の高い挑戦になります。

まだまだやるべきことが山積みですが、今後とも精進して参ります。

 

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(クロージングセレモニーはリモート開催)