気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

政治とインパクト・インベストメント

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昨日の投稿では、インパクト・インベストメントがいかに社会起業家をとりまくインフラ創りに貢献しているかについて書いた。(読んでない人はこちら!)

 

今日は少し角度を変えて、どうしてインパクト・インベストメントと社会起業を支えるエコシステムに政治がどのように関わってくるのか、”US National Advisory Board on Impact Investing”というロビイング団体が作成した資料をもとに説明したい。

 

“Private Capital Public Good”のイベントに当日配布された資料のページをめくると

①規制の整備

②政策の効果向上(新型政府向け債券の発行など)

③政策優遇によるインセンティブづけ

という3大戦略が目に飛び込んで来る。

これを一つ一つ見てみよう。

 

①規制の整備:

 事業収入アセスメントなどのスタンダードを策定、より広い範囲で投資を行うための規制改革、さらなる規制の枠組み作りのための専門部会の設置など、どちらかというと本格的な導入に向けての政治的枠組み作りを求める。

とりあえず、できるところから始めた感じのインパクト・インベストメントも、ここにきて国がきちんとしたガイドラインを整備することで安定軌道に乗るとしている。

 

②政策の効果向上

 “Pay for Success”またの名を“Social Impact Bond”は、これまで政策として行ってきたサービスを、「一番上手く効率的にできる」NPOや営利団体にアウトソースしていく政府プログラムのことだ。(ホワイトハウスも2012年度予算計画にこのプログラムを盛り込んでいる)

往々にして官僚主義がはびこる政策を、単に民営化するのではなく、そうしたイシューの専門家に予算を任せるというやりかたは、もともとはイギリスで2010年に始まった取り組みだ。

Social Finance USの定義によると、政府が特定のNPOなどの事業者と契約した場合、事業者たちが債券を発行してそのプログラム実現のための資金を調達し、もしそのプログラムの成果が出れば(Success)、政府から事業者へ報酬が支払われるというものだ。

つまり、これは単なる政策の委託やアウトソースではなく、政策に必要な資金集めまで事業者に任せた上で、しかも政府はリスクをとらずに成功した場合だけ予算を割くことができるという仕組みになっている。

もちろん、こうした制度が整った暁には、現在ファンドレイズに追われている多くの社会事業家たちがまとまった人口に対してサービスを提供出来るようになるので、政府だけが一人勝ちというわけではない。

 

(詳しくはSocial Finance UKなどを参照してみてほしい)

 

③政策優遇によるインセンティブづけ

 もともと国が提供する規模のサービスを実行するには多額の予算が必要だ。

“Pay for Success”モデルが債券発行による資金調達を柱にしているように、こうしたプログラムに投資家が出資しやすくなる環境づくりが求められる。

 

意外に感じる人もいるかもしれないが、ソーシャルファイナンスの業界へは、かなり早い段階から大手金融機関が積極的に進出している。

JPモルガン(2007)ドイチェ(2011)ゴールドマンサックス(2012)

現状の規模はまだ実験段階と呼ぶべきものだが、投資銀行の参入はこれからも続くだろう。

今回のイベントではゴールドマンからパネリストが来ていたし、かれらがニューヨークの都市再開発プログラムや教育支援プログラムに積極的に関わっているのもこうした流れを反映している。 

今でこそまだ実験的試みかもしれないが、今後アメリカの財政がますます厳しくなる中で、こうした新たなソーシャルファイナンスは途上国のみならず先進国の課題をも解決する可能性を秘めているのかもしれない。

 

 

更なる普及に向けた課題

ここまでバラ色の未来に焦点を当てていたが、せっかくなので一歩後ろに下がって、インパクト・インベストメントの普及に向けた課題を考えてみよう。

 

まずは業界スタンダードの策定。

現状は、インパクト・インベストメントを実行するために、旧来の法制度に則った解釈づけをして、なんとか投資を実行している部分も少なくないようだ。

リスク算定の方法といったノウハウから、具体的な情報開示のガイドラインに至までの包括的な法整備は急務だと言える。

また、これまで慈善事業の大半を担ってきた財団法人の投資権限などについても、法改正が叫ばれている。

 

一方で、そうしたインフラ整備がいつ完了するかは、今回取り上げたような業界団体やプレーヤーたちの議会やホワイトハウスへの働きかけ次第という部分もある。

そういう意味では、まだまだ不完全なシステムの中で、新規参入するプレーヤーにどこまでこれまで先人が築いてきた「善意」と「倫理観」ある対応を期待できるのかは不透明だ。

現に、ラテンアメリカのマイクロファイナンス機関の一部は法外な利益追求が社会問題化しており、本当にプロジェクトが社会に良いインパクトを生み出しているのかを客観的に評価する仕組みづくりが求められている。

 

こうした不確実性や政治的な努力の余地はあるものの、インパクト・インベストメントはこれからも成長が見込まれる金融の分野になると僕は予測している。