気候変動スタートアップ日記

ケニアのスタートアップで企業参謀をしていましたが、気候変動スタートアップを創業するためスタンフォードにいます。米ブラウン大→三菱商事→ケニア。

アフリカ・ビジネス

仕事でつい最近までアフリカ投資を担当していた関係で、今でも現地で起業されているビジネスパーソンの方と接点があるんだけど、そんな彼らから「ビジネスは戦略ではなくストーリーだ」という話をよく聞く。

日本の高層オフィス街でコンサルや投資銀行、国連の綺麗なレポートを見ながら仕事をしても、世界中の拠点と国際電話を毎日しても、見えてこない現場。

先進国では必死に「ビジネス機会」を分析して探しているのに、いざ現地でビジネスをやっている人からすれば、「毎日が壁にぶつかる経験」で「克服しないといけない障害の全てがビジネス機会」になるという。

どんな機会があるのかなと先進国から様子を見ているものには一生見出せないオポチュニティがそこにいるだけで見えてくる。

生き延びるだけで、目の前の課題に向き合うだけで、事業が育っていく(もちろんそんな単純な話ではないけれど)というのは、血眼でビジネス機会を模索し、苛烈な競争に消耗する先進国市場とはまた違った世界観なのを忘れてはならないなと改めて思う。

レポートの上のビジネスをしてはいけないのだと自戒する。

MITのフィンテック講座: イノベーション分析のフレームワーク

恒例のMITフィンテック講座の復習。

フィンテックをはじめとするイノベーションの評価軸という講座で、面白いフレームワークが出てきたので、自分の勉強の復習も兼ねて、紹介したい。

この"Ten Types of Innovation"フレームワークはInnvoation Consulting会社のDoblinが開発しており、新しいベンチャーのどこがイノベーションになっており、それぞれどのような戦略を取りうるのかを考えるツールになっている。

 

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このフレームワーク↑は、新しいビジネスのValue Propositionを10の要素に分解しており、その中のどこでイノベーションが起こっているのか/いないのかを分析できるようにしている。

以下、一つ一つ説明してみたい(日本語訳はあくまで意訳ですので悪しからず)。

Configuration(ビジネス構造)

1) Profit Model

収益構造。例えば、Huluなどのドラマ・映画ストリーミングは、ビデオレンタルのように「一本幾ら」ではなく、講読料方式を取っている。Spotifyは音楽のコンテンツ料をオーディエンスではなく広告主から取っているなど。

 

2) Network

ビジネスをするときに関与するプレーヤー。例えば、銀行が普及していないアフリカの農村などでは、携帯上の電子通貨M−Pesaをボーダフォンが流通させることで、銀行代わりとして使われており、これは従来金融サービスを提供する銀行以外のアクター(携帯会社、街角のキオスクなど)を巻き込んだネットワークのイノベーションといえる。

 

3) Structure

人材やアセットの使い方、配置などのビジネスのパフォーマンスに影響する構造。人事システムやR&D、IT化など。古い例だけど、在庫を管理し顧客情報の分析を可能にしたPOSシステムが元祖かなと。あとはUberの自動車とドライバーの調達方法もこの例ではないかと。

 

4) Process

提供価値に直結した競合に勝る・真似できない方法。例えば、Googleのサーチランキングや広告システムは、他社とは決定的に差別化した方法だと思う。古い例だと、コカコーラのレシピ(特許にも出ておらず、その内容は最高経営幹部でも知り得ないことで有名)とかもその手のイノベーション。

 

Offering(提供する価値)

5) Product Performance

製品のパフォーマンス。これはiPhoneのような全く新しいカテゴリー(スマホ)を定義する製品でも、「従来の数百倍の画質のテレビ」などでもいい。

 

6) Product System

製品を取り巻くエコシステム。例えば、楽天ポイントは、楽天市場をはじめとする様々な楽天のサービスを個人のアカウントにつなげ、ポイント還元システムを構築して顧客を囲い込んでいる典型的なパターン。

 

Experience(ユーザーエクスペリエンス)

7) Service 

コアの価値提供を増強するサービス。販売する製品・サービスを支える追加のサービスのこと。例えば、アマゾンの物流システムは単なるネット通販に加えて、翌日配送などの補強的価値を提供している。

 

8) Channel 

顧客へ価値を届けるチャネル。ネット通販が実店舗よりも便利なチャネルを提供したり、リアル店舗のセレクトショップやTSUTAYA書店がアマゾンより好まれたり、何がいいかはビジネス次第。あくまでも顧客の要望に応えているかが基準。いくつあってもよい。


9) Brand

ブランド。英語の本文では"Promise”と説明されていたが、「ここなら大丈夫!」と思われる揺るがないポイントのこと。例えば、Googleの検索は比較的信頼できるとか、わからないことがあったらまずWikipediaを見てみるとか。

 

10) Customer Engagement

顧客エンゲージメント。顧客の深層心理まで理解した上で、顧客の商品体験や生活を豊かにするための施策。ネットショップのおすすめ機能とかはこれにあたるのではないか。

 

以上、考えても見れば、「イノベーション」に限らず、競争優位性を持つ企業やビジネスのほとんどがこのいづれかに突出した価値を確立しているようにも見える。

仕事でも使える可能性大なので、わくわく。

 

 

MITのフィンテック講座:大企業はイノベーションを吸収できるのか?

フィンテックの授業は基本的にフィンテック業界に興味があるビジネスプロフェッショナルを対象としている。

プログラムでは、フィンテックの基礎知識に加えて、スタートアップや金融機関、ベンチャーキャピタルや研究者などの第一線の人々のインタビューから情報を得ながら(しかもテストを受けながら汗)、理解を深めていく。

 

今週の授業の中で、 特に印象的だったのが、大企業がいかにイノベーションを取り込めるかというテーマ。

オンライン決済や電話会社によるバンキングなど、かつて銀行が独占していたサービスが急速により便利で安価で使い易い新ビジネスに脅かされる中で、どのように大企業は生き残るのかは喫緊の課題といえる。

今回はスタートアップ、大手金融機関、投資家の三者へのインタビューが充実していたので、その中の1つを紹介したいと思う。

 

大手金融情報会社のStandard and PoorsのDeven Sharma前社長は、金融機関が取りうる戦略として以下を挙げていた。

 

戦術その1:アクセレレーターを立ち上げる

社外のイノベーターをかき集め、育成しつつ事業開発をするアクセレレータープログラムは、Wells Fargoをはじめ多くの金融機関で採用されている。

 

戦術その2:ベンチャーファンドを運営する

ベンチャーファンドは、アクセレレーターよりもアイデアが具現化しつつある、社外の企業家に投資をするもの。

いわゆるベンチャー投資の世界であり、うまくいけば投資先が上場して、技術的な貢献だけでなく、キャピタルゲインも上げることができる。

一方で、成長したベンチャー企業と自社でどのようにゴールをすり合わせて、互いに有意義な経営をするかは課題となる。

 

戦術その3:パートナー契約を結ぶ

金融事業者とIT事業者のパートナー契約を結べば、お互いに戦略的な広がりを生み出すことができる。

ビジネスでも異業種パートナーシップはよくあることである反面、少し怖いのは技術者側に金融のノウハウが移動してしまって、後々算入されてしまうリスク。

金融は基本的に規制でがんじがらめの利権産業なので、比較的安定しているかもしれないが、ここは中長期的には心配。

 

戦術その4:スタートアップを買収する

もっともシンプルな解決策。欲しいと思った技術ごと買収して自分のものにしてしまう。

唯一の懸念は、イノベーションを生み出す闊達なスタートアップを買収しても、親会社が旧態依然とした文化であったりビジネス観をもっていたりすると、競争の激しいイノベーションセクターで会社は生き残れないこと。

ほぼ全てのシナリオで共通する課題だが、金融はDisruptされる側、フィンテックはする側なので、ここの溝をきちんと埋める工夫なしにイノベーションを取り込もうとするのはかなり難しいと思う。

 

戦術その5:自社の子会社を立ち上げる

これができたらベスト。自社内ベンチャーでできるまでの人材と柔軟性がある会社は是非やるべし。

拡大するための戦略的買収も合わせれば、非常に大きな成長機会がある。

 

戦術その6:業界のコンソーシアムを作る

これはインタビューでなるほどなと思った点。

金融は基本的に複数アクターの間での取引を仲裁する仕事だけに、自社だけがイノベーションに適応しても、取引先が対応していなければ意味がない。

従って、メジャープレヤーこそ、業界をまとめて新しい技術が包摂されるリーダーシップを取る必要がある。

 

戦術その7:何もしない

この選択肢を聞いたときは思わず「そんなアホな!」と関西人ばりのツッコミをしてしまい、喫茶店で恥ずかしい思いをしてしまった。。。

これは、Standard and Poorsの戦略のことを言っているようなんだけど、「フィンテックが影響を与えている分野は必ずしも金融の全てではないから、別に影響ないなら何もしないのが賢明だよ」というコメントに愕然としてしまった。

彼は自社の事業を例にとって、「例えば、企業のクレジット格付け評価はエキスパートによる分析と判断を要する専門的な・・・」みたいなことを言っていたんだけれど、これはFacebookのプロフィールや携帯の支払い履歴データから個人の信用度を測るベンチャーや、機械学習を用いて従来の株式分析以外のデータから企業の業績を予測するヘッジファンドなど、「金融分析」の世界が無限に広がる今の時代には全く通用しない。(しかもS&Pはじめとする格付け機関のやり方は完璧には程遠いことはコーポレートファイナンスをやった人ならわかるはず!)

少なくとも今の規制のもとで地位を確立した少数プレーヤーを中心に構成される金融セクターに影響されない分野など皆無に等しいこということは確かだと思う。

まあ、そんな話が出てくるのも、単なる座学だけじゃなくて主要プレーヤーの生の声を聞けるこのプログラムの長所ではないかと思います。

ノーベル賞受賞者の発表について

ノーベル医学・生理学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授の大隅良典の会見が話題になっていたようなので、印象的だったコメントを引用してみる。

ちなみに、個人的にはブラウン大学の Michael Kosterlitz教授が物理学賞を受賞しているのが胸アツで、同じく物理学賞を受賞しているLeon Cooper教授のクラスを思い出した(ブラウンでは、こうした最高の教授が、1年目の入門編の授業を教えていた)。

Brown’s J. Michael Kosterlitz wins Nobel Prize in Physics | News from Brown

 

野心のタイムライン

今回の受賞が特に注目された理由として、受賞理由となったオートファジーが応用ではなく基礎研究分野であるということが挙げられる。

このことを聞いてから、「目的が応用研究ほど明確でない中で、どうやって方向性をもって20年以上も信じて研究できたのだろうか?」と考えていた。

その答えは、目前のキャリアではなく、5年10年での問題設定らしい。

若い人が少しロングタームでですね、2年間で何するというのではなく、まずは大きな問題設定ができて、こんなことにチャレンジしたいということが5年10年ぐらい先まで若者が考えて。もちろん日々は具体的なことというのに左右されますけど。こういう問題を解きたいんだと若い人たちが本当に思えて、そういうことをサポートするような社会の雰囲気というのがとっても大事なんだと思っています。

IT社会の今日、世界中の情報が専門家やプレーヤー間で同時にやりとりされる。ビジネスだって、世界中のすぐれたアイデアがネットの記事などであっという間に陳腐化する。それだけに、原点を持つことが大切で、それは「現象」なのだとか。

ただ今、生命科学はたいへんな進歩をしていて。例えばオートファジーの論文はこの頃は毎年5,000ぐらいの公表があるという時代になっています。そういう情報のなかで、それを全部自分で消化するなどということは到底不可能だと私は思っています。なので、実際私は、若い人に「自分がなにに興味があるのか?」ってことを本当によく考えてみてほしいということを思います。それは、論文のなかの1つの遺伝子に注目するということでは、大きな問題はなかなか解けないんじゃないかと思っていて。私は自分で現象を見続けたところからスタートしていて。いつもそこに帰れる。私に最初に見た現象は、私のラボでは今でもみんなが顕微鏡で見ている現象で。「いったいなにが起こってるんだろう?」ということに帰れる現象を自分で持っていたというのが、どんなことがあっても続けられた1つのモチベーションだったのかなと思っています。

 そして、それを裏付けるのは、科学自体にゴールはなく、次から次へ湧き出る疑問に答え続ける終わりのない世界だというのは、科学だけに限らないのだと思う。

実際に研究をスタートしてからは、これがノーベル賞につながる研究だなどということを思ったことはほとんどありません。これはもう正直な気持ちとして、そういうことが私の励みになったということもなかったような気がいたします。 科学というかサイエンスというのは実はゴールがなくて。なにかがわかったら必ず次に新しい疑問が湧いてくるということで。

 

サイエンスの役割

とはいえ、ビジネスベースで目的を明確化するプレッシャーは根強いらしく、そうした圧力の中での研究よりも、「社会の余裕」の大切さも強調されてきた。

上述の興味を模索する研究を応援する社会の役割とサイエンスの役割。

科学はいま役に立つことがとっても問われていますが、役に立つというのは非情なもので。役に立つというのが、来年、薬になったということだと、13年後に薬になったというとらえ方されると、本当にベーシックなサイエンスは死んでしまうと思うので。人間の長い歴史の中で、私たちがどんなことを理解していったらいいかっていうふうに思うかということをとても大事にする社会。

 これは実業についてもレベルの違いはあれ、通じるのではないか。

「これをやったら必ずこういういい成果につながります」ということを、サイエンスでいうのはとっても難しいことだと思います。なので、もちろんすべての人が成功できるわけではないんだけど、そういうことにチャレンジするというのが科学的な精神だろうと私は思っているので。

 

日本の研究システムが抱える課題

問題はお金だけではなく、チーム。これは日本企業のイノベーション課題と同じ気がする。そもそもリソースがなかったり、あっても共通のゴールに向けたアラインメントができていなかったり。

日本のシステムは個人研究になっていて、なかなかみんなでシェアしながら共有しながらというシステムができませんね。ケンブリッジにに関しても、私びっくりしたのが、ケンブリッジに行って、ファシリティみたいなのをめちゃくちゃ作って、若い人は何でもそこで使えるというような、そういうことにお金がかけられている。

 

logmi.jp

 

 

www3.nhk.or.jp

事業開発の考え方

マクロでみれば、業界の規模や海外の事例をみて、それと手が届く領域のマトリクスを考える方法。

ミクロで見れば、いろいろなステークホルダーに聞き取りをして、そこから情報をとって中に入り込むやり方。

社外の情報収集もぬかりなく。

やる事が山積している。存分にやる時が来たと確信する。