Zeitgeist

留学した後の話。

社会事業がロジックモデルを使う意味

内閣府が主催している社会的インパクト評価イニシアチブの評価者育成プログラムに支援者として参加して、ロジックモデルについて勉強してきたので、感想を簡単にシェアしたい。

 

※1:このプログラムの参加者は公募で選ばれた全国のNPO、財団、CSR関係者、企業などで、僕自身は彼らがロジックモデルを組んでインパクト評価の枠組みを考えるファシリテーターをしている(「評価支援者」と呼ばれる)。

※2:今回の研修プログラムで使用された文献・資料は内閣府から後日正式なレポートとしてネット上に公開されるとのことで、個別のテーマはその時にまた詳しく書きたい。

 

ロジックモデルとは?

「NPOは組織の成果を自ら設定しなければならない」というドラッカーの有名な言葉の通り、収益のみを目的とするビジネスではない社会事業やソーシャルビジネスが作成するゴールを達成するまでの道のりを示した図のこと。

例えば、「子どもの貧困の撲滅」が団体のミッションだとすれば、そこに至るまでに必要な成果(短期・中期・長期)をミッションから逆算して考え、現在の団体のリソース・活動・結果(プログラム実施対象者など)とどのように結びつくかを線で繋いで明らかにする。

このモデルは、社会的インパクトというふわっとしたものを扱う事業を経営する上で、ミッションに向けて横道にそれることなく事業を進める指針として使われるほか、それぞれの成果を測定することで、団体が掲げた目標に対する到達度を測ることができるツールだ(インパクト評価をしないということは、大企業が売上げや利益を公開しないのようなものだ)。

広島大学のページに一通りの説明があるので、詳しくはこちらをご参照。

ロジックモデルをやってみる意味は?

ロジックモデルを作ることは生易しい作業ではないと今回の研修で身にしみた。

「自分の団体が何をやってるかなんて支援者やら行政やらに毎日話していることだ」という人でも、いざすべてをロジックモデルに落とし込もうとするとあっという間に時間が過ぎていく。

(アイデアを思いついたとドキドキしながら、いざ机に向かって文章にしてみるといまひとつよく分からないという経験は誰しもあるはずだが、まさにそれ。)

 

ただ、時間をかけてみる価値のある、非常にパワフルなツールなので、どんな意味があるのかを説明してみたい。

 

①形にしてみる価値

いくら「こんな課題がある」と明確にわかっていても、実際に何をどの順番で解決し、どこまでそれぞれの課題にコミットするかといったところは、ロジックモデルのように時系列立てて整理してみない限り、明確にはならない。

しかも、個別団体のインパクトは、経営サイドや現場スタッフ、接点のある他事業者や行政、受益者によって違った見え方をしていることが多い。

特に、複数の成果を追う団体であれば、いくつもの「大切なインパクト」に優先順位をつけることは容易ではなく、共有ビジョンづくりのために半年から1年がかりで受益者を含めて議論した団体もあった。

 

日々の業務に追われる中で、これだけのリソースを確保する余力がないかもしれないが、中長期で共有ビジョンを明確にすることは後々の経営判断を容易にし、組織のゴールを明確にする意味で、重要な投資だと思う(もちろん「ロジックモデルに完成はない」ので、その時々の組織や社会のありように応じて、アップデートする必要がある)。

知能労働としてマネジメントが少数でやっつける仕事ではなく、定期的に時間をとって長い目で取り組むことが納得感にもつながるというのが、経験者の一致した意見だった。

 

②言葉の精緻化

一旦書いてみても、「社会を豊かにする」だとか、「自信をつける」だとか、抽象的な言葉が目についていく。

特に、団体のコア事業に直結しない、けれど捨てることのできない副次的なインパクト(学習支援事業であれば、学力以外の自己肯定感や将来への希望など)

ロジックモデルを日々支援に役立てているという資金提供者の大先輩は、言葉の精緻化とアップデートがロジックモデルの質を決める鍵だとアドバイスしてくれた。

この段階では、団体外の人からのフィードバックや問いかけ(例:「これって具体的にどういう意味?」)が役に立つ。

 

余談だが、アショカには団体内限定の「辞書」があり、そこでは”Social Change” ”Rippling”“Changemaker”といったキーワードが経営会議での議論を経て、随時アップデートされていた。当時はこの言葉への執着が無駄にも見えてしまったのだが、今思えばこれはロジックモデルの精緻化と同じ作業だったのかもしれない。

 

③優先順位づけ

最終的に、ロジックモデルを作成する最大のメリットは何かというと、事業の優先順位づけだと思う。

ロジックモデルを作るために言葉を精緻化していくと、基本的にモデル上で達成すべきインパクトの数はどんどん膨らんでいく。

例えば、「社会的スキルの獲得」であれば、「友人関係の充実」や「対人能力の拡大」、「みずから働きかける積極性」などなど無数に分解されていく。

だが、そうした全てに一つの事業がコミットすることは難しい。

副次的に効果が生まれることは良いことではあっても、経営資源を効率的に使うという意味では、「このインパクトだけは絶対に届ける」という最優先の成果を特定して、他のインパクトとの相対的な優先順位づけをすることが求められる(ロジックモデルに含めないからといって、その成果を諦めているというわけではない、ただ絶対視しないだけだ)。

 

優先順位づけの重要性は自明なようで、意外に難しかったりする。

とりわけ、目の前で緊急に支援を必要とする人を受益者とする場合は、そこで困っている人を助ける以外の優先順位は考えられないというのが現実だ。

ただ、この「目の前の人を助ける」のみにコミットする、一見すると自明の優先順位も、長期的な成果(=社会課題の根源的解決)に照らすと修正の余地がある。

状況に対応することは、目の前の人を救うことはできても、そうした人々を生み出した社会構造を変えない限り、常に同じ問題が繰り返されてしまうからだ。

 

例えば、海辺の監視員が目の前で溺れている人を助けずに(短期的施策)、溺れる人を減らすための啓発講座を開いている(中長期的施策)をしていることは想像できないが、日々の救護活動だけでは、毎日溺れる人の数自体を減らすことはできない。

 

まとめ

ロジックモデルを作り上げる作業は、未成熟な事業にとっても、成熟した事業にとってもメリットが大きい。

未成熟な事業であれば、今後の事業展開の方向性を定義する経営方針を明確化することができ、しばしばメンバー間で乖離しているイメージをすりあわせることができる。

一方、すでに活動が拡大し、モデルが確立している組織においても、先に挙げたようにオペレーションの延長上であやふやになってしまった優先順位を再定義したり、現場の状況に応じて方向性を見直したりする手段としてロジックモデルは役に立つ。

 

最後に、今回評価支援者としてプログラムに参加させてもらって感じた、評価支援者を育成する意味についても一言。

ロジックモデルは終わりがなく、しかもマルチステークホルダーで、一言で言えば超絶めんどくさい。

そういう作業だからこそ、支援者という第三者がお手伝いする価値もあるのではないかと思う。

プロボノのような形で週一回でも会議を開催し、必要な人を集め、外からの目線で言葉のあいまいさを指摘し、組織の業務量を見極めながらスケジュール管理をして途中で投げ出されないようにする。

この点、ビジネスプロフェッショナルの方々の週末プロボノとしては最適ではないかと感じた。

僕自身も今回勉強したことを机上の空論でおわらせないよう、プロボノも含めて支援先のフォローをしていきたい。