気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

Komaza 76週目:フィンランド出張

今週は一週間、フィンランドで開発銀行と森林投資家、新興国での森林事業者が集まるカンファレンスに参加。

 

フィンランドの林業

初日はフィンランド最大規模の加工施設と森林伐採の現場を見学、翌日からは朝から晩までプレゼンとディスカッションを重ねる。

フィンランドは国土30万平方キロ、森林比率70%と日本(国土38万平方キロ、森林比率80%)と似た国土構成ながら、森林管理がよく発達している。

国民の5人に一人が森林を持っているという分散型土地所有にも関わらず、80年サイクルの伐期をマネージし、民間業者と組合をうまく活用して、林業をGDP生産第二位(一位は鉱業)にまで育て上げた。

高度に自動化され、組織化された林業のバリューチェーンは、上流を個人所有の森林、中流を複数の大手と多数の地元伐採業者、下流を紙パルプや製材などの大企業が占めるという構造。

驚くべきことに、気温が低く降雪期間が長いフィンランドでは、木の生育量は南米のプランテーションの約5~6分の1であり、伐採のサイクルは実に80年に及ぶ。

長い期間かけて成長した木は芯が詰まっており、質の高い材木を確保することができるのが南方材との違い。

投資リターンはIRRで3~4%ほどしかないが、市場とバリューチェーンの成熟度合いが高いことから、フィンランド国債(AA)よりも低リスク(AAAしたがって低リターン)とされている。

 

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(一台数千万円の機材は、立木を製品規格に切りそろえ、同時にサイズを測定してインベントリデータを作成、さらにマーキングをして搬出時の分類をやりやすくする)

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(伐採から搬出、輸送に至る各工程でそれぞれに最適化された重機が用意されている)

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(樹齢八十年でぎっしり詰まった丸太。見事)

 

アフリカ林業の課題と機会

新興国林業の大御所や開発銀行など、業界の最も中心にいるメンバーだけが50人ほどが率直な議論をぶつける場で、ものすごく勉強になった。

各社プレゼンを用意されており、ディスカッションではかなり突っ込んだ数字の議論もあり、あっという間に3日間の現場視察・20プレゼンが終了した。

CEOとBiz Dev責任者と自分の3人だけでの出張で、往復でもいい議論ができた。会社としての事業戦略を次の段階へ持ち上げるヒントを得たのは間違いないと思う。

 

主な学び(かつ書けるやつ)は以下の通り。

  • リスクリターンを考えても、アフリカ森林投資のWACCは12%程度が妥当。PEでは10%後半のリスク評価を受けることもあるが、そのまま林業に当てはめてしまうと、そもそも林業をやる価値がない、という話になってしまう。アフリカ投資のリターン目線に即した投資の実現には、単なるオペレーション継続ではない、ハンズオンによる収益最大化=アセット価値最大化が必要になる。製品ごとに経済性のドライバーは全く異なる。前提として、仕入れの原木価格は常に上昇し続けていることから、利益を確保するためには、①現場レベルでのロス削減(行程の改善&木くず含めた利用)、②プロダクト開発で常に高付加価値を目指す、③ロジの最適化を続ける必要がある。
  • 林業は、きちんと育てて、きちんと加工し、きちんと売る「だけ」でよいシンプルなビジネス。一方で、このすべてのプロセスで「当たり前」を実現するハードルが極めて高い(特に新興国)。アフリカについていえば、次の点が課題になる。
    • その時々の政治的理由による、マーケットの歪み
    • 土地所有権の危うさ
    • 外資としてのコミュニティとの関係
    • 低コストで生産される輸入製品との競合
    • ロジスティクスなど公共インフラ
  • 単位林地あたりの収益性を高めることを考えると、純粋な林業だけに用途を限定する必要はない。農業(アボカドやマカデミアなど、Capexが少なく付加価値の高い輸出品目)でベースのキャッシュを確保し、長期の資金貼り付けが必要な林業のJ-Curve低減に充てる方式や、米国で行われているソーラー発電との併用など、キャッシュフロー構造を改善する工夫はいくらでもできる。
 

番外編:サウナと凍った湖

今回のカンファレンス、業界関係者でもトラックレコードのある参加者だけのクローズドな会で、人生で参加した数多のレセプション・会議のどれよりもずば抜けてよかった。
それなりにプライドも高い頑固な人たちが集まる会で、打ち解けた議論があちこちで起こり、最後は業界として投資する側もされる側も忌憚なく話していこうと終わる見事な運営は、なかなかない。
当分、運営者側に回ることはないのだろうけれど、素晴らしかった点をメモしておく。
  • 現場がアイスブレーク。初日から参加必須にし、まずは現場(高度に自動化・機械化された伐採現場+フィンランドトップレベルの加工工場)で全員の目線をそろえる。特に新興国系の参加者は、わかってはいても北欧林業の完成されたバリューチェーンに心洗われる。基本的にこの業界の人は木や森が好きな人たちなので、このあたりからみんな無邪気モードに突入していった。下手なアイスブレークよりも、みんなが一緒に興奮できる体験を用意したのが奏功している。
  • 参加者の絞り込み。今回のカンファレンスには色々な思惑や文脈があるのだけれど、それにしても完全招待制で50人程度に絞り込んだのはとてもよかった。お互いがお互いを知っている上での会話なので、遠慮のない会話がいきなりされていた印象。
  • サウナ。これはフィンランド外交伝統の必殺技らしい。ちゃんと招待メールにも「海パン持参」と書かれていた。日本とは違い人前で裸になることに抵抗が大きいアメリカ人までも、すっぱだかで30-40人がサウナでギリギリまで接近して(笑)話をしている光景はかなり圧巻。そして、サウナであったまった体をゼロ度の湖(湖の飛び込み台の周りはポンプがついていて、水の流れを作ることで氷が張らないようになっている)に飛び込んで冷やすと、もうBest Buddyなんではないかというくらいにみんな仲良くなる。日本でも温泉で商談するケースを聞いたことあるけれど、大の大人たちがワアワア言いながら氷の張った湖に突っ込んでいくほどのエンタメ性はないかもしれない。フィンランドおそるべし。もちろん、女性には別なサウナが用意されている(だれも湖に飛び込んでいなかった模様笑)。f:id:tombear1991:20190315131804j:plain(湖畔のサウナから、ここに飛び込む。今考えると、なかなかな画だ笑)
  • 朝から晩まで拘束する。これは、参加する側としては相当ハードなものの、実際、朝食から夜中のサウナに至るまで、ほぼ全参加者が8時から夜中まで顔を突き合わせていた。朝遅く始まり夕方早く終わるカンファレンスが大半の中、会場を森の中のリゾート施設にして(文字通り)逃げ場がない状態で缶詰にしたのは、結果的にはよかったのだと思う。大人数だと難しいと思うけれど。

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    (会場は、昔の狩猟用別荘を改装したホテル。周りは見渡す限り森と湖で逃げ場がない)
 
というわけで、連日の早朝から深夜までのカンファレンスとサウナ+湖飛び込み(計六回)でフラフラになった体を休めることにする。

Sankalp Africa 2019

先々週の水曜日、ナイロビで開かれたアフリカ・ベンチャーのカンファレンス、Sankalp Forumに行ってきた。

主催者はAavishkaarというインドのVCで、ソーシャル・インパクトの高いビジネスに限って投資しながら30%超のリターンを生んだ伝説的なファンドだ。

この一年で、TIAACREFという世界最大規模の機関投資家のヘッドがボードに加わったりと、新興国VCを代表するファンドとして存在感を一層強めた印象。

実は、主催者であるAavishkaar創業者のVineetは、僕のキャリアの恩人でもある。

全イベント参加できた去年とは違い、今年はレセプションにしか出られなかったので、今回は彼との出会いについて書いてみたい。

 

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(レセプションの様子)

 

彼と初めて出会ったのは、2015年の冬、日本でのインパクト投資のパイオニアであるARUNが開催したイベントでのことだった。

パソコンを探したら出てきた当時の写真はこちら。

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まだ会社員1年目で、なかなかオフィスから抜け出せない中、意を決してオフィスを出たのが7時半ごろ。

ARUNさんが企画したイベントはとっくに始まっていて、自分が会場に入った時には1時間のプレゼンの最後の10分程度だったと思う。

ただ、このフィールドは土地勘もあったし、事前にAavishkaarについては調べ上げていたので、日本でおなじみ誰も手を上げない質疑応答で、ひたすら質問を投げ続け、最後は帰り道のエレベーターで自己紹介まで恥も外聞もなくやった。

ここまでやることはあんまりないけど、Vineetの投資への姿勢、ビジネスと社会的インパクトのバランス感覚には、ワシントンDCや海外の会議で見たこともないものを感じて思わず徹底的にやってしまった。

それくらい衝撃的な出会いだった。

 

それからは、メールを通じてやり取りをするようになって、三菱商事を退職するときにも、ちょうど東京に来ていたVineetを捕まえて(時間を頂いてというよりも、こちらの表現が正しい気がする)、ケニアに来てからもムンバイのSankalpで、立ち話をしながらフィードバックをもらう。

 

初めて会ってから4年くらいしか経っていないのだけれど、ここまでダイナミックにキャリアを作れたのは、Vineetと会うたびに一番深いところで悩んでいる問題についてアドバイスをもらえたからだと思う。

多くの人が、社会的インパクトを表面的なきれいごとにしたり、自己満足の手段にしかできていない中で、いかにビジネスと社会的な善行(数字ときれいな写真に飾り付けられたアニュアルレポートではなく!)を投資家として実現するか、本気で悩み続けているVineetの言葉に今回も励まされた。

あとは現場で成果を残していきたい。

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(毎回恒例になりつつある写真撮影)

Komaza 75週目:日本→ケニア→フィンランド

今週は日本から戻って、Kilifiに数日、そこからNairobiに戻って今夜からフィンランド(!)に向かう。

フィンランドはヨーロッパ随一の林業国であり、現場含め色々と見て回る予定。

 

参加するカンファレンスの予定表には、

①当地の気温はマイナス20度~5度程度。3月だからってなめてると凍死します

②サウナと(屋外での!)水泳をお楽しみのために用意しました。水着をお持ちください

という意味不明なメッセージもあり、もはや怖いもの見たさですが、めちゃくちゃ楽しみです。

 

南半球のKilifiは今が夏の真っ盛り。連日30度を超える気温の世界から、マイナス20度に飛び込んできます笑

 

 

余談:土曜日に開発学を学ぶためにイギリスの大学院に在籍されている田才さんが主宰する国際協力サロンでKomazaについて話をした。

SDGsをはじめとする開発学やソーシャル系の概念がビジネスや行政など複数の領域をまたぐMultidisciplinaryな時代にあって、ざっくばらんな議論の場は面白い。

とりわけ、「インパクト投資」と「ESG投資」の違いや、企業の非経済的インパクトに関する考え方の変遷など、質問されて改めて言葉にするのが難しい内容もあり、勉強になった。

定期的に勉強会をされているようなので、興味のある人はこちらのTwitterから!

ちなみに、次回のスピーカーは、Learning for Allの教師仲間、品川夏乃さんです。

 

 

 

Komaza 73-74週目:日経SDGsフォーラム登壇で日本デビュー

怒涛の二週間をまとめて振り返る。

完全に言い訳ですが、時差ボケと仕事で余裕なく、しかもきちんと書きたかったので、まとめて更新です。

 

2/18-2/24:Kilifi→Nairobi→Japan

月曜日・火曜日はKilifiで新しいプロジェクトの立ち上げ、水曜日からはナイロビ出張で面談をこなし、アフリカ最大のインパクト投資カンファレンスのSankalp Africaのレセプションに行き、金曜日の夜に日本に向けて出発という慌ただしい週になった。

嬉しいことに、新しいチームメンバーも参加が決まり、少し気持ちが軽くなって日本行きの飛行機に乗る。

大企業にいたときは、優秀な若手が湯水のごとく湧いてきていたのを当たり前だと思っていたけれど、それがどれだけ大変かというのはベンチャー採用をして身に染みてきている。

年内に向けあと2-3人は採用予定なので、そこに向けてシステム化を進めたいところ。

フライト24時間はさすがに体にこたえたものの、一日しっかり休んで登壇する日経SDGsフォーラムの準備をした(が、時差ボケで結局朝4時までスライドのおさらいをしてしまった。。。)

 

 

2/25-3/3:Komazaの初日本ロードショー

初登場は日経フォーラム

日経SDGsフォーラム特別シンポジム「森林、自然資本と社会的共通資本」に登壇し、ARUN功能さんのパネルで、Komazaは本邦初上陸を果たした。

ARUNが定期的に開いているインパクト投資のセミナーに参加させて頂いたのが、2015年のこと。

そこから続いていたご縁なので、嬉しいし、何よりありがたい。

他にも、主催者や当日ゲストとして、昔からお世話になっている方々がいらしていて、単なるカンファレンスとは違う、感慨深い発表だった。

加えて、三菱商事時代の上司たちに何人も来て頂き、めちゃくちゃ応援してもらう。

役員レベル含め10人近い人が来ていたことが後日判明し、愛のあるツッコミとイジリと応援メールを頂きました。

 

フォーラム自体は、共催の日本政策投資銀行の渡辺社長、原田環境大臣、牧元林野庁長官、業界で知らない人はいない速水林業の速水社長はじめ、業界の超重要人物が登壇する豪華なイベント。

単なるお題目としてのSDGsではなく、本当に日本の経済界を変える気概を持った心あるプロフェッショナルの方々の尽力あって、当日席600に対して、2500人の応募があり、日経カンファレンス史上最高倍率を記録したとのこと。

森林というニッチなテーマでありながら、ここまで関心が高いというのは、本当に驚きだった。

見逃してしまった皆さん、こちらのリンクに当日のプレゼンがアップロードされているので、興味のある方はぜひ!

channel.nikkei.co.jp

 

森と生きる

僕自身が登壇したのは、日本インパクト投資ファンドのパイオニアARUN功能さんのモデレートして、世界各地の取り組みを営利・非営利の両方から紹介する「森と生きる」というパネル。

南米のプランテーションを機関投資家やファミリーオフィス向けに運用する森林ファンドのEcoforestからアッカーマンCEO、30年以上にわたり環境保護からアドボカシーに至るまで幅広い活動をしてきたイオン環境財団の山本事務局長、アフリカでもおなじみサラヤの代島取締役、という多様な顔ぶれで、スタートアップの日常からは違った視点で林業を見ることができたのは新鮮だった。

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パネルの様子

 

ジャパン・アングルをめぐる旅

今回の帰国は出張なので、普段よりも思い切ってアポイントを入れた。

東証一部上場の林業企業の社長プレゼンから、昔からインパクト投資関連の勉強会でなじみのあった方まで、色々な方々にKomazaを紹介して回る。

前職にいた頃は、実力も気合も十分な海外のファンドマネジャーに、「日本でのファンドレイズは2−3年通い続けてようやくスタートライン」と言い続けたのを、今度は自分に言い聞かせて、地道に面談を重ねる。

こっちに来てから知ったのだけれど、ケニア農林業はJICAの30年来のプログラムはじめ日本とも縁の深いらしい。

時間はかかると思うけれど、粘り強くジャパン・アングルを模索していきたい。

 

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当日のプログラム

 

恐怖と向き合う

このところ恐怖というものについて考えることが増えてきた。

何かと不安になり、几帳面なわけでもないのに潔癖でどうしてもイライラしてしまう。

落ち着かなさゆえに、無謀と言われた留学をしたり、卒論を書いたり、海外大生が遠慮する日本の大企業で仕事をしたり、安定を捨ててケニアに飛び込んだり、ユニークな人生を送っている。

こんなことになったのは、意識が高かったというより、苛立ちや不安が常に僕を駆り立てて凡庸を許さなかったからだ。

 

ある意味でこの性格は、人生の初期のフェーズにおいては幸運だった。

というのも20代というのは自分のやりたいことを模索すべき時であり、自分を理解するために様々な試行錯誤を広い範囲ですることに意味があるからだ。

ただ、最近になって僕はようやく、自分のすべきこと、得意なこと、取り組むべき事業を絞り込みつつある。

そうなってくると、今までは遊ばせておいても良かった不安感や焦燥といったものを、コントロールすることが大切になってくる。

「何をなすべきか」という問いに自分を収斂させ、地道な行動を重ねていかないといけない。

 

というわけで、毎日不安に胸が押しつぶされそうになった時、その不安について考える習慣をつけようとしている。

何が不安なのか、何を恐れるのか、感情を客観視する習慣をつけたい(マインドフルネスとかでよくある)。

ここを十全に理解した時、僕はようやく心を落ち着けて大胆な試みをすることができるのだと思う。

人生に時間があるようで実はない。数十年かけなければ納得のいく事業は生み出せない。

それがはっきりした今、不安や恐怖に惑わされることなく、自分が集中することのできる期間を伸ばしていくことが大成への道だと思っている。