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Zeitgeist

留学した後の話。

MITのフィンテック講座:大企業はイノベーションを吸収できるのか?

MITフィンテックコース ビジネスのフレームワーク

フィンテックの授業は基本的にフィンテック業界に興味があるビジネスプロフェッショナルを対象としている。

プログラムでは、フィンテックの基礎知識に加えて、スタートアップや金融機関、ベンチャーキャピタルや研究者などの第一線の人々のインタビューから情報を得ながら(しかもテストを受けながら汗)、理解を深めていく。

 

今週の授業の中で、 特に印象的だったのが、大企業がいかにイノベーションを取り込めるかというテーマ。

オンライン決済や電話会社によるバンキングなど、かつて銀行が独占していたサービスが急速により便利で安価で使い易い新ビジネスに脅かされる中で、どのように大企業は生き残るのかは喫緊の課題といえる。

今回はスタートアップ、大手金融機関、投資家の三者へのインタビューが充実していたので、その中の1つを紹介したいと思う。

 

大手金融情報会社のStandard and PoorsのDeven Sharma前社長は、金融機関が取りうる戦略として以下を挙げていた。

 

戦術その1:アクセレレーターを立ち上げる

社外のイノベーターをかき集め、育成しつつ事業開発をするアクセレレータープログラムは、Wells Fargoをはじめ多くの金融機関で採用されている。

 

戦術その2:ベンチャーファンドを運営する

ベンチャーファンドは、アクセレレーターよりもアイデアが具現化しつつある、社外の企業家に投資をするもの。

いわゆるベンチャー投資の世界であり、うまくいけば投資先が上場して、技術的な貢献だけでなく、キャピタルゲインも上げることができる。

一方で、成長したベンチャー企業と自社でどのようにゴールをすり合わせて、互いに有意義な経営をするかは課題となる。

 

戦術その3:パートナー契約を結ぶ

金融事業者とIT事業者のパートナー契約を結べば、お互いに戦略的な広がりを生み出すことができる。

ビジネスでも異業種パートナーシップはよくあることである反面、少し怖いのは技術者側に金融のノウハウが移動してしまって、後々算入されてしまうリスク。

金融は基本的に規制でがんじがらめの利権産業なので、比較的安定しているかもしれないが、ここは中長期的には心配。

 

戦術その4:スタートアップを買収する

もっともシンプルな解決策。欲しいと思った技術ごと買収して自分のものにしてしまう。

唯一の懸念は、イノベーションを生み出す闊達なスタートアップを買収しても、親会社が旧態依然とした文化であったりビジネス観をもっていたりすると、競争の激しいイノベーションセクターで会社は生き残れないこと。

ほぼ全てのシナリオで共通する課題だが、金融はDisruptされる側、フィンテックはする側なので、ここの溝をきちんと埋める工夫なしにイノベーションを取り込もうとするのはかなり難しいと思う。

 

戦術その5:自社の子会社を立ち上げる

これができたらベスト。自社内ベンチャーでできるまでの人材と柔軟性がある会社は是非やるべし。

拡大するための戦略的買収も合わせれば、非常に大きな成長機会がある。

 

戦術その6:業界のコンソーシアムを作る

これはインタビューでなるほどなと思った点。

金融は基本的に複数アクターの間での取引を仲裁する仕事だけに、自社だけがイノベーションに適応しても、取引先が対応していなければ意味がない。

従って、メジャープレヤーこそ、業界をまとめて新しい技術が包摂されるリーダーシップを取る必要がある。

 

戦術その7:何もしない

この選択肢を聞いたときは思わず「そんなアホな!」と関西人ばりのツッコミをしてしまい、喫茶店で恥ずかしい思いをしてしまった。。。

これは、Standard and Poorsの戦略のことを言っているようなんだけど、「フィンテックが影響を与えている分野は必ずしも金融の全てではないから、別に影響ないなら何もしないのが賢明だよ」というコメントに愕然としてしまった。

彼は自社の事業を例にとって、「例えば、企業のクレジット格付け評価はエキスパートによる分析と判断を要する専門的な・・・」みたいなことを言っていたんだけれど、これはFacebookのプロフィールや携帯の支払い履歴データから個人の信用度を測るベンチャーや、機械学習を用いて従来の株式分析以外のデータから企業の業績を予測するヘッジファンドなど、「金融分析」の世界が無限に広がる今の時代には全く通用しない。(しかもS&Pはじめとする格付け機関のやり方は完璧には程遠いことはコーポレートファイナンスをやった人ならわかるはず!)

少なくとも今の規制のもとで地位を確立した少数プレーヤーを中心に構成される金融セクターに影響されない分野など皆無に等しいこということは確かだと思う。

まあ、そんな話が出てくるのも、単なる座学だけじゃなくて主要プレーヤーの生の声を聞けるこのプログラムの長所ではないかと思います。