Zeitgeist

ケニアのスタートアップで企業参謀。留学した後の話。

アショカの成り立ちから自己変革まで

前回の記事に引き続き、Bill Carterの講演会の内容を共有したい。

社会起業としてのアショカがいかに世界の未来を変え、そして同時に自分たちが作り上げた変化の波に自分たちの組織と戦略の適応させてきたか。

アショカが一般的なアドボカシー団体と違っているのは、数年ごとにテーマも戦略も変わっていく学習の速さだ。

継続的に主要事業を成長させつつも異なるアプローチを導入して、既存のモデルにとらわれることなくインパクトを最大化する策を打つ、アショカ自体のアントレプレナーシップからは学ぶことは少なくない。

メモを読み返しながらブログにしてみると、NPOや社会事業など、自分でゴールを設定しないといけない組織の戦略ケーススタディのようになってきたので、補足説明も兼ねたコラムも参考にしてほしい。

 

「社会起業家」の発明:

アショカが設立された1980年、「社会起業家」というコンセプトはこの世界に存在しなかった。

創設者のBill DraytonとパートナーのBill Carterの二人のBillが見出した、発展途上国で見かける起業家精神と公共心に満ちたリーダーの姿を、世界の誰もがイメージできる新しいコンセプトとして世界に広めるため、アショカはフェローシップという戦略をとるようになる。

もちろん、世界中のすぐれた起業家を応援し、グローバルレベルで支援をすることはこのフェローシップ(数年間の生活・活動資金支援とネットワーク支援)の主目的だった。

そして、アショカが長期的なインパクトとして目指したのは、社会起業家というコンセプトが世間に認知されることで、より多くの社会起業家が生まれる世界を作り出すことだった。

 

フェローたちから見えてくる新世界:

団体の設立から10年程経った90年代、「社会起業家」という新しいコンセプトがソーシャルセクターで急速に受け入れていくなかで、アショカの経営陣は新しい潮流を感じていた。

フェロー候補として出会う事業家たちが、それまでのビジネスとも慈善事業ともつかない方法で、社会を変えようとするようになっていたからだ。

今でこそ、ダブル・ボトムライン(社会的・経済的両方のゴールをもつこと)やインパクト投資といった概念があるが、当時は利益追求でもないし、完全な寄付でもない、奇妙な事業形態に映った。

この流れは一層加速し、アショカの内部では、"Rapid"(急激で)で"Fluid"(流動的な)変化に危機感を覚えるようになったらしい。

「社会起業家」の定義を作り出した団体として、アショカは急激に変化する「社会起業家」のあり方を捉えた新しいコンセプトを生み出す必要にせまられることになる。

 

【コラムその1:ビジネス・金融に目を向けた社会起業家たち】

ムハマド・ユヌスのグラミン銀行に始まるマイクロファイナンスが注目され始めたのがこの頃で、2000年代に入ると貧困層向け白内障治療の事業化をしたAravind Eye HospitalのDavid Greenがフェローに選ばれたり、Patient Capitalism(忍耐ある資本主義)を唱えたAcumenファンドなどが出てくるようになる。

アショカは自団体が巻き起こした「社会起業の普及」というシステム変革の結果、自分たち自身でも思いがけない形で、急速な世界の変化に飲み込まれつつあったとも言えるかもしれない。

 

新しい世界観の提唱:

アショカのメンバーたちが遭遇した、フェローたちの事業モデルやマインドセットの変化は2010年に"Hybrid Value Chain"という概念に結実した。

また、社会起業家というアイデアが一般に認知されたことで、かつては社会では受け入れられなかったキャリアを歩む若者も増えてきた。

1980年には一部の才能と冒険心ある人にしかできなかった社会起業が、キャリアとして確立つされつつあるようになると、アショカの戦略は次のステージへ移行する。

アショカはシステム変革を起こすかもしれない小さな変革者たちを"Changemaker"と名付け、支援の軸足を移すようになったのだ。

 

【コラムその2:Hybrid Value Chainとは】

ハーバード・ビジネス・レヴューに投稿された論文によると、Hybrid Value Chainは、ソーシャルセクターとビジネスセクターが協働することで、ビジネスとしても社会事業としても成功できるようになる事業モデルのことだ。

この論文では、こうした事業モデルの広がりが数百兆円規模の経済的機会をもたらすと謳っており、今でいうBOP的な要素も多分に含まれている。

ちなみに、Hybrid Value Chainの条件は、次の4つ。

1.ビジネスが大規模かつクロスボーダーで展開していること

2. ビジネスと社会起業家が協働して複数の価値を生んでいること

3.消費者・受益者が対価を支払っていること

4. システム変革をもたらすアイデアで新しい競争を生み出すこと(グラミン銀行が、金融機関にとどまらず、ヘルスケアや農業など複数の領域で暴利を貪っていた既存プレーヤーを脅かしたように)

 

【コラムその3:"Social Entreprneur"と"Changemaker"の違い

"Social Entreprneur"と"Changemaker"には明確な違いがある。

"Social Entreprneur"は社会制度を塗り替えるようなシステム変革を起こすことができる一部の優れた"Changemaker"たちを指す。

したがって、アショカが"Social Entreprneur"から"Changemaker"へ支援の軸足を移したのは、ビジネスのバリューチェーン分析と同じで、母数を増やすことで、"Social Entreprneur"を増やそうとしたと解釈できる。

アショカが社会起業をコモディティ化させたことで、社会起業家を支援する意義は薄れ、代わりにその予備軍を作ることが次なるボトルネックになっていたのだ。

 

フェローシップモデルの限界:

社会起業のムーブメントは爆発的に広がり、変化はアショカにも捕まえきれないスピードにまで加速していた。

変化をリードし続けるためにアショカは"Everyone a changemaker world"(「誰もがチェンジメーカーになれる世界」)という新しいビジョンを掲げ、フェローシップに変わるモデルの開発を進めた。

新しいモデル開発の戦略は、Bill Carterいわく、"Our Fellows can show us how!"(「どうすればいいかはフェローが教えてくれる」)というものだった。

すでに2,000人を超えていたアショカフェローが何を考え、どのようなトレンドを示しているのかを研究する中で、学校や地域のコミュニティ、家庭など身の回りの小さな環境で変化を起こす成功体験がアショカフェローに共通する原体験と成っていることがわかった。

これがのちに、Youth Ventures(学生をメンターして、身の回りの社会課題を解決する成功体験を積ませるプログラム)やAshoka U(大学と共同した社会起業家育成プログラム)といった新プログラムにつながった。

 

【コラム4:NPOの競合戦略としてのピボット】

シュワブ財団やスコール財団などフェローシップ事業の競合やソーシャル・ビジネスなどの新しいプレーヤーの台頭はアショカの相対的な地位を脅かしていたともいえる。

社会起業家を支援することが「当たり前」になるという一大変革を生んだのがアショカは、その結果として新たなプログラムで業界のリーダーとして次なるビジョンを示し、存在感を示し続ける必要性にかられていたのではないかと思う。

学生向けのプログラムと書くとありきたりに見えてしまうが、それまで百万人に一人のすぐれた起業家だけを追いかけてきたアショカが、そこから蓄積された知見を一般向けのプログラムとして再定義したということは、団体内で大きな考え方の変化を起こす必要があったことは想像に難くない(スーパーカー専門店が大衆車を売り出すようなものだ)。

 

ユースベンチャーの発展とビジョンの再定義

数年のうちに、アショカのユース向けプログラムは大学から中高、初等教育まで急成長し、現在では日本を含む世界中で採用されている。

発展したのは規模だけではない。フェロー・プログラムを凌駕せんばかりに研ぎ澄まされた事業フォーカスだ。

ユース・ベンチャー・プログラムなどで社会起業家と若者の接点を作り出すことに成功したアショカは、優れた社会起業家を量産する踏み込んだ施策として、フェローたちがどのように優れた"Changemaker"になったのか分析を進めた。

①Empathy 

②Teamwork

③Leadership

④Action

という4つのスキルセットを幼少期から学生時代まで実践する場を持つことが鍵だと気付いたアショカは、そうした場づくりを世界20ヶ国以上で実践している。

 

 まとめ

 アショカの成り立ちから、戦略のピボットまで、この話から学べることはあまりに多い。

目の前のインパクトであるフェローシップを発展させつつ、新しい接点を持ち、課題を定義し、変革を成し遂げた「学習し続ける組織」。

アショカのユース向けプログラムについても勉強がてらまた書いてみたい。

 

もっと対談の内容について知りたいという人は、ビデオが公開されたようなので、こっちも是非見てみてほしい。


[対談] ビル・カーター氏 Dialogue with Bill Carter (1)

 

 


[対談] ビル・カーター氏 Dialogue with Bill Carter (2)